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長期的視野で多面的に打ち手を考える

3月2日の日経新聞で、「社会保障 次のビジョン(上) 経済・財政と一体的改革を」というタイトルの記事が掲載されました。同記事を一部抜粋してみます。

~~政府の推計によれば、40年度の社会保障給付費のGDP比は約24%で、15年度の1.1倍となる。00年度から15年度にかけては1.5倍近くに増えたのと比較すると、40年度にかけてGDP比の伸びは大きく低下する。この間、後期高齢者が1.37倍に増えることを考えれば、増大どころかむしろ抑制されているといっていい。

公的年金のGDP比は長期的に安定し、むしろ下がっていく。一方、年金と異なり、医療・介護費のGDP比は引き続き増大していく。その要因は、さらなる高齢化の進行、特に後期高齢者の増大、そして医療技術の進歩である。先進国にふさわしい医療を提供する限り、寿命が延びれば生涯医療・介護費は増大する。

超長寿社会の医療・介護政策は、発想の転換が必要だ。限られた人的・物的資源でニーズを効率的に賄う改革、つまりは「提供体制改革」である。治療から生活支援、施設から在宅、医療から介護、病院・施設から地域・在宅へと、医療介護全体の人的物的資源を大きくシフトし、地域完結・ネットワーク型の提供体制、地域包括ケアを構築する。

少子化は静かなる有事である。仮に今、出生率が劇的に改善しても、子どもが成長し実際に労働市場に参加してくるのは20年後だ。つまり40年ごろまでは新たな支え手の数は決まっている。他方、これから生まれてくる子どもの数を回復させる努力をすれば、40年以降の労働力の急速な減少に歯止めをかけられる。

従って、日本の社会経済の持続可能性を考えるのであれば、2つの戦略の同時実施が求められる。第1は40年までを念頭に置いた「少子化対応=労働力率向上戦略」であり、今いる現役世代の労働力率の向上、労働力の量と質を確保するための施策だ。第2は40年以降のための「少子化克服=出生率回復戦略」であり、1つ目の施策を実施しつつ、同時に積極的に出生率(出生数)の回復を可能にする施策だ。2つの戦略を実現する鍵は働き方改革と両立支援、そして家族形成支援としての「育児の社会化=包括的子育て支援制度の創設」である。~~

国家財政や社会保障のあり方、持続可能性、それらと経済成長との関連性についてとても示唆的な考察だと思います。同記事から考えてみたポイントを大きく2つ挙げてみます。ひとつは、現状把握・現状評価を的確に行うことの大切さです。

私たちはともすれば、普段見聞きしている断片的な情報や総論からの印象をもってして、「社会保障の持続可能性はあり・なし」「今の社会保障政策は〇だ・×だ」など、二元論になりがちな面があります。しかし、同記事を参照すると全体として、社会保障給付費が増えていること自体は事実ですが、少子高齢化という厳しい現状ながらも伸び抑制は実現できているなど、それなりに機能し成果を上げている面があるようです。

特に、公的年金のGDP比率については、2018年度には10%を超えていたのが、2040年には9%程度で推移する想定が見えているなど、長期的に安定するシナリオがつくれています。このように、全体としては課題が大きいテーマであっても、テーマの構成領域ごとに期待以上の出来・及第点・期待以下の出来を分けて捉えて、是々非々で評価・改善のPDCAを回していく必要があります。

もうひとつは、時間軸を踏まえた多面的な戦略の構想です。
上記の例では、労働力の量と質を確保するための施策のみに集中しても、少子化で労働供給力が減り続ける限り、根本的な問題は改善されないことが説明されています。一方で、少子化対策のみに集中しても、それによる効用が出てくる40年まであと18年もあり、その間の労働力問題が放置されることになります。よって、労働力の量・質確保と出生率回復と、2つの戦略が同時に必要になるというわけです。

例えば、日本の家族関係給付は、社会保障給付全体の7%、GDP比で2%弱となっています。多様な家族支援施策を継続的させて出生率の回復を実現したフランスやスウェーデンの半分の水準と言われますので、上記から鑑みても改善の必要があるのは明白と言えるでしょう。

これと似た状況は、私たちの組織活動でもあるはずです。
何かの問題や取り組み施策に関して、〇か×かの二元論以上に踏み込めておらず、そのテーマに関する要素ごとの現状評価ができていない。あるいは、今取り組んでいる施策は確かに目の前の課題解決に寄与することにはなるものの、そのままでは長期的にじり貧が続くだけで本質的な解決にはつながらない。などです。

現状のままだとどうなるか。短期・長期両面での時間軸で今後の動きを想定し、必要な対策を必要な数ほど定義して取り組んでいく。私たちの組織活動でも取り入れたい視点だと思います。

<まとめ>
冷静な現状評価と、それを踏まえた取り組み施策を長期的な視野で定義する。


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