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「趣味休暇」の導入例を考える

11月26日の日経新聞で、「〈小さくても勝てる〉中小、趣味休暇で人材集め アユ釣りやポケモン、有休と別枠 後ろめたさ解消へ知恵」というタイトルの記事が掲載されました。「リフレッシュ休暇」など、いろいろな休暇制度をつくる企業の話を聞く機会が増えましたが、「趣味休暇」というのも出てきたようです。

同記事の一部を抜粋してみます。

プライベートを重んじる働き方改革の一環で、会社が取得目的を自由に決められる「趣味休暇」に着目する中小企業が増えている。アユ釣りや「ポケモン」大会を理由に休みを認める例がある。法的には導入する義務のない特別休暇を設けて社員に寄り添う姿勢を示し、採用につなげる狙い。専門家は「制度作りで終わらず取得率を上げることが大切」と指摘する。

「前の職場は会話がほとんどなく、会社への帰属意識が低かった」。2月にシステム開発のアルトワイズ(東京・港)に入社した田中友貴氏(29)はこう語る。田中氏はポケモンカードゲームやキャンプなど趣味が多い。「共通の趣味を持つ社員と交流がしやすい点が決め手になった」

入社して2カ月で約10人の社員とポケモンカードゲームの社内大会を企画した。アルトワイズの向井崇泰社長も初心者ながら参加し、田中氏がルールを説明する一幕も。「むっちーさん(向井社長)」などとあだ名で呼び合い、役職を超えてカードゲームを楽しんだ。

アルトワイズは22年に趣味休暇を導入した。1年に1日付与し、毎月最大3000円の手当を支給する。前の年に赤字が続き、社員の3割が退職した。人材採用に苦戦するなか、当時執行役員だった向井氏が提案した。

24年1月の社長就任後に、X(旧ツイッター)などで趣味休暇に関する情報発信を強化すると、多くて60人程度だった毎月の入社応募数は4月以降、平均180人超になった。24年の採用人数は10月時点で43人と、23年通年の4倍に増えた。

趣味休暇の取得率はほぼ100%と有給休暇の80%超を上回る。社員は思い思いの趣味を社内のチャットで共有する。向井氏は「有休取得を後ろめたいと思う社員はまだ多い。目的を趣味にすることで休みやすくなる」と狙いを語る。趣味が理由の有休取得は従来から可能だったが、社員の心情を考慮し、あえて別の仕組みを用意した。

システム開発を手掛けるエニプラ(千葉市)は12年に同人誌即売会、コミックマーケットの日に休める「コミケ休暇」を導入した。プロジェクトの繁忙期にどうしても休みたいという社員の声に応えた。14年には対象を趣味全般に広げた。

学生向けの採用イベントでは「いざとなったら社長が動きます」と、社員が希望日に休暇を取れるよう、林博樹社長が実際に対応したエピソードを必ず紹介する。23年度の採用人数は20人と21年度から倍増した。趣味休暇を有休の補助的な制度に位置付け、社員交流などに役立てる。

最初に同記事の「趣味休暇」という言葉を目にしたときは、まったく意味(趣旨)が分かりませんでした。自己責任で有給休暇をとればよいだけでは?有給休暇の取得率もまだ60%程度(全企業平均)だからいくらでも趣味目的で休暇がとれるのではないか、と感じた次第です。

そのうえで、記事の説明を読んでいくうちに、「有給休暇とは別に、法定外で会社が自由に設置する特別休暇で、趣味を名目にして従業員が取得したい日を休暇にできる権利を付与する」ということだと認識できました。

本来の有給休暇とまったく同じではないか」というのが、個人的な感想です。

有給休暇は、従業員が自由な目的で希望する日に休暇を取得することを認める制度です。労働基準法で勤務期間等に応じて一定の付与日数が義務付けられています。雇用側は、どんな目的の有給休暇申請であろうと、取得拒否はできません。

よって、雇用側から取得理由を聞かれても、従業員は「私用のため」と回答すればよいだけです(ただし、事業運営に明らかに支障が生じる場合には、取得日の変更を依頼する「時季変更権」を行使することができます)。

つまりは、趣味目的で休暇をとりたいなら、休暇取得によって業務調整をする必要が発生するなら調整したうえで、自由に有給休暇をとればよいわけです。有給休暇という仕組みが十分に機能しているなら、本来不要な制度だと考えることができます。

それではなぜ、趣味休暇のような話が出てくるのだろうかということです。大きく2つ想定してみました。ひとつは、趣味のために休むことに後ろめたさを感じていて、休暇取得の希望を押し通すのが難しい現状があるからです。

例えば、病院への通院や家族に関する何らかの事情など、緊急度の高い理由の場合は、多くの人が後ろめたさなく有給休暇を申請します。一方で、趣味を楽しむことのように緊急度が低い目的の場合は、(目的を問わない有給休暇取得が、働く人の福利の権利として法的に認められていながらも)とることに遠慮が発生しがちだと考えられます。

会社が趣味休暇という大義名分をつくって、緊急度が低い目的の休暇取得を推奨することで、この遠慮を取り払おうというわけです。

もうひとつは、社員間コミュニケーションの促進です。

趣味休暇によって、なかば公的に趣味を開示し合うことで、「あの人はそういう趣味を持っているのか」「私と趣味が同じ」など、どのような趣味をもっているのかお互いの内面に対して理解を深め合うのにつながることへの期待です。共通の趣味があるとわかれば、それをきっかけとした交流が進むかもしれません。

そのうえで、適宜適切な方法で休暇をとる、社員間のコミュニケーションの量を増やす、といったことが、旧来の有給休暇制度や普段の社員間のコミュニケーション、あるいは社内イベントなどを通してできているのであれば、わざわざ設置する必要もないもの、と言えるのかもしれません

いずれにしても、事例の企業のように、制度として設置することで上記2つを促すことになり、会社・社員の双方にとってよい影響が出て、会社の価値観を発信する一助にもなり、採用人数が4倍になるなど効果も出るのであれば、設置するのも意味があるのだろうと思います。

ちなみに、こうした休暇制度を利用しようとしない人も一定数いるのではないかと想像します。業務と直接関係ない、自分の趣味など内面的な情報をあまり職場で開示したくないタイプの人もいると思うためです。そうした人に趣味休暇の取得や趣味の開示を迫っていくことで、「趣味ハラ」などという新種のハラスメントがまた生み出される結果にならなければよいなと感じます。

<まとめ>
休暇取得の申請が普通になされ、必要な業務の調整も各人が協力的に行っているか。


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