5%の賃上げ要求を考える
今週、連合が5%の賃上げを求めたことが話題になっています。各社が賃上げに向けた動きをとっている中で、さらなる高みを求める内容です。
10月19日の日経新聞記事「連合「賃上げ5%程度」 春季労使交渉、物価高ふまえ方針」を一部抜粋してみます。
これを受けて、経済同友会の桜田謙悟代表幹事は「平均として5%は相当厳しい」と語っています。
同記事に関連して、3つのことを考えました。ひとつは、物価上昇という環境変化を踏まえた賃上げを実現させることが、有力企業の社会的な責任のひとつだということです。
2010年台の景気拡張、それから直近の景気回復によって、企業が保有する現預金は281兆円となっています。これは、10年前に比べて1.7倍の水準です。一方で、従業員向けの給与・賞与は10年前に比べて4%しか増えておらず、労働分配率は下がる傾向にあります。つまりは、この間従業員への還元が十分だったとは言えないということです。(数値は日経新聞記事参照)
総務省の消費者物価指数(生鮮除く総合)によると、8月の物価上昇率は昨年同月比で2.8%です。このペースで物価上昇が続くと、理論上は2.8%以下の賃上げであれば、実質賃金はインフレに負けてマイナスになってしまうということになります。
5%もの水準で賃上げを実現させるかどうかはともかく、物価高への一定の配慮をした上で賃上げを検討するのは、特に利益を増やしている企業にとっては社会的責任の一端だろうと考えます。
2つ目は、賃上げをコスト増ではなく人材投資だと認識して、積極的な賃上げで自社に必要な人材の獲得競争を進める視点の大切さです。
日銀による雇用判断DI(過剰-不足)の指標は、2013年以来マイナスの状態が続いています。つまりは、コロナ禍の景気低迷期にあっても、人材不足は解消されてなかったということです。同指標のマイナス数値が最も大きかった2018年に比べると今は程度が小さいマイナスですが、いずれさらにマイナス幅がまた大きくなり、人材不足の度合いが高まることが想定されます。
例えば、内閣府の「国民生活に関する世論調査2021年9月」を参照すると、次のような内容があります。聞き方にもよると思いますが、労働者にとって賃金の重要度はやはり高いことが見て取れます。
・働く目的:全世代の回答結果で、「お金を得るために働く」が他の選択肢(「自分の才能や能力を発揮するため」「生きがいを見つけるため」など)を押さえてトップ。10代~50代は70%以上が働く目的について「お金を得るために働く」と回答。
・理想的な仕事:全世代で「収入が安定している仕事」が「私生活とバランスが取れる仕事」や「自分にとって楽しい仕事」の回答などを上回る。
賃金は、最終的な働きがい・仕事のやりがいにはならないと言われているものの、不満や不安、不公平感を解消するうえではやはり重要なものです。経営側としては、この視点も含めて、賃上げが人を集める上で欠かせない投資だと認識し、取り組むべきでしょう。
3つ目は、従業員の側としては、生産性・成果を高める意識と行動が必要だということです。
(過去の従業員への還元が十分ではなかったとしても)基本的な考え方としては、GDP(生み出した付加価値額)が5%(名目)以上上がれば、賃上げ5%も可能です。しかし、今の日本の経済成長率(≒各社の生み出す付加価値額増加率の平均と見立てて)は5%を大きく下回っています。
経営の立場からは、あるいは一般論として、従業員が5%の賃上げを目指したいのであれば、経営と一体となって5%の付加価値拡大を目指した仕事のしかたをしていく意識と行動が、前提として求められると思います。
本格的な賃上げの検討は、国際競争力・日本の国の魅力を高めるためにも、避けて通れないテーマです。これまでに増して向き合うべきテーマになっているということを、冒頭のニュースからも見て取るべきだと思います。
<まとめ>
いよいよ1990年代前半以来の、高い賃上げ水準を考えるべき状況となっている。
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