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出社回帰を考える

9月27日の日経新聞で、「経営者「出社求む」8割 KPMG調査、昨年比19ポイント増」というタイトルの記事が掲載されました。コロナ禍で出社できない状況への対応が後押しとなって広がったリモートワークですが、その揺り戻しで出社を促す動きが進んでいることを取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

世界の企業で「出社」を求める機運が出始めている。KPMGインターナショナルが世界約1300人の企業経営者に実施した調査によると、3年以内に「従業員がオフィス勤務に完全復帰する」と答えた経営者が8割強に達した。米アマゾン・ドット・コムは社員に週5出社を求めており、在宅など勤務のあり方が再び注目されている。

KPMGは8月下旬までに調査を実施し、米国や日本など世界11カ国の約1300人の経営者から回答を得た。「オフィス勤務に完全復帰する」と答えた経営者は2023年から19ポイント上昇し83%になった。同時に、全体の87%の経営者が、頻繁にオフィスに勤務する従業員に対しては「昇格や昇進などで報いる可能性がある」と回答した。

在宅勤務やテレワークは、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大後に急激に普及した。感染が収束してからも、新しい勤務体系の一つとして、日本を含めた世界中の企業で定着していた。

足元では在宅勤務を再び見直す動きが強まっている。アマゾンは16日、25年1月から週5日出社を義務付けると発表した。小売り最大手の米ウォルマートも原則出社の方針という。日本でも以前より、出社を求めたり、促したりする声が増え始めている。

世界で1300人の経営者の83%、つまりはほとんどの経営者が、オフィス勤務への完全回帰を目指しているということになります。オフィス出社に回帰する動きがあるということも聞かれるようになりましたが、想像以上だというのが見てとれます。

とりわけ、発言力、影響力の大きいアマゾンの動きが、注目度が高いようです。

日経新聞の関連記事で、9月17日の「Amazon、社員に週5日出社義務付け 米巨大テックで初」からも一部抜粋してみます。

アマゾンのアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)が従業員宛てのメモを公開した。同氏は「過去5年を振り返り、オフィスで一緒に働くことの利点は大きいと確信している」と記した。社員同士が学び合ったり新たなアイデアを生み出したりするには、在宅勤務ではなく出社が効果的だと説明した。

アマゾンには倉庫作業員らを含め、24年6月末時点で世界に153万人の従業員がいる。物流にかかわる従業員は出社が必須の業務が多い。今回の指示はオフィスで働く事務系や技術系社員を対象にしている。

アマゾンは西部ワシントン州シアトルと東部バージニア州アーリントンの2カ所にある米国本社では、フリーアドレスの採用をやめて固定の座席に戻すとも明らかにした。

アマゾンはコロナ下のIT(情報技術)特需によるネット通販事業の拡大にあわせて従業員が急増した。コロナ前の19年12月末の79万8000人から、ピークの22年3月末は162万2000人と2年あまりで2倍に膨らんだ。20年〜21年半ばまで、アマゾンの売上高も前年同期から約3〜4割増の成長が続いた。

ただし、組織が急拡大するなかで、熱心に働かない社員が目立つようになったほか、中間管理職が必要以上に増える問題が起きた。コロナ特需が落ち着いて成長が減速した22年秋以降、本社部門を中心に計2万7000人の大規模な人員削減に踏み切った。人員を減らした後、働き方にもメスを入れるようになったのが現状だ。

アマゾンの週5日出社強制は「企業文化」を強固にする狙いという。ジャシー氏は「当社の独特な文化は、過去29年の成功の最も重要な要素の一つだ」と指摘した。在宅勤務を続けていては、社員の当事者意識の強さや素早い意思決定、倹約といったアマゾンの文化の維持が難しいと判断したという。

働き方と合わせて組織の構造も変える。25年3月末までに、管理職のマネジャーに対する現場担当者の割合を大幅に増やす。管理職の採用を増やした結果、組織に階層が増えたことを問題視した。

ジャシー氏は「意思決定会議のための事前会議に向けた事前会議」が開かれるようになったと指摘した。フラット化して会議や社内承認プロセスを減らし、素早く動けるようにする。
ジャシー氏は社内に「官僚主義についての目安箱」を設けたとも明かした。過剰に入り組んだ手続きやルールによる無駄を省くため、社員がジャシー氏を含む幹部に直接声を上げられるようにする。

社員からは反発の声も上がりそうだ。アマゾンなどテック大手はここ数年、一定の在宅勤務を前提に採用してきた。コロナ前と比べオフィスから遠くに住む社員が多い。23年には週3日の出社方針に反対するアマゾン従業員の一部が本社地区でストライキに参加した。

シリコンバレーを中心としたテック企業では新型コロナ収束後、週3日の出社と在宅を組み合わせる「ハイブリッド勤務」が定着した。ただテック企業の経営者の間では、生産性を高めるには出社が望ましいとの見方が広がっている。

米テスラのイーロン・マスクCEOや、米新興企業オープンAIのサム・アルトマンCEOは在宅勤務に否定的な考えを示している。グーグルのエリック・シュミット元CEOもこのほど古巣を批判し「グーグルはワーク・ライフ・バランスや早めの帰宅、在宅勤務を(ビジネスで)勝利することよりも重要だと判断している」と述べている。

オフィス回帰のテーマに限らず、トレンドや他社の動向は参考にしながらも、「他社がそうするから自社も」ではなく、自社としてどうしたいかの判断軸をもつことが大切なのだと考えます。

オフィス回帰のテーマに対して、自社としての判断軸をもつためにどのように向き合うとよいのでしょうか。同記事も参考にすると、業務プロセスに関する要因とコミュニケーションに関する要因の切り分けが、ひとつ大きなポイントになるのではないかと考えます。

例えば、記事にあがっている倉庫作業は、倉庫という場所と仕事とが紐づいているため、リモートという形はとれません。これを在宅ワークで置き換えようとするなら、倉庫を家に設置する必要があります。必然的に成り立ちません。

オフィスでの電話対応については、どうでしょうか。

例えばある企業様では、電話をすべて転送できるようにし、オフィス以外の場所でもオフィスにかかってきた電話をとれるようにしました。このことによって、オフィス出社は来客対応ができるための最少人数による持ち回りで行うこととし、事務員のリモートワークを可能にしました。他の作業は、リモートワーク専用のPCを貸し出すことで可能にしています。

そのうえで、このやり方でリモートワークを行うのは、ある程度業務に習熟した社員に限られているそうです。電話を受けて適切な対応がやり切れるスキルが十分に身についている社員はよいが、まだ十分に習熟していない社員は、適切に対応できているかの周囲による確認や、本人が周囲に対応方法を質問するためのコミュニケーションなどが必要なため、リモートワークという形態が相応しくないと考えているためです。

同社様の例では、電話対応という業務に係るプロセス自体はリモートワークが可能なものの、コミュニケーション上の課題があるケースについてはリモートワークという形をとっていないわけです。一方で、コミュニケーション上の課題がないケースではリモートワークという形をとっています。

また、完全リモートワークにしている事務員はいないそうです。来客対応や入社間もない社員へのフォローのための出社当番を回すことで、最低でも何日かに1回は出社することになります。また、事務員全体で取り組んだほうがよいタスクやミーティングの予定があるときは、全員出社としているようです。

同社様のようなイメージで、

・リモートワークが成立する(あるいは成立しない)要因を、業務プロセスそのものとコミュニケーション領域とで分けて考える

・コミュニケーション領域の要因によるものは、どのような方法なら解消(あるいは最小限に軽減)できるのかを明確にして、対処する

・そのことによって何かの課題が出てくれば、新たに対応する

といった整理は、意外とできていないことが多いものです。こうした整理を自社なりに進めれば、リモートワークというテーマについての自社なりの答えに近づくことができるのではないかと思います。

とはいえ、冒頭の記事にも見られるように、このような整理だけで簡単に解決するテーマでもなさそうです。
続きは、次回以降に考えてみたいと思います。

<まとめ>
リモートワークの成立・不成立について、業務プロセスに関する要因とコミュニケーションに関する要因とに分けて整理してみる。

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