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外国人人材にとっての衛生要因を考える

11月15日の日経新聞で、「〈小さくても勝てる〉外国人材、中小企業が支え 帰国休暇に補助/日本人社員が現地語 働きやすい環境整備」というタイトルの記事が掲載されました。日本人の労働力人口が減っていく環境下で、支援できることを幅広く充実させて外国人人材を受け入れる取り組みを紹介した内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

「ガス!」。吉野杉の産地、奈良県大淀町で住宅部材を加工する赤庄産業では毎日の朝礼で不思議な挨拶が交わされる。GREETING(挨拶)、ADVICE(助言)、SHARE(情報の共有)の頭文字をとった同社の造語だ。

「日本人も外国人も等しく理解できて、発しやすい言葉が欲しかった」と向井嘉隆社長。従業員60人のうち4分の3がベトナム人で、工場長もベトナム人だ。2019年に初めて外国人を採用して以来、彼らが働きやすいように社内制度を整えてきた。

母国への帰国休暇はその一つ。毎年1~3週間の連続取得が可能で、期間に応じて3万~6万円の交通費も補助する。「日本人はお盆や正月に一斉に休むが、外国人は家族の結婚や手術などに合わせて柔軟に取れるようにした」(向井社長)

社長と役員が話し合うだけだった人事評価もコンサルティング会社に依頼して制度化した。外国人は給与明細を同僚と見せ合うことが多く、評価への不満がたまりやすいためだ。現在は20以上の項目を点数化し根拠を明確に説明できるという。

同社は生産品目を和室向けから洋室に広げたことで、5年間で売上高を約3倍に伸ばした。「外国人材がいたから、成長路線へカジを切れた」と向井社長は振り返る。

とはいえ、日本人が多い職場では周りと同じような行動を求める同調圧力がかかり、外国人のやる気をそぐおそれがある。それを防ぐため、外国人が過半の部署をこの5年で7つも立ち上げたのがネジ商社の藤本産業(大阪府東大阪市)だ。

「前例にとらわれずに仕事ができるため、外国人は生き生きとしている」と藤本社長。ネットでの問い合わせが5倍になるなど実績があがるにつれて、日本人社員も彼らの能力を認めるようになったという。

社員教育も外国人対応で変わる。板金プレス加工の協和プレス工業(和歌山県紀の川市)が重視するのは言語だ。同社で働く外国人の母国語を、日本人社員に学ばせており、タイやミャンマーなど9カ国語にも及ぶ。

毎日の朝礼では「おはよう」「ありがとう」といった会話を復唱する。社内の公用語は日本語だが、野村壮吾社長は「言語を理解しようとする姿勢は、相手の文化に対するリスペクトであり、信頼関係を深められる」とみる。

同社は社員に国の技能検定を受けるよう勧めており、合格した社員は先生となって若手に対策を教える。タイ人のウォンクーン・パッチャラポンさんは「合格すれば一緒に喜ぶ。国籍の違いは気にならない」と話す。

20年ごろから外国人社員を増やしてきたが、新型コロナウイルス禍の混乱期を含めても離職率は年8%程度にとどまる。野村社長は「大企業に比べて給与は劣っても、人間関係の良さでは負けない」と自信を見せる。

先日訪問した企業様で、今度ベトナム人3人と新たに採用面接することにしたというお話を聞きました。1人既に働いているベトナム人の先行事例があるのですが、同僚の評価曰く「2人分熱心に働いてくれる」ということのようです。

「○○人」とひとくくりにするのは必ずしも適切ではなく、一人ひとり特徴があるわけですが、受け入れ体制いかんで外国人人材が有力な戦力になるという点は間違いないと改めて感じます。

同記事で共通しているのは、賃金以外の要素も重視している点だと感じます。

賃金はもちろん重要です。外国人労働者の多くがアジア圏からの出身ですが、来日の主目的は就業機会と賃金の獲得です。低賃金による低待遇では、よいマッチングには至りません。仕事や職能などが同じ日本人に払っているのと同等の賃金であることが必要です。

そのうえで、賃金以外の要素も大切です。中でも、衛生要因、動機づけ要因のうち、まずは衛生要因の整備です。

「二要因理論」(ハーズバーグ)で提唱されている「衛生要因」「動機づけ要因」の考え方で、動機づけ要因とは、なくてもただちに不満にはならないものの、あればあるだけ仕事に対して前向きになれて満足度が高まるものです。例えば、仕事の達成感、影響力の拡大、自己成長などです。

これに対して衛生要因とは、整備されていても満足につながるわけではないものの、整備されていないと不満につながるものです。例えば、賃金、作業環境、休日・休憩、福利厚生、人間関係、上司の監督、会社の方針や管理体制などがこれにあたります。

外国人従業員が失踪したり、失踪しないまでも急に退職希望を出してきたりする例はよく聞きます(日本人であっても期待した矢先の退職希望は多いのですが)。その理由が本人特有の事情の場合もありますが、多くは衛生要因の不足によるものと思われます。

安全な就業機会と賃金を求めて来日するわけです。国・文化圏が異なれば、何らかのトラブルになりやすくもあり、そうした先行事例が多少あることも聞いたうえで来日します。よって、不安を抱えながらの就業になります。まずは、安心して就業でき、1人の人材として認めてもらえているという実感が得られなければ、動機づけや働きがいの話には至りません

冒頭の記事の事例は、帰国補助制度、評価制度、人間関係など衛生要因の充実を取り上げたものがいくつか紹介されていますが、ポイントは、日本人同士だとあまり意識しない視点に一歩踏み込む、ことではないかと考えます。

例えば挨拶です。

挨拶が大切だというのは、会社のすべての人が同意することで、反対する人は誰もいません。そのうえで、挨拶が不活発な状態でもあまり問題視されず、不活発な状態ながらあまり支障なく皆が仕事をしているという職場も多くあります。

しかしながら、外国人従業員の場合言葉の壁もあるため、全コミュニケーション活動における挨拶の占める割合・重要度は、日本人同士以上に高まると言えます。よって、挨拶が活発に行われるという環境を整備するだけでも、外国人従業員にとっては日本人以上に衛生環境の充足につながる可能性があるわけです。

さらに、日本人の既存従業員が、本人の出身国での挨拶言葉を学んで使おうとするということは、「あなたのことを受け入れている。あなたのことを理解しようとしている」というメッセージになり、本人の「存在承認」(自分の存在が認められている。ここにいてもいいということ)の実感にもつながります。

法令に反するようなハラスメントがあるなどは論外として、そこまでいかないものの、外国人従業員にとっての衛生要因が未整備という企業は多いと言われます。同事例のようなイメージで「日本人同士だとあまり意識しない視点に一歩踏み込む」で取り組むとよいと思います。

<まとめ>
基本的な衛生要因が欠落していないか、振り返ってみる。

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