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「同胞感」が最大の強みの組織

大型歯科医療グループの「管理しない運営」(梶原浩喜氏著)という書籍を購読しました。一代で直営の歯科医院21院、歯科医師150名以上の大型歯科グループ(宝歯会)を創り上げた著者が考える、経営の本質について書かれた本で、たいへん示唆的でした。

著者が「同胞感」をとても大切にされていることを、同書の節々から感じます。「同胞感」について、同書では次のように説明されています(一部抜粋)。

~~同胞とは同じ主義主張を持った仲間という事ですが、宝歯会のスタッフは、まさにこれではないかとピンときました。院訓を共通言語として大切にしてきた私たちは、同じゴールを目指してみんなで歩んでいます。私がスタッフに対して今までとは全く違った感情を抱くようになったのは、きっと同胞感が強くなったからではないかと思ったのです。宝歯会を、そしてそこにいらっしゃる患者様を大切に思っているのは私だけではない―スタッフたちも皆、同じように思ってくれているのだ―。そう心から信じられるようになっていました。~~

以前は、小さなことまで指示したり、業務や運営のことに細かく口出ししたりするマネジメントに徹していたと言います。勤務医に自分のやり方を強要する。レベルの高い治療を目指すのはよいが、出来ないスタッフを非難する。その結果、退職するスタッフが増えていき、行き詰まっていた。その後、「管理しない運営」に目覚めてから業績が上向き、スタッフが定着するようになり、組織も西日本随一の歯科医院グループへと発展していきました。

~~院訓の唱和、研修、面談。宝歯会を生まれ変わらせるためにさまざまなことに取り組んできましたが、つまるところ、それらすべては「同胞感」を強めるためのものだったと言ってもよいかもしれません。

研修によって同胞感を強く持った人たちが院訓を徹底し、規律の中の自由を実践する。その先にあるのは、宝歯会が掲げているミッション「患者様と永く、スタッフと永く、地域の皆様と深く永くお付き合いする」そして、「業界のベンチマークになる」というビジョンです。私はこれをピラミッドのようにして考え、「世界一のピラミッド」として常に頭の中でこの図を描くようにしています。同胞感という土台がしっかりと築かれていれば、いずれは必ずミッションを達成できると思っているからです。~~

著者が考える世界一のピラミッドとは、次の通りです。同胞感が土台になっています。

ピラミッド

院訓は次の3つです。
一、 明るく元気で大きな声であいさつします。
一、 日本一きれいな病院を目指します。
一、 治療は詳しい説明の後に行います。

同胞感の強いスタッフは院訓を徹底する。徹底の度合いの高いスタッフは分院長となり他のスタッフを導く存在となる。分院長は院訓を基礎に運営するので、著者が運営に口を出す必要がなくなる。これが、著者の考える「管理しない運営」実現の流れです。

同胞感を大切にしていることから、新卒採用に力を入れているそうです。新卒採用の意義のひとつとして、その組織のDNAを継承する幹部人材の輩出を期待しやすいことが挙げられます。そのことについて、著者による「同胞感」の考え方を参考にすることで、改めて認識できるのではないかと思います。

・中途採用者は優秀な人材が多いが、既に自分のルールが決まっている方が多い。一方で、新卒者はまっさらな状態であるから、宝歯会がこれまで大切にしてきた文化が浸透しやすく、同胞感をもってくれやすい。
・現在、宝歯会の歯科医師のうち4分の3は新卒もしくは新卒同等の人材。
・毎年の採用人数に定員を設けていない。同胞感をもって働いてくれるだろうと感じる人は迷うことなく採用する。新卒採用に制限を設けないこともミッション実現への近道になる。
・1年間の研修を終えた後、大学病院などへの就職を希望する方もたくさんいる。それはそれでよい。別の場所で宝歯会の考え方を実践してくれれば、「業界のベンチマークになる」というビジョン実現も近づく。

これらの考え方が、他の組織で当てはめてそのままうまくいくとは限らないでしょう。同法人の事業、ビジネスモデル、商圏の地域性、拡大可能なフェーズにある組織のステージなど、同法人を取り巻く環境下だからこそ成り立っている面があるはずだからです。それぞれの環境下でベストなやり方はそれぞれあるはずです。特に採用のあり方は、組織によっては上記が正解とは限りません。

そのうえで、強い組織を目指していくことを考えるにあたって、「同胞感」を大切にすることの意義自体は、どんな環境に置かれている組織であっても参考になる視点と言えるのではないでしょうか。

また、歯科業界は一般的に、組織に定着するという志向性を持った人材が多くはない、離転職の激しい業界の代表格でもあると言われます。そうした既成概念からは、同胞感を基盤とした人材の定着を目指すマネジメントは、異色に思えるかもしれません。しかし、それこそが固定観念であり、「○○業界だからこれは違う」などはなくやり方次第だということも感じさせる事例です。

前回の投稿で、日本が「太陽に感謝しながらともに豊かに生きることを、人々が共通認識としてきた社会」であることを取り上げました。この認識の減退と、日本の国力や経済的プレゼンスが低下していると言われることとが、無関係ではないと思えてなりません。

コロナ禍をきっかけに、成果を上げるための組織の一体感は、いろいろなところで課題になっています。宝歯会では、コロナ禍だからこそ同胞感を一層大切にしたい、と同書で謡っています。参考になる視点だと思います。

<まとめ>
同胞感も極めればその組織の強みとなる。


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