個人消費の今後
9月8日の日経新聞に「個人消費、感染増が重荷 8月、百貨店・外食落ち込む」という記事が掲載されました。
同記事の一部を抜粋してみます。
~~個人消費が伸び悩んでいる。祝日増などで7月後半の消費は盛り上がったものの、8月に入り再び低迷した。東京都で連日、2千~5千人台の新型コロナウイルス感染者数が報告され、百貨店での感染も相次ぎ、消費マインドが冷え込んだ。コロナの収束が見えない中、個人消費の低迷は長期化が懸念される。
7日に総務省が発表した7月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は26万7710円だった。前年同月比で実質0.7%増と2カ月ぶりのプラスになった。消費額は新型コロナ感染拡大前で消費増税の影響がなかった2016~18年同期の平均と比べて0.2%減と、コロナ前の水準に近づいた。マイナス幅は今年で最も小さくなった。
ただ8月になると一転、上旬の消費額は6.8%減と大きく落ち込んだ。東京都の感染者数が7月31日に4000人を突破。全国的に感染者数が拡大し、緊急事態宣言の範囲も広がったためだ。
特に百貨店は、8月上旬は54.5%減と大幅なマイナスとなった。伊勢丹新宿本店(東京・新宿)や阪神百貨店梅田本店(大阪市)などで多数の感染者が出て、地下食品売り場(デパ地下)の入場者制限などにつながった。
サービスも19.5%減と落ち込んだ。緊急事態宣言の影響でファミレスや居酒屋が大幅に悪化し全世代で落ち込んだ。旅行ではワクチン接種の進展でシニア層の消費拡大を期待する向きもあったが、低迷が続いている。
8月後半の個人消費もあまり期待できない。インターネット調査のマクロミルが調べた週次の支出額はコロナ前の16~18年平均に比べ1割程度落ち込んでいる。~~
やはり8月の個人消費は厳しい結果が出ました。百貨店、外食、旅行などを中心に落ち込みが激しいということです。逆に言うと、強制的なロックダウンなどがない日本で、感染者数を含めた影響の大きさが世界の中では比較的抑えられていると言われる要因には、強制されずともそれなりに行動抑制しているから(だから消費が弱く出る)とも考えられます。
先日の投稿では、景気の先行指標とも言える8月の購買担当者景気指数(PMI)が悪化していることを取り上げました。購買担当者は取引先の動きや製品の需要、自社の生産計画などを見極めたうえで原材料を仕入れるため、購買担当者の景気指数はこれから先の景況感を予見するものになり得ます。これを先行指標とする消費の落ち込みがこれから現実化した場合、9月以降の個人消費が8月よりさらに悪化していく可能性は大いにあります。
「日経平均株価3万円回復」など、表面的には地合いのよさそうな情報も流れてきますが、今後のコロナ感染状況の推移と景気指標の動向なども手がかりにしながら、資金計画や事業活動の見通しを算段し、必要な対応を考えるべきでしょう。
さて、消費支出は、近年どのような動きをしていたのでしょうか。
「消費支出2人以上世帯」「小売業販売額」「全国百貨店売上高」の推移を見てみます。いずれも、対前年比です。
消費支出2人以上世帯 小売業販売額 全国百貨店売上高
16年度 ‐1.7 ‐0.6 ‐2.9
17年度 ‐0.3 1.9 0.1
18年度 0.3 1.5 ‐0.8
19年度 1.5 ‐0.3 ‐4.8
20年度 ‐5.3 ‐2.8 ‐23.5
改めて、20年度のコロナ禍の影響の大きさが見て取れます。そのうえで、上記記事でテーマの「消費支出2人以上世帯」は、16年度から既に弱含んでいたのもわかります。さらには14年度、15年度も‐2.9、-2.3でしたので、正確には、消費支出が減り続けた2010年代だったというわけです。
消費支出が伸び悩む中でも、小売業全体としてはうまく消費を取り込めていたと言えそうです。19年度を除くすべての年度で、消費支出2人以上世帯<小売業販売額の伸び率となっています。両者の伸び率の差に影響を与えていた一因は、外国人による消費でしょう。消費支出2人以上世帯にインバウンド消費などは入らないからです。そして、外国人往来者が激減しながらも、20年度に小売業販売額の減少幅が少なく済んでいるのは、レジャーや観光など不急の消費に対して、日用品含めた小売りへの支出が優先された結果ではないかと推察されます。
その中で、百貨店に限って言うとコロナ禍前から前年比割れが続いていたことが確認できます。外国人観光客が過去最高を更新し続けた18年度や19年度ですら前年比マイナスだったわけです。観光往来が再開してもそれだけで単純にプラスに転じるとは言えないのが現状でしょう。
そのような状況下で、例えば丸井は比較的堅調だと評されます。しかし、丸井はもはや「小売」や「百貨店」といったカテゴリーから抜け出していると見受けられます。ビサルノなど注力してきた衣料プライベートブランド(PB)事業から撤退を決め、店舗を「売らないテナント」に変えていくなど、場所貸し業、金融業のカテゴリーに軸足を移していると言えそうです。上記の市場環境からも、自社の強みを活かすには事業ドメインを再定義することが必要だという判断をしたものと思われます。
既存の事業領域内で生き残り策を研ぎ澄ませていくか、あるいは事業ドメインを再定義しゲームチェンジするか、丸井の例は対応方法のひとつを示唆しているように感じます。
<まとめ>
短期スパンの個人消費減少の可能性に注意が必要。中長期でも下降トレンドが想定される。