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転勤制度は選択肢

6月14日の日経新聞で、「転勤制度いつまで? 共働き時代に合わず、必要性の吟味不可欠」というタイトルの記事が掲載されました。長年日本企業の雇用慣行を象徴する制度として定着してきた転勤ですが、見直すべきだという社会的な流れも出てきています。

まず、自社での転勤の是非や効果を考える前に、このテーマに向き合う上での社会環境の前提について考えてみたいと思います。

1.世界標準ではない

一律の転勤制度や会社の定めによって個人の意思に関係なく転勤するという考え方は、世界標準ではないことを認識しておく必要があります。転勤という事象自体は各国でも見られるものの、本人の希望や会社との合意に基づいて行われるのが一般的であると聞きます。

柔軟な働き方を取り入れるサイボウズでは、転勤も原則は希望者を募る方式で行われているそうです。同記事では、「就業規則に「転勤は会社と従業員が合意」して行うと明記する。転勤希望者がおらず新拠点開設を延ばしたこともあったという。社員自身が「どうしたい」というキャリアの希望を会社に伝えることを重視する。」とあります。外国企業での個別の雇用契約を見たことはないのですが、サイボウズに近い定めなのかもしれません。

外国人労働者を含めた多様な人材の活用が、多くの企業で課題となっています。当然ながら、世界標準でない考え方や方法論は、理解が得にくいということになるはずです。転勤制度を自社の人事戦略の一環として取り入れる(もしくは維持する)場合は、理解を得にくい人材が増えていくという想定を踏まえた上で、行うべきだと言えます。

2.違法ではない

次に、転勤を伴う一方的な辞令は違法ではないということです。

このテーマでの有名な判例として、東亜ペイント訴訟の最高裁判決があります。同記事でも次のように紹介されています。(一部抜粋)

転勤は終身雇用制度と表裏一体でもある。会社都合で転勤辞令を受ける半面、安定した雇用が約束されてきた。こうした関係を象徴するのが1986年の東亜ペイント(現トウペ)訴訟の最高裁判決だ。転勤命令に従わず解雇された元社員の男性に対し、最高裁は単身赴任などの家庭生活への影響を「通常甘受すべき程度のもの」と結論付けた。

厚生労働省の「モデル就業規則」でも、以下のように書かれています。上記東亜ペイントを含め、多くの企業では(上記のサイボウズとは異なり)以下のような規程となっていることでしょう。

(人事異動) 第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。 2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。 3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

労働契約に同意して入社し、期待されている役務を提供することでその対価を受け取る。その期待されている役務に転勤が含まれているのであれば、労働者がそれを一転して拒否した場合、会社側も一転して契約を打ち切ることができる。これは当たり前のことだと言えます。

普段いろいろな企業と関わる中で、転勤によるトラブルについて聞く機会もあります。そのような場合には、会社側に問題があることも多い一方で、労働者側にも問題があることも多いものです。労働契約に合意したはずですが、あまりにもそのことに無頓着で、一方的に転勤を拒否するケースも見られます。労働契約は双方合意した約束事ですので、それに沿って履行するのは本来当然のことであるという意識を持つべきでしょう。

(就業場所や転勤可能性のような重要なことは採用時に説明されるべきもので、それがきちんと行われていないとしたら、企業側の別の問題になります)

3.一律の雇用契約が成果を上げた外部環境は崩れている

ただし、環境変化に伴って社会通念も変わってきています。上記モデル就業規則で付記されている説明では次のようにも書かれていて、労働者に配慮することも求められています。

もちろん、労働者の同意を得るようにすることが大切であることは言うまでもありません。なお、労働者の就業場所を変更しようとする場合には、労働者の育児や介護の状況に配慮しなければなりません。(改正育児・介護休業法)

労働者への配慮を求めている背景について、同記事では次のように紹介しています。

判決から間もない90年前後に変化の兆しが見られたと指摘するのは中央大大学院の佐藤博樹教授だ。当時、家族帯同ではなく単身赴任が増えていた。「夫の転勤に付いていくのが当たり前という意識が変わり始めた」(佐藤教授)
90年代は共働き世帯が専業主婦世帯を上回った時期にあたる。共働き世帯は21年に約1250万世帯と、専業主婦世帯の2倍以上だ。佐藤教授は「家族帯同はおろか単身赴任も難しい人が増えた。転勤制度は転換期にあり、企業は悩んでいる」とみる。

転勤は、配偶者(ほとんどの場合が妻)とその他メンバーの帯同か、単身赴任(ほとんどの場合が夫)を前提としています。妻もキャリアづくりに注力し始めた90年代以降、帯同によるキャリア中断を前提とするこのあり方では、「女性活躍と言いながらそれをさせないシステム」と言えるでしょう。もしくは「単身赴任により家族を分断させるシステム」のほうを選ぶかです。単身赴任についても、介護を抱える人が増えるなどして、さらに難しくなっています。また、テレワークなどの活用で、居住地移転しなくてもできることが増えてきました。

そして、同記事にもある「転勤は終身雇用制度と表裏一体でもある」についてです。「単身赴任などの家庭生活への影響が通常甘受すべき程度のもの」と言える大きな要因は、「会社について行けば生涯雇ってくれ、その会社自体もつぶれることが少なく、生涯安泰」というメリットがあることです。特に、このメリットからの決別を公言しているような会社の場合、転勤というシステムを今後も維持するのが妥当なのかは、大いに検討するべきことだと思います。

続きは、次回以降取り上げてみます。

<まとめ>
転勤は、多くの場合、合意している契約事項。ただし、今の社会環境に合っているのか疑問。

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