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スポットワーカーの活用を考える

7月12日の日経新聞で、人手不足、緊張の夏4 救世主はスポットワーカー」というタイトルの記事が掲載されました。隙間時間に働くスポットワーカーについて取り上げたものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

介護施設にとって気をもむ夏がまた、やってくる。
「お水を飲みましょうか」。有料老人ホームのイリーゼ石神井公園(東京・練馬)で働く中村晴美(54)は、入浴介助の際など入居者が熱中症にならないように目を配っている。部屋の日差しがきついと感じればカーテンを閉める。

夏は熱中症対策に気を抜けなくなるだけではない。ボーナス支給後は離職者も出てくる。慢性的な人手不足の介護業界で、さらに人員の確保が難しくなる季節だ。

そんなときに頼りになるのが、隙間時間に働くスポットワーカーだ。中村もその一人だ。本業は保育園の用務員だが、週2日、1日4時間ほど介護現場で働いている。かつて正社員として働いた介護現場では、就業環境が整っていない職場や老老介護の現状を目の当たりした。「スポットワークなら自分に合う職場だけで働ける」と考え、今の働き方を選んだ。

「自分はサブプレーヤー」と謙遜するが、運営会社HITOWAケアサービス(東京・港)の人事部、陸田涼(41)は「中村さんのようなスポットワーカーがいるからサービスの質を担保できる」と信頼を寄せる。

人手不足を背景にスポットワーカーの存在感が増している。スポットワーク協会(東京・千代田)によると、タイミー(東京・港)など大手4社の登録者は5月末で1700万人(単純合計)と、1年で6割増えた。

若者だけでなくシニアにも広がる。6月中旬の夕方、ファミリーマート銀座御門通り店(東京・中央)でレジに入っていたのが石井良三(77)だ。

コンビニは立地にもよるが、夏祭りや花火大会のある日には客足が大きく伸びる。石井はファミマでアルバイトしつつ、スポットワーカーとして約100店で働いた。「若い従業員や来店客との交流は楽しい。社会とのつながりが生きがいになっている」と笑顔をみせる。

単発の仕事だけに受け入れ側も働きやすい仕組みをつくる必要がある。ツルハドラッグの都心の一部店舗ではレジや品出し業務の要点を絞ってまとめたマニュアルを用意した。前日までに募集をかければ、ほぼ100%集まる。今や店舗運営には欠かせない救世主だ。

しばらく前から社会的な流れとなっている、働き方改革や働き方の多様化、それに伴うキャリアの自律追求の背景において、大きく2つの事象が見られます。正社員として所属する勤務先での労働時間の減少と、勤務先以外で取り組む業務の拡張です。

これらは、トータルでの労働時間の観点からは相反する事象です。一方では減り、一方では増える動きです。しかしながら、後者のほうは他から指示命令を受けるものではなく、各人の自由意志に基づく点が指摘できます。

正社員としての勤務先で、長時間残業が常態化している、それもサービス残業まがいのものが含まれているなどは、理想的な状態とは言えません。2024年問題など法的な要請事項にも対応しながら、生産性向上の取り組みの中で、適正な労働時間内で収まることを目指していくのは、妥当な方向性だと言えます。

そのうえで、生産性を上げても社員の労働時間の減少分を補いきれない職場があるはずです。また、今補えているものの、さらに社員数が減っていくと補えなくなるという職場もあるはずです。このような人員数不足を打開するひとつの方策として、メインの勤務先と掛け持ちするスポットワーカーの活用は、さらに検討されてよいやり方かもしれないと考えます。

社会制度の関係や業界の構造的な関係上、自社の意向のみで価格を自由に上げ下げしにくい商品・サービスを扱う事業もあります。そのような環境下では、商品価格を上げられない分、社員の賃上げも容易ではないという状況もあります。

そうした環境下では同記事の事例のように、自社を本業として安定的に働けるメインの勤務先としてもらい、労働時間を管理したうえで浮いた時間を確保し、他でスポットワーカーとして就業することを許容し必要な賃金を補ってもらうというのも、ひとつの方策かもしれません。同時に、繫忙期などで足らなくなる人員数を、スポットワーカーで調達するというのもありです。労働力人口の構造自体が変わるこれからの環境下で、ますます必要となる概念のように感じます。

そのような方策を行う際の肝は、業務の見える化・棚卸しと、スポットワーカーに頼むべき業務の適切な定義ではないかと考えます。同記事の事例は、それらがなされているように見えます。

知人が、ある事業所にて同様のことを提案したことがあると聞きました。

同事業所では、営業時間中に一定数の有資格者を確保し、運営することが求められています。しかしながら、有資格者が実際に行っている業務のうち結構な割合が、無資格者でも行ってよい内容であることに、同事業所に新たに入社した同知人が気づきました。そこで、数か月間かけて自分なりに業務分析を行い、次のように提案しました。

・慢性的な人員数不足の解消を目指して、お客様の価値につながっていないであろう業務をやめる。対象となる業務は、業務分析の結果仮説付けしてみた。

・残った業務のうち、有資格者と無資格者どちらが行うべきかを分ける。

・有資格者向け、無資格者向け、双方に対して(現状ではまったく存在しない)業務マニュアルを作成する。特に無資格者向けのマニュアルを優先的に整備する。

・無資格者は入社直後の集中的なオリエンテーションを行い、業務マニュアルの手順に沿って業務を行えるようにする。無資格者の人材として、一部スポットワーカーを採用する。

たいへん有力な提案だと感じましたが、同事業所では採用されなかったそうです。理由は、「簡単にマニュアル化できるような業務ではない」「慣れている今までのやり方を簡単には変えられない」など、経営陣や周囲の人からのネガティブな反応が大勢を占めたからのようです。

同知人の提案したやり方が唯一の方法、及びそれのみで人員数に関する問題がすべて解決する方法だとは限りませんが、話の内容からは変化の受け入れ自体が組織として許容されていないように見受けられました。そのままでは、現状が続いていくだけだと思います。

私たちは、基本的に変化を嫌い、慣れた環境を好む生き物です。しかしながら、組織外の社会的な環境の変化に組織がついていくには、組織内の慣れた環境は変わらざるをえません。人材活用のやり方も、これまでのやり方を見直し、自社なりの方法論を見出していくことが必要だと思います。

<まとめ>
業務の見える化・棚卸しを行い、どんな人材が何を担うのがよいか整理する。

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