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自発的転職を考える

10月16日の日経新聞で、「労働市場改革は自発的転職から」というタイトルの記事が掲載されました。労働者自身の意志で仕事や勤務先を選ぶことの意義について考察している内容です。

同記事の抜粋です。

自民党総裁選や立憲民主党代表選で、解雇規制の緩和など労働市場改革が争点の一つとして浮上した。雇用の流動性を高める改革は喫緊の課題だが、その必要性が広く国民に理解されているとは言い難い。経済と労働者の両視点から現状の問題点を明示し、後者の視点からも望まれる改革でないと成功は難しい。

経済の視点からは、長期低成長の一因として、成長企業・産業への移動が困難な労働市場の非流動性が、企業・産業の新陳代謝の不足と関連して指摘される。日本生産性本部によれば、日本の1人当たり労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中31位に落ち込んでいる。

社会人の学び直しが海外と比べ低調な一因も、企業を超えて通用するスキル習得へのニーズが高まらないことにある。流動性の低い労働市場を堅持し続ける限り、高い労働生産性は期待できない。

労働者にとってはどうか。労働政策研究・研修機構の研究によれば、初職が非正規雇用であった者が非正規であり続ける期間は、日本は英国の3倍、ドイツの2倍以上であった。日本では、新卒採用は「一度しか来ない列車」とも呼ばれ、非正規雇用から正社員への転換は容易でない。

また、出産などで退職した女性が正社員に戻るのは容易ではない。さらに、米ギャラップの調査によると、日本は従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や職場への愛着)が125カ国で最も低いという。正社員も安定と引き換えに閉塞している現状を物語る。

日本の終身雇用の特徴は、雇用契約に期間の定めのない無期雇用にあるのではない。米英でも基幹社員が無期雇用なのは通常のことで、相違点は無期雇用の社員が自らの意志で普通に転職することにある。その際、頻繁に見られるのがポストの公募である。

職業選択の自由は、新卒採用1回限りのものであってはならない。労働市場改革は、自発的転職の促進から着手すべきである。その手段としては、社内外から最適な人材を求める公募の普及が有効だ。例えば、経済団体が管理職ポストなどの公募率を目標設定し、各社に達成を求めるといった具体策も考えられよう。

同記事をヒントにすると改めて、労働市場の流動性と、職能開発の充実が、企業活動・労働者にとって生産性向上のために欠かせないことが認識されます。

労働市場の流動性とは、成長企業・産業への労働力の移動です。

日本の法人の約2/3は赤字だと言われています。この中には、局面的に赤字の年度のある企業や、これからの事業戦略を描けているスタートアップで赤字の企業など、成長企業も含まれていると想定されます。よって、必ずしもすべての赤字=悪とは言えない面があります。

一方で、衰退事業を長年抱えたまま、赤字が常態化している企業も相応にあるものと想定されます。そうした企業や産業に従属する労働力が成長企業・産業へ移動し、より大きな付加価値を生み出す仕事についたほうがよいというのは、うなずけます。

加えて、労働市場の流動性とは、企業間をまたぐものに限らないと考えます。同じ社内で、衰退事業から成長事業へ、業務プロセスの省力化や自動化が可能な仕事から将来性のある事業戦略に直結する仕事への、移動も含まれるととらえることができます。

そして、単に仕事に従事する場所を変えるだけでは、生産性が上がるとは限りません。移動先の仕事で必要となる知識や技能の習得なしには、活躍できないためです。この点の取り組みで日本に改善の余地が大きいことも、各所で指摘されています。

このような、労働市場の流動化と職能開発の促進のために、自発的転職の促進が必要というわけです。

同記事からは、正規雇用や無期雇用という形態が日本の労働市場特有のものではなく、各国でも日常的であることがわかります。むしろ、非正規雇用→正規雇用化への流動性が劣っていることが、同記事で指摘されています。

「自発的転職」も、企業間をまたぐものに限らないというわけです。同じ社内で自らがより活躍できそうな場所を自発的に探して移るという概念も、自発的転職に含まれると理解できそうです。ここの流動性も、改善の余地がありそうです。

あるいは、今所属している部署や業務で来年も居続けるということにも、自発的転職の概念が当てはまるのではないでしょうか。つまりは、積極的に残留を選びなおすという、次のようなイメージです。

・現所属部署・業務が高付加価値を生み出している仕事、あるいはこれから高付加価値を生み出せるよう変えていける仕事である

・来年も自身がそこに従事することが、他の場所に移るよりも、自身の強みを活かせて最も大きな貢献ができると認識している

・その認識を、自発的に毎年更新している

・高付加価値を生み出すために必要な知識や技能を学び、更新し続けている

このような姿勢と取り組みが求められているという示唆が、同記事からは汲み取れるのではないかと考えます。

<まとめ>
働く場所に対して、自発的に向き合う。

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