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ヘアカット専門店のアジア展開の事例

1月22日の日経新聞で、「「QBハウス」ベトナム進出 ホーチミンに1号店 男性カット490円、清潔感売り」というタイトルの記事が掲載されました。ヘアカットのみのメニューで、「10分の身だしなみ」を提供するヘアカット専門店としてお馴染みのQBハウスが、ベトナムに進出するという内容です。

同記事を抜粋してみます。

ヘアカット専門店「QBハウス」のキュービーネットホールディングスは21日、ベトナムの最大都市ホーチミンで同国1号店を開いた。ヘアカット料は10歳以上の男性で8万ドン(約490円)。公衆衛生の意識が高まる消費者の利用を見込む。

イオンモールの旗艦店タンフーセラドン店に開いた。外光が差して明るく、清潔感のある店内に4台のカットブースを設置した。買い物でイオンモールを訪れた家族客を取り込む。

ベトナムでは車や歩行者が行き交う路上や十分な設備が伴わない古い店舗で散髪するケースも多い。路上店では4万ドン前後の値付けが目立ち、QBハウスの価格設定はこうした地場の店よりも高い。

一方、ベトナムでは若い世代を中心に公衆衛生への意識は高まっている。キュービーハウスベトナムの新見哲也社長は「『安ければ何でもいい』ではなく、衛生や接客、カットの技術の違いがわかる中間層の消費者にフィットする店づくりにした」と話す。

キュービーネットの海外事業はベトナムで6カ国目になる。2024年6月期末時点で米国や台湾などに128店舗を展開しており、29年6月期には250店舗に増やす計画を掲げる。

1月23日時点の為替レートでは、1ベトナムドン=約0.0062円です。路上店などの4万ドンは約248円となりますので、8万ドンは高めの価格設定となります。日本での同サービスは、他店に比べて低価格であることが武器のひとつになっていますので、日本市場とは少し異なる戦い方になるとも言えそうです。

例えばフォー(ベトナムのヌードル)も、1杯200円程度のものから1000円程度のものまで、立地や評判で値付けはさまざまです。8万ドンのヘアカットも選択肢として成立する余地は十分にあるかもしれません。

同記事の指摘にもあるように、日本では日常的で意識しないサービス要素が、他国ではそうでなかったりします

私にとって個人的にベトナムは身近な存在ですが、安いヘアカットの店ながら、設備や備品が古かったり不十分だったりで落ち着かない、衛生状況に不安が残る、担当者がヘアカットについて研鑽を積んだ人なのかわからない、料金がいくらになりそうか不明、などの状況はよく見かけます。「安全」だと認知できるシステムというのは、それだけでも強みになりえそうです。

さらにはQBハウスのように、ヘアカットの所要時間と待ち時間が一目でわかる状態の店は、見つけるのが難しいのではないかと思われます。

こうしたサービス要素が、異なる文化背景をもつベトナムでどこまで価値として受け入れられるかは未知数かもしれません。そのうえで、海外ではシンガポール、香港、台湾、ニューヨークで既に多くの出店実績がありますので、相応のニーズの見通しと勝算を立てているのではないかと想像されます。

このようなサービス業では、一定の初期投資とテナント料などのランニングコストが発生しますが、多くの在庫が必要となる物の仕入れなどはあまり必要としないはずです。近年では、飲食店などが海外市場に盛んに進出する話を目にすることがありますが、仕入れや食材管理などが大きな経費変動要因となる飲食店などに比べて、収支見通しを立てやすいと思われます。

一方で、簡単に中身が再現できない飲食店などに比べて、他社に模倣されやすいというという特徴もあります。日本市場でも、QBハウスが10分ヘアカット専門店の先駆け的存在として広まりましたが、類似のモデルのヘアカット店が後発で出てきて、共存しているような状況です。既存店はもちろん、今後出てくるかもしれない模倣店と共存していくのかも、注目に値しそうです。

ヘアカットというサービスは、市場規模がほぼ人口動態と連動するビジネスの典型です。日本でのヘアカット市場は、人口減少に合わせて小さくなっていくのが見込まれます。日本市場で自社の発展を目指すなら、10分ヘアカット以外の商品・サービスの提供に打って出るしかないと言えます。

そうではなく、コア事業での発展を基本方針とするなら、

・海外市場の開拓を目指す
・商品・サービスの中身や価格はもちろん、その他の構成要素にお客様のニーズを見出す
・その他の構成要素のうち、例えば「安全」といった、私たちがあまり意識しない要素、それを継続的に生み出せるシステムに焦点を当てる
・いずれ模倣者が現れようと、それまでに一定のブランドづくりと先行者利益を確保することを目指して、挑戦する

など本事例の展開から得られる示唆は、ヘアカット以外の事業、商材にとっても、参考になる視点ではないかと考えます。

<まとめ>
私たちの事業活動であまり意識していない要素を、強みとして認識してみる。

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