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ナスダックの最高値更新を考える

12月13日の日経新聞で、「ナスダック、初の2万突破 ITバブルと異なる株高 「稼ぐ力」裏付け アジア市場にも波及」というタイトルの記事が掲載されました。私の周囲でも、株式市場の過熱感や景気後退の懸念について話題になることが増えたように感じます。そうした中で、ナスダックの指数が最高値を更新し続けていることについて、考察している内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

ハイテク企業の構成比率が高い米ナスダック総合株価指数が11日、初めて2万の大台を突破した。2020年6月に1万を突破して4年半で2倍になった。00年前後の米IT(情報技術)バブルとは異なり、強固な「稼ぐ力」を裏付けとした株高が続いている。

生成AI(人工知能)期待が覆う直近の株高と、インターネット普及に沸いたITバブル期を重ねる向きもある。新技術が相場を主導した点は似ているが、稼ぐ力に見合った株高かどうかという点では異なる。

例えばネットワーク機器大手の米シスコシステムズ。株価は1995年末を起点に2000年3月までに約19倍に急騰、ITバブル期を象徴する株式だった。一方でアナリストが予想する1株利益の同期間の成長率は4倍弱にとどまり、業績面の実力を伴った株高とはいえなかった。バブル崩壊で株価は急落し、投資家は痛手を負った。

対照的にエヌビディアの株価は予想1株利益の成長ペースと歩調を合わせて上昇している。米投資助言業バーニーのアレックス・シェン氏は「エヌビディアは『次のシスコ株』にはならない。市場参加者は当時の教訓を学んでいる」とみる。

投資尺度のPER(株価収益率)をみても違いは明白だ。PERは株価が予想純利益に対して何倍に相当するかを示す。ITバブル期の時価総額上位には100倍を超す銘柄が珍しくなかった。現在のPERは総じてITバブル期よりも低く、遠い将来の期待よりも実績ベースの稼ぐ力を評価した株高といえる。

強すぎる支配力は国家との対立を招く。米司法省は11月、アルファベット傘下グーグルの検索サービスの独占解消に向け、事業売却を含む是正案を裁判所に提出した。トランプ次期米大統領はSNS投稿で「巨大テック企業は長年暴走し、市場支配力を使って小規模なテック企業を弾圧してきた」と述べた。アリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパンの中塚浩二氏は「規制発動は米株相場全体にとってリスク」と話す。

同記事による示唆は、次のように読み取れます。

ITバブル期と比較して考察しても、今の株価はバブルではなく実態を伴っていると想定される。そのことは例えば、PERの視点から見ても明らかである

同記事で紹介されていた、ナスダック上場主要企業の、2000年3月10日時点(ITバブル期)と2024年12月11日時点(現在)の企業名・時価総額・予想PERの一部は次の通りです。

【2000年3月10日】
マイクロソフト・5228億ドル・54倍
シスコシステムズ・4698億ドル・113倍
インテル・4007億ドル・42倍
クアルコム・3856億ドル・111倍
オラクル・2317億ドル・117倍

【2024年12月11日】
アップル・3.73兆ドル・33倍
エヌビディア・3.41兆ドル・33倍
マイクロソフト・3.34兆ドル・32倍
アマゾン・2.42兆ドル・37倍
アルファベット・2.39兆ドル・22倍
メタ・1.60兆ドル・25倍
テスラ・1.36兆ドル・128倍

ちょうど、ある経営者様から「今の米国株は高すぎだろうか?」という世間話での問いかけがあったため、同記事をご紹介してみた次第です。

PER(株価収益率)とは、Price Earnings Ratioの略で、株価がその企業の利益に対してどれくらい割高か割安かを示す指標です。株価を1株あたりの純利益で割って計算します。

例えば、ある会社の株価が1000円で、1株あたりの純利益が100円の場合、PERは10倍になります。この場合、その企業の利益10年分で、投資された金額を全額回収できると考えられていることになります。

一般的に、PERが高いほど株価が割高とされ、低いほど割安とされます。業種や企業の成長性によっても異なりますが、平均的なPERは15倍程度と言われ、14倍に近づくと買い注文が増え、16倍に近づくと売り注文が増える傾向にあるなどとも言われています(あくまで、過去における一般論だと思われますが)。

三井住友DSアセットマネジメントサイト「市川レポート 経済・相場のここに注目」によると、12月10日時点における日経平均株価のPERは15.85倍ということです。見事に、「15倍程度」におさまっている水準です。

以上から、3点考えてみます。ひとつは、(あくまでも今の業績水準からみた場合ですが)今の株価水準はバブルではない可能性が高そうだということです。

1990年前後(バブル経済崩壊前後)は、日経平均株価のPERは50倍を超えていました。それと比較しても、今の日本企業全体の株価は落ち着いた水準にあると評価できそうです。

ナスダックの主要企業でも、冒頭の記事の通りITバブル期に比べて落ち着いた水準にあると評価できそうです。アップルの場合、今投資すれば、今の利益が続いた場合33年で回収できることになります。

ただ、この33年は「今の利益が続いた場合」です。例えば、来年以降10年間平均で今の3倍の利益を出し続けた場合、10年ほどで回収できることになります。よって、この33倍が高すぎるとは一概には言えません。

逆に言うと、今後も利益を伸ばしていく有形・無形資産と事業ビジョンを描いていると投資家から評価されているのだろうと、見ることもできます。同記事中にある「エヌビディアの株価は予想1株利益の成長ペースと歩調を合わせて上昇している」というのは、まさにそのことに当たります。

一方で、ITバブル期の100倍やバブル経済期の50倍などは、どうでしょうか。同記事中にある専門家の指摘では、実態が伴っていなかったのではないかということが言えそうです。

その意味では、12月11時点のPERの中では、テスラの128倍が目を引きます。これが、いずれ1株当たり利益(≒会社の業績)が飛躍していくことで落ち着いた水準に収束していく、よって割高ではないと言えるのか、それとも極端な期待先行で買われた割高なのかは、今後注目したいところです。

2つ目は、日本株ももっと買われるようになっていくべきではないかということです。

米国のナスダック指数もS&P500指数も、(時期・局面によって上下しますが)これまでの実績でPERは概ね常時20倍を超えています。このことからは、全体的な傾向として、15倍程度の日本株に比べて米国株が買われているということになります。

買われているということは、市場の期待を集めることにつながる、新事業や研究開発、人的資本への投資を行い、それによる事業展開のポジティブな見通しを発信し、投資家を惹きつけているということが言えます。この点は、日本企業全体も意識してよい点だと言えるのかもしれません。

3つ目は、データを時系列で比較してみることです。

「初の2万を突破したナスダックは、行き過ぎなのかどうか」という問いに、判断材料が何もなければ考えようがありません。例えばPERという判断材料をもつことで、考察する一助となります。

PER何倍が適正なのかというのは、どこまでいっても正解はわかりません。そのうえで、データの推移から現状をとらえるという点は、有効だと思います(もちろん、PERは指標のひとつにすぎません。他の判断材料も見る必要もあります)。

判断材料となるデータを定義し、時系列で評価する。投資に限らず、この視点は私たちの周囲の活動でも有効だと思います。

<まとめ>
判断材料となるデータを定義し、時系列で評価する。

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