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キャッシュレス決済の今後を考える

1月26日の日経新聞で、「現金消えゆくアジア 使用率、27年に14% 国家主導で電子決済」というタイトルの記事が掲載されました。キャッシュレス決済の流れは世界的に進んでいますが、アジア圏でも急速に進んでいるという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

アジアで現金決済が消えつつある。スマートフォンをかざすQRコード決済などの普及で、支払いに占める現金の比率は2027年に14%と19年比で3分の1に下がる。インドなどは政府主導の決済方式を推進し、米欧クレジットカード会社から主導権を取り戻す「決済ナショナリズム」に動いている。

「あと10分で到着します」。スマホでジュースとシャンプーの注文を入れるやいなや、テキストメッセージが返ってくる。インドの商都ムンバイの渋滞をすり抜けて、バイク便が自宅にやってくる。同国で急速に普及する食材・日用品の宅配サービスはスマホ一つで注文から配達、決済まで完結する。現金支払いはむしろ敬遠される。

米決済企業ワールドペイによると、インドの店頭での現金決済比率は、金額ベースで19年の71%から27年には10%に低下し、日本(27年に31%)を大幅に下回る。

中国本土では現金比率は27年に3%まで下がる見込み。10億人超が利用する「支付宝(アリペイ)」などのQRコード決済が行き届いている。

アジアで「脱現金」は急速に進む。14カ国・地域の現金支払比率の単純平均を算出すると、27年は14%と19年比で33ポイント低下し、欧州(12%)とほぼ肩を並べる。

スマホの普及が変化をもたらした。東南アジアでは銀行口座を持たない人が多く、クレジットカードの保有率は低い。欧米に比べキャッシュレス利用は大幅に遅れていたが、電話番号などがあれば利用開始できるスマホ決済が急速に浸透した。

もう一つ、アジアのキャッシュレス化を後押しするのが決済ナショナリズムだ。米ビザや米マスターカードなど国際ブランドは決済代金の数%の手数料を付加し、顧客や店舗の膨大なデータも取得する。

インドや中国が政府主導でキャッシュレス化に取り組む背景には、自立した決済網を構築したいとの思惑もある。

東南アジア各国はQRコード決済の国家間連携を強める。タイの「プロンプトペイ」やシンガポールの「ペイナウ」などが互いに使えるようになった。域内での国境を越えた即時決済システムの構築も検討されている。

同記事から改めて認識したのは大きく2つです。ひとつは、経済環境は刻一刻と変わりゆくということです。

2年ほど前にベトナムに渡航したときに、既にキャッシュレス決済は相応に進んでいる印象を受けました。

例えば、高齢者がスマホを操作して、「Grab」や「Gojek」による配車アプリでのタクシー・バイクタクシーを呼び、そのまま決済へ、という景色も一般的になっていました。かつてのような、乗車後にいくら吹っ掛けられるか不安だったバイクタクシーから様変わりした感じです。

それでも、現金決済がまだ多くみられ、キャッシュレス決済する場面は限られている印象でしたが、同記事によるとその後もキャッシュレス化がどんどん進んでいると見受けられます。

同記事中の図表では、中国・インド以外にベトナムについても紹介がされていますが、19年には80%を超えていた現金決済率が、23年には40%以下となり、27年には20%台まで下がる見通しのようです。中国・インド同様に、27年に31%の日本の現金決済率を下回る予測となっています。

キャッシュレス化というテーマでは、日本では徐々に進んでいる感じですが、他国はさらに速いペースで進んでいるようです。

もうひとつは、自分や日本国内の感覚で世界とは異なるものも多い、ということです。

日本でもキャッシュレス化が進んでいるものの、他国ほど急進的でない理由のひとつが、現金決済の便利さにあると思われます。

ベトナムドン=約0.0062円です(1月28日現在)。ベトナム紙幣は、500ドン~50万ドンまで10種類ほどありますが、最も高い50万ドンでも日本円で3,100円分です。特に高額の買い物をするには、多くの紙幣が必要となり、煩雑です。しかも、低額紙幣は素材の関係で破れやすく、ボロボロの状態で手渡されることもしばしばです。

また、2011年以降ベトナムでは硬貨の発行が停止されています。今ではほとんど流通しておらず、日本のように「自動販売機で硬貨を使って、、」というわけにはいきません。

ちなみに、硬貨の製造、流通、回収は、紙幣に比べて大きなコストがかかります。検索してみると、100円玉の製造コストは約15円、10円玉は約7円程度と推定されるようです。1円玉は2円以上、米国のペニー(1セント硬貨)は、約1.7セントで、製造コストが額面を上回っています。日本以上にインフレが進む環境下のベトナムで、硬貨を製造・管理するのは割に合わないと判断されたのだと考えられます。

普段スーパーなどで買い物をすると、キャッシュレス決済の習慣に移行しておらず、レジで財布から紙幣と硬貨を1つずつ数えながら取り出して支払う方を見かけますが、便利な日本の現金決済事情とインフラに慣れてしまっているからだと言えます。「キャッシュレス決済は、何やらややこしそうで、管理も煩雑そうだから」という印象かもしれませんが、アジア圏では日本以上にキャッシュが不便で煩雑なことで、高齢者であってもキャッシュレスへの心理的な乗り換えコストが低いのではないかと想像されます。

日本の紙幣の技術は世界一とも言われ、ATMや両替等のインフラも充実しています。その便利なインフラが逆に、キャッシュレス決済に乗り換える必要性を低くさせていると想像されます。

キャッシュレス化に時間がかかる理由として、店側の事情も想定できます

クレカは、世界的にはリボ払いや分割払いなど手数料を伴う支払い方法が一般的だと言われていますが、日本の消費者はほとんどが手数料のかからない一括払いを好みます。また、日本では年会費や更新時のカード発行も無料のクレカを多く見かけます。日本のクレカ利用者の多くがポイント獲得への執着が高く、ポイントなど特典の充実度合いが、クレカが選ばれるかどうかに大きく影響します。

クレカは、手数料をかけずに使い、特典までついてきて、現金決済よりお得な利用手段、という認識が定着しているわけです。

また、日本ではリボ払いや分割払いを除けば、消費者が決済手数料を負担することも珍しいです。

以前、海外の企業が提供する、あるサービスの購入を検討する機会がありました。オンラインでの見積書で、「銀行振り込みではなくクレジットカード決済の場合はこちら」のボタンに進むと金額が3%上乗せされて変わり、「〇〇円+手数料3% 合計△△円」と表示が変わりました。これは、「銀行振り込みではなくクレカ決済をする場合には、手数料3%はあなたが負担せよ」ということです。

海外では一般的かもしれないこのような要求を受けることは、日本ではあまり見られません。

クレカの運営会社としても、消費者からの手数料徴収が期待できない以上、店側に求めるしかありません。店側が払う決済手数料について検索してみると、国によっては1%以下なのが、やはり日本では3%以上などで出てきます。

コード決済サービスはクレカよりも手数料負担が少ないと言われますが、それでも上記の特徴のいくつかは似ているかもしれません。よって、今でも中小の事業者・店舗では、現金決済のみを消費者にお願いしているところが少なくないのだろうと思われます。

今後訪日客が増え、冒頭の記事のように国境を越えたキャッシュレス決済システムに慣れた人が増えていくと、日本でも当然のようにキャッシュレス決済が求められ、「キャッシュレス決済ができない場合は商機を逃す」ことが増えていく可能性もあるのかもしれません。店側だけでなく、消費者や決済会社も商慣習の見直しが求められるかもしれないと思います。

・経済環境は刻一刻と変わり、意識しない間に世界ではシステムが大きく変わっている
・新しいシステムに適応しなければ機会損失が発生するかもしれない

こうしたことは、どんな領域でもあり得ることだと思います。

<まとめ>
他国ではキャッシュレス決済が進むことに加えて、国境を越えて即時決済する共通のシステム化が進む動きもある。

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