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長期投資の視点で「貯蓄から投資」に向き合う

「貯蓄から投資」 以前から叫ばれていましたが、今年に入ってから新聞等で見かけることがさらに増えたテーマだと感じます。少額投資非課税制度(NISA)の制度改定などもあって、ますます注目されるテーマになっています。

会社員などの一般投資家が、投資に対してどのように向き合うとよいかの基本原則を、改めて2点考えてみます。ひとつは、短期売買ではなく長期投資の視点で行うべきだということです。

一般投資家が短期売買に向かない理由は、2つ考えられます。ひとつは、経済の成長にあまり寄与しないからです。株式など取引価格が都度変動する金融商品の短期売買は、シンプルに考えれば、鈴木さん(仮称)の買いは佐藤さん(仮称)の売りとセットです。買いと売りがないと、売買が成立しません。

ということは、商品の持ち主が鈴木さんから佐藤さんに移転し、両者が少しずつ負担した手数料が証券会社等に移転するだけで、パイの大きさは変わりません。鈴木さんが得したとして佐藤さんが損をしているということです。つまりは、短期的な視点では、競馬などと同じ投機にすぎないと言うことができます。

短期売買で利益をあげてそれを生業としているデイトレーダーや利益を上げることにコミットしているファンドマネジャーなどは、テクニカルなチャートなども分析し、売りまたは買いを有利に行えるであろうタイミングを見抜いて売買しているはずです。だとすると、自分が同じ土俵で利益を上げたいと思えば、そうした人たちと同じぐらいの知識を身につけて日々の情報収集をしないといけないことになります。会社員などの一般投資家には、なかなか難しいと思われます。

もうひとつの理由は、多くの人が短期売買ならではのストレスに耐えられないからです。8月20日の日経新聞の記事「投資判断を誤る心理のワナ」で、短期売買を成功させるのが心理的に難しい点について分かりやすく説明されていました。以下に一部抜粋してみます。

「なかなか踏ん切りがつかなくて……」。東京都内の女性会社員Aさん(30代)はため息を漏らす。2021年秋、Aさんはコロナ禍からの経済再開で株式相場が上昇していると知り、個別株投資に乗り出した。買ったのはフリマアプリ大手のメルカリ株。既に同社に投資していた友人から、巣ごもり需要を追い風に株価が上がっていると聞いたからだ。

しかし「周りが買っているからなんとなく」手を伸ばしたことが裏目に出た。メルカリ株はAさんが買った時点をほぼピークに下落に転じ、足元の株価は3分の1程度で推移。Aさんは数十万円の含み損を抱えつつも、同社株を「塩漬け」にしている。

「頭では損切りの必要性を分かっているのに、実際に損失を確定するのが嫌でつい持ち続けてしまう」ような心理は、行動経済学で「損失回避バイアス」として説明される。02年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン・米プリンストン大学名誉教授らの「プロスペクト理論」の中核をなすバイアスだ。

利益と損失の金額が同じ場合、利益から得られる快感を1とすると、損失の苦痛は2~3倍ともいわれる。損したときの苦痛は得したときの快感より大きく、人は損失を先送りする傾向があるとされる。慶応大学大学院の小幡績准教授は「人には自身の誤りを認めたくないという心理が働き損失を避けがち。その意味で株は買うときより売るときの方が圧倒的に難しい」と指摘する。

損失を避ける心理は、利益の場面でも投資行動に影響する。利益が膨らんでも、その利益に対する喜びは小さくなっていく。これは、買った銘柄が値上がりすると、早めに売って利益確定しやすいことを示唆する。損の出ている銘柄を早めに損切りして損益通算すれば税制上のメリットもあると理解していても、利益が出ている銘柄を先に売ってしまった経験を持つ人は多いだろう。

損失回避バイアスと合わせて、私たちが陥りやすい心理と投資行動について同記事では次のように説明しています。Aさんは、損失回避バイアスとハーディング現象の組み合わせで投資がうまくいかなかったと捉えることができます。ストレスを引きずった状態の様子から、勤務先の会社での仕事のパフォーマンスも下がっていそうです。

・損失回避バイアス:利益と損失は同じ金額でも損失の方を重大に感じる。利益確定は早いが損切りは遅れる。

・ハーディング現象:安心を得ようと周囲に追随したり同調したりする。値上がりし過ぎと思いながらも投資に積極参加する。

・メンタルアカウンティング:自身の心でお金を色分けする。投資で得たお金は仕事で得たお金より簡単に使う。

・自信過剰:自分の能力に自信を持ちすぎる。過剰な取引を繰り返して損失を出す。

同記事では、上記のような陥りやすい心理に対して、心構えと対策について例えば次のように紹介しています。(一部抜粋)

・「1割下がったら損切り」などマイルールを決めておく
・目先で下落してもろうばい売りをしない
・損失が膨らんでも「一発逆転」狙いの投資をしない
・自身の「応援株」への投資を避ける(自身が好きな商品・サービスを手掛ける銘柄を買うと、冷静な投資判断が難しいため避けるのが無難という考え方)
・時には投資を休むことも考える

そうは言っても、損失回避バイアスをはじめとする陥りやすい心理を振り切って、これらの行動を徹底できる人は少ないと思います。私の知人でデイトレーダーの人がいますが、全保有銘柄に自身の決めた損切ラインで逆指値注文(指定した値段まで来てしまったら自動的に手放す注文)を入れていると言います。口癖は、「投資で全勝はあり得ない」です。利益を上げる人は、こうした行動を徹底できるのでしょう。

デイトレーダーなどの人と同等の知識・判断に通じていて、日々の相場の動きや企業情報を察知しながら、陥りやすい心理を振り切って対策を打つことができ、一時的な損失を出してもそのストレスに打ち克っていける。それを可能にするには、結局それを仕事にするぐらいのエネルギーが必要で、多くの一般投資家にとって片手間では難しいのではないでしょうか。

続きは、次回以降の投稿で考えてみます。

<まとめ>
特に短期売買の投資でうまくいくには、損失を避けようとする心理に打ち克つことが必要。


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