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遠隔地採用という考え方(2)
9月12日の日経新聞で「USJ、アルバイト厚遇 人手不足で全国募集 大阪への転居費や家賃、祝い金10万円」というタイトルの記事が掲載されました。
同記事の一部を抜粋してみます。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)を運営するユー・エス・ジェイが「クルー」と呼ぶアルバイトを全国で募集し始めた。祝い金10万円や家賃補助など手厚い待遇を提示し、関西以外から105人を採用した。
2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)開催に伴う来園客の増加を見据え、深刻化する人手不足に対応する。
アトラクションやレストラン、ショー、技術などを担当し、フルタイムで働くアルバイトスタッフを募る。従来は関西圏で採用してきた。ユー・エス・ジェイには22年末時点でアルバイト約9300人が在籍する。
募集時の時給は接客・サービス系の仕事で1160円と近畿の同じ職種などと比べて特別に高額ではないが、手当は破格だ。
関西以外から採用が決まった人には祝い金を出す。支給後の早期離職を防ぐため、働き始めた翌月に5万円、翌々月に5万円と分けて払う。
大阪への引っ越し代や、住居の下見費用、敷金・礼金、家賃補助も出す。契約期間3カ月~1年の更新時に仕事ぶり次第で正社員への登用も想定するなど、人材の引き留めを意識する。
アルバイト採用でここまで補助を出すケースは稀で、破格と言えるでしょう。
以前の投稿「遠隔地採用という考え方」では、遠隔地採用で成果を上げた企業様の事例を取り上げました。次のような概要でした。
・本社所在地のある県からはるかに離れた県で求人広告を出して社員を募集した。本社のある県より有効求人倍率が低い県を募集のターゲットにした。
・採用された社員は、3か月間(試用期間中)は同社様が手配した住居等で生活しながらOJT・勤務する。食事など個人負担もあるが、住居費などの個人負担がなく働き始めることができる。自社の理念に共感する志向の持ち主(及び採用試験をパスした人)であれば前職の職種も不問で、採用後の資格取得支援も同社様が手厚く行った。
・試用期間が終わり本採用となったら、もと居た県から正式に居住地を移転する。移転のための費用も会社が負担する。
・想定以上の反応があり、必要人員数の本採用が決まった。
有効求人倍率(1人あたりの求職者に対して、どれだけの求人数があるのかを示す指標)は、全国一様ではありません。地域や業種、職種によっても違いがあります。近隣で集まらなければ、遠隔地から集めるのは有力な方法です。
2023年7月の有効求人倍率は、全国で1.29です(厚生労働省データ)。地域別では、最も高いのが東京都の1.79です。1人の求職者に対して、1.79の求人があるということです。よって基本的に、東京エリア内だけですべての求人が満たされることはありません。
意外にも、最も低いのは神奈川県の0.92です。東京都内とは逆で、神奈川県内にいる求職者は、県内では働き口が満たされきらないことになります。隣にある東京都内の求人に引き寄せられる構図が容易に想像できます。
2番目に高いのが福井県の1.76、3番目が石川県の1.60となっています。富山も1.43、岐阜も1.56と高く、この辺りのエリアだけでは求人と求職のバランスが完結しないことが分かります。
関西圏の経営者様とお話すると、多くの方から「万博の準備は相当ひっ迫している」と聞きます。大阪府の有効求人倍率は現在1.30です。これから当面、日本で最高レベルに向けて有効求人倍率が高いエリアになっていくことが想定されます。USJのような有力企業であっても採用難は確実なわけで、それに対して今のうちから手を打ったアクションと見受けられます。
記事には「関西以外から105人を採用」とあります。それなりに興味を持って乗っかる人がいることがうかがえます。上記企業様の例でも、遠隔地採用された人が例えば「この機会に生活を大きく変えようと思った」と言っていたと聞きました。採用の可能性を広げる発想のひとつとして、参考になると思います。
「そこまでする必要があるのか」という意見もあるかもしれませんが、採用には広告やスカウト、内定辞退や早期離職への対応といった多くのコストがかかっています。遠隔地採用はうまくやれば十分コストに見合うやり方だと言えます。外国人採用も、言ってみれば遠隔地採用の一種です。
そのうえで、自社として求職者に何が提供できるかの整理が大切だと考えます。USJは、マーケティングを研ぎ澄ませてV字回復した組織として有名です。そこで働く経験はそれ自体が貴重で、その後の職業生活の財産にもなると想像できます。
上記事例にあげた企業様も、社員が得られるものとして「同業他社では経験できないような○○の職場を目指している」を、社長が自信をもって語っていたのが印象的です。単に「近くで雇う人が見つからないから仕方なく遠くから呼ぶ」だけでは、うまくいかないのではないかと思います。
外国人採用も同じで、何も採用の考え方がなく、単に「日本人を雇えないから外国人を雇おう」だけだと、うまくいきません。
補助が出るとはいえ、求職者にとって生活圏を変えるのは大きな決断です。それをしてでもこの職場で得られるものがある、と感じてもらうことが必要だと思います。このことは、遠隔地採用に限ったことではなく、採用活動全般で言えることですが。
<まとめ>
自社に合う志向の持ち主がいるのは、近隣エリアだけとは限らない。