見出し画像

定年後の人材活用

1月7日の日経新聞で、「高齢化不安乗り越える 百寿者「センテナリアン」の挑戦」というタイトルの記事が紹介されました。いまの50歳は22世紀まで生きるかもしれない、人類の寿命が延び続ける、ということに関する内容でした。

同記事の一部を抜粋してみます。

~~高齢化率で世界トップを走る日本で、1世紀を生き抜いた人々を示す「センテナリアン」が急増している。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の100歳以上は50年に53万2千人。1990年代初めに起きた百寿の双子姉妹「きんさん、ぎんさん」ブームから60年で140倍に膨らむ。

60歳以上の貯蓄を含む金融資産を推計したところ、19年時点で約1200兆円だった。15年間で約350兆円伸び、全体の3分の2を占める。国際通貨基金(IMF)は日本の高齢者の貯蓄率が近年上昇しているとし「想定外の長生きに備え退職後も貯蓄を続けている」と分析する。眠っている資産は「シルバーエコノミー」の原動力になりえる。

ニッセイ基礎研究所の試算によると、60歳以上の消費総額は10年ごろから年1兆円規模で増え、30年に家計消費の49%(111兆円)に及ぶ。前田展弘・主任研究員は人生後半のライフスタイルを提案するようなサービスの市場が未開拓だと指摘。「高齢者の課題を解決するビジネスが育てば、消費が飛躍的に伸びる余地はある」と話す。

担い手としての期待は消費だけではない。米ハーバード大のデビッド・ブルーム氏らは20年、労働、ボランティア、孫の世話など欧米の高齢者の経済的貢献度が国内総生産(GDP)の7.3%に相当すると算出した。日本の20年のGDPで見れば、建設業(5.9%)や小売業(5.7%)を上回る。

日本の高齢化率は29.1%と先進国で突出して高く、これが社会保障費の増大を招き、財政や家計を逼迫させる要因となってきた。しかし、寿命が着実に延びていくとすれば、65歳以上を高齢者と画一的に考え、限界を設定する必然性は薄れる。~~

日本が先頭を走って人生100年時代に突入していることが、改めて認識されます。上記から、高齢者における需要者と供給者の2つの面を考えることができます。

2019年時点で約1850兆円と言われていた日本人の金融資産は、その後コロナ禍で増えて今では約2000兆円と言われています。このうち、人口の約34%である60歳以上の層が大半を保有しているということです。これらの資産の多くは活用されきっていませんが、大変な潜在力の大きさです。需要者の面として見たときに、この層に対していかに将来不安を取り除きながら消費を喚起するような取り組みができるかが、改めて重要であることに気づきます。

供給者の面として見た場合、この層をいかに人材活用できるかということになります。このことも、経済活性化には不可欠な論点です。

定年延長に関する検討が各所でなされていますが、(職種や会社によって一律ではありませんが)場合によってはあまり意味をなさない検討なのかもしれません。理由は、定年を何年間か延長したとしても、結局その定年からまだまだ人生が続く「センテナリアン」がいるからです。一方で、高齢者は体力・気力等の個人差も大きいため、無限定雇用している正社員に対してどこかで定年というひとつの区切りも必要でしょう。

定年延長ももちろん意義あることながらそれ以上に、高齢者が自分に合った活躍の仕方を選べるよう、定年後の多様な選択肢を準備し、一人でも多くの高齢者人材を活用する視点が重要だと思います。その理由を、改めて以下にまとめてみます。

・「センテナリアン」に象徴される通り、平均寿命も健康寿命ものびている
・仕事を単なる(定年と同時にその機能が役目を終える)生きる手段ではなく、生きる目的と捉えようとするキャリアの考え方が広がってきた
・若手社員が減り続ける
・テレワーク等の発達で従来ほど体力を必要としない働き方も可能になった
・これからの高齢者人材は、テレワーク等の技術に対応できる人が増える

しばらく前から、「グランドシッター」という言葉も聞くようになりました。グランドシッターとは、保育園や託児所、学童保育などの現場で、保育士や指導員のサポート業務を行うシニア人材のことです。私の聞いた話でも、定年時に特段の技能や技術を持っていないという自己認識のシニアの方で、学び直し(リカレント教育)によってグランドシッターの資格を取り、活躍される方がいるようです。グランドシッターの仕事を続ける中で、会社員時代で経験したことが、子供への対応や職場環境づくりの改善に活きることもあるそうです。こうした例を聞くと、シニア世代の活躍の仕方もいろいろあるというのを感じます。

冒頭の記事によると、65歳以上の労働参加率は、米国(20.2%)やドイツ(7.8%)に比べて、日本では25.3%と先に進んでいます。また、内閣府調査では65歳を超えても働きたい人は7割いるそうですので、まだまだ人材力として取り込めていないということになります。

高齢者が働くという概念が既に社会的に定着している日本が、供給者としての高齢者人材の可能性を最大限発揮し、結果として需要者としての可能性も発揮できれば、いろいろな社会課題の解決につながっていくはずです。

<まとめ>
定年後の人材活用が、社会課題解決の有力な一助となる。


いいなと思ったら応援しよう!