消費回復のデータを考える
11月26日の日経新聞で、「「飲み会」支出2.5倍 消費回復じわり」というタイトルの記事がありました。同記事を一部抜粋してみます。
~~個人消費に回復の兆しが出てきた。新型コロナウイルス禍で打撃を受けた百貨店や外食で売上高が回復している。緊急事態宣言の解除から約2カ月がたち、懸念されたコロナ感染再拡大が見られず、消費者心理が改善しつつある。
「イベントや外食の機会が増え、服を新調したいというニーズが強い」(高島屋)。日本百貨店協会(東京・中央)が25日発表した11月1~17日の全国百貨店売上高は、前年同期と比べ約7%増と10月(2.9%増)より増加幅が拡大した。
11月前半の売上高が前年同期比1割増の三越伊勢丹では、巣ごもりで不振続きだった衣料品が動き出した。冬物衣類が復調しており、伊勢丹新宿本店(東京・新宿)で11月23日時点でコートの売り上げが10月の累計売り上げを上回った。「鈍かった中間層の購買が戻ってきた」(三越伊勢丹)
外食でコロナ前の売り上げになる企業も出ている。「焼肉きんぐ」を展開する物語コーポレーションによると、主力の焼き肉部門の10月の既存店売上高は前年同月比約1割増でコロナ前も上回ってきた。「11月も10月の好調を維持した売り上げ水準になりそうだ」(広報担当者)という。
旅行需要も戻りつつある。日本旅行によると、11月22日時点で、12月の旅行予約人数は19年比55%まで回復。10月25日時点では35%だったが、「この1カ月で堅調に予約が増えた」(担当者)。~~
データの把握・分析で必要となる要素のひとつは、対象となる項目を時系列で一定期間分の動きとして捉えることです。前年同月比(2020年の10月や11月と比べての、2021年10月や11月)で見ると、上記の通り増加傾向が伺えます。
しかし、2020年の10月や11月が2019年と比べてそもそもどういう状態だったのか、またコロナに関係なく既に景気後退入りしていた2019年後半がその前年と比べてどうだったのかを見てみると、次の通りです。左から順に、2020年11月、2019年11月、2018年11月の対前年比増減率です。
・全国百貨店売上高前年比:-14.3、-6.0、-0.6
・旅行取扱状況:-55.5、-2.3、-6.5
つまり、景気後退入りが鮮明になった2019年より前の2018年に、既にこれら指標の11月は対前年比(2017年比)割れをしていたということです。上記記事中の「11月全国百貨店売上高が2020年比約7%増」などと言っても、2020年11月時点で沈んでいた状態の半分も回復していないということです。そして、2020年までに対前年比割れが蓄積しています。これらを踏まえると、「消費回復じわり」が力強さとしてはまだ限定的であることが改めて認識されます。
旅行業界で言えば、1年単位の通年では2020年度は2019年度比で72.9%減です。つまりは、2019年度に年間で100起こっていた旅行の需要が、2020年度には27.1に減ってしまっているような状況です。上記記事の日本旅行は、「この中の1か月分が55位まで回復した」ということにすぎません。100にはまだまだです。また、残り11か月分が同様とも限らず、同社以外の旅行社や旅館など旅行業の担い手すべてが同様とも限りません。
データの把握・分析で必要な別の要素としては、対象となる項目を別の項目や関連する項目と比べて、動きを評価することです。上記記事中の物語コーポレーションはコロナ前の売上をも上回る回復ぶりとあります。このことについて、例えば次のように展開して考察することができます。少なくとも、上記記事の百貨店や旅行業から想定すると、1.はなさそうです。こうした視点は、自社や自身に置き換えて活用できると思います。
1.他のあらゆる業界・企業の売上が伸びている→景気全体が回復・拡大中
2.飲食業界では企業の売上が伸びているところが多いが、他の業界は伸びていない→飲食業界が景気回復する理由・業界事情がありそう
3.飲食業界でも売上伸び悩みのところが多く、同社は例外的あるいは少数派である→焼肉という業態の優位性、もしくは同社ならではの営業やオペレーションの努力がありそう
なお、旅行への支出も含めた消費のほとんどを網羅しているであろう「消費支出2人以上世帯前年比」では、2020年度通年では2019年度比-5.3%です。これに対して、旅行業は-72.9%です。飲食などと並んで、旅行業がいかに打撃が大きいかが見て取れます。
ちなみに、例えばGOTOキャンペーンには様々な意見があります。是非にはいろいろな観点があると思いますが、上記のようなデータと合わせて見ると旅行業を取り巻く環境は極めて厳しく、少なくとも単なる思い付きだけの施策でもなさそうだというのが、改めて分かると思います。
加えて、観光業は半導体などと同様、国を挙げて育てたい分野であり、かつ観光資源は日本が世界で最上位の優位性を持っている分野です。国策として支援するというのは、(最終的な施策の是非はともかく)論点にすること自体はおかしくないと考えます。
<まとめ>
ある項目のデータは、時系列の視点と、他の項目との比較の視点とを加えて、考察してみる。
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