早期希望退職の活性化を考える
1月10日の日経新聞で、「早期退職募集1万人超 昨年、黒字でも構造改革 若手も対象、新陳代謝急ぐ」というタイトルの記事が掲載されました。早期退職募集の規模・事例が増えているという内容です。
同記事の抜粋です。
同記事からは、近年の早期退職募集の傾向として大きく2点感じられます。黒字企業での事例が増えているということと、若手人材も対象とし始めているということ、です。
従来は、早期退職募集といえば、業績が悪化した結果、赤字体質を元に戻すためにいったん事業をスリム化する、あるいは再生のために抜本的な構造転換が必要なため事業をたたむ、などの状況下で行われるという話が多かった印象です。同記事では、そうした背景以外で先手を打って人材マネジメントに取り組む中での早期退職募集という事例が増えているように見受けられます。
人材不足が叫ばれていて、若手人材採用にもこれまで以上に好条件の提示を競い合うような状況下で、同記事の内容には意外な印象もあります。このことからは、各社がこれまでに増して1人当たり生産性を上げていくことが必要であり、そのためには自社に合った人材の新陳代謝、スキル開発、活躍を促すスピード感のある人材マネジメントが求められているということだろうと考えられます。この流れは、今後も続くものと想定されます。
こうした動きをとる企業が増えていくことは、社会的には望ましいのではないかと考えます。
国や文化圏によっては、「希望」退職ではなく、一方的な雇用契約打ち切りが可能な会社もあるかもしれません。しかしながら、日本では今のところ、そのようなやり方はなじみませんし、多くの雇用契約では無理があります。好条件を提示し、希望者に応じてもらうというやり方は、日本の慣習に合っていると言えます。
熟考して採用、あるいは入社したものの、その組織ではうまく自分の強みを発揮できる環境になかった、というミスマッチは、採用活動の中で発生します。そうしたミスマッチを雇用側・被雇用側双方が認識している場合、早めにミスマッチを解消し新たなマッチングを成立させることは、労働市場の流動化を進め日本全体で生産性を高めることにつながります。
一方で、早期退職募集などをすれば、自社が手放したくない優秀な人材が応募してしまい、現場が立ちゆかなくなるという懸念もあるとは思います。しかしながら、会社全体の生産性と従業員個人のキャリアとの両方を真摯に考えながら人材マネジメントに取り組む企業には、新たな優秀人材が外部から参画を希望してくるというのが、本質だと考えます。その流れが実現できるような、自社なりの人事方針を明確にし、それに合った採用や育成に取り組むことが大切だと思います。
そうはいっても、同記事の事例のような動きが取れるのは大企業が中心の話だと思います。人員数も限られる中小企業では難しいものがあります。中小企業としては、他社で早期希望退職を考える人材に訴求し、自社に引き寄せるということを積極的に考えるとよいかもしれません。
私の周囲でも、大企業で勤め上げた優秀な人材が、早期退職で中小企業に転じるという事例を聞くことが増えました。そうした中小企業では、転職希望者が自社に興味を持ってもらえるよう、例外なく社をあげて採用活動に取り組んでいます。先日の投稿でも、経営トップが強く採用活動に関与することについて取り上げました。中小企業にとっては、冒頭の記事のような動きはチャンスだと捉えるべきだと思います。
<まとめ>
早期希望退職の活性化で、労働市場の流動化が進む可能性がある。