採用市場のこれから
先日、採用に関わる事業の関係者からお話をお聞きする機会がありました。
現在の採用市場環境に関するお話の中から印象に残ったことを、3つ挙げてみます。ひとつは、入社前から、入社5年経過後に転職するつもりで入社してくる新卒者が多いということです。
このことを考えるうえで、有効求人倍率という指標を見てみます。
有効求人倍率とは、求職者数に対する求人数の割合で、1.0を超えると求職者より求人数のほうが多いという状態になります。理論上は、1.0以上なら場所や職種・条件を選ばず経験等も不問であれば、日本のどこかに行けば必ず何らかの仕事が見つかる状態と言うこともできます。逆に1.0を下回ると、求職者数のほうが多いことになり、仕事に就けない人が出てくるということになります。
80年代以降の日本で有効求人倍率が大きな谷間になったのは2回で、バブル崩壊後の就職氷河期と言われた90年代後半、リーマンショック後の2010年前後です。いずれも0.5を下回る水準まで下がりました。ざっくり、求職者のうち2人に1人以上が仕事に就けなかった時代です。
一方で、コロナ禍もたいへんな経済活動の混乱を引き起こしましたが、1.0を下回りませんでした。1.0を下回らない理由の大きなひとつは、先日テーマにした生産年齢人口の減少です。求職者数が減れば、同じ求人数であっても、有効求人倍率が上がっていきます。
コロナ禍でも1.0を下回らなかったということは、今後未曽有の経済危機等が起こったとしても1.0を下回る、つまりは採用する側の企業が有利=買い手市場になることはないかもしれません。
求職する側=学生や転職者の側のほうが立場として有利な売り手市場が、今後も常に続くということです。景気が悪くなったら人がまた採りやすくなる、というわけではない。まず、このことを改めて明確に認識する必要があります。(もちろん、AIによる革命や国境をまたいだ大量採用が始まるなど、未来のどこかで日本の社会構造が根本から変わったら、この限りでもないと思いますが)
1.0を超えると理論上は売り手市場なわけですが、さらに、企業側が売り手市場だと実感するかどうかは1.2が分岐点となるそうです。2022年12月時点では1.35となっています。今の採用市場は、極めて売り手市場の傾向が高いということが言えます。
日本がバブル経済に浮かれていた時代があったと、ディスコのお立ち台で踊っている映像が時々テレビで流れます。その80年代後半で同倍率は1.40だったようです。1.35とほぼ同じです。このことからのイメージとしては、バブル絶頂期に瞬間的に人が採りにくかった頃と同じ環境が、今後ずっと継続していくかもしれないというわけです。
このような環境で就職・転職活動をする人は、倍率1.0を下回る環境下で就職・転職活動をした人と、いろいろな意味で特徴が違っていて当然です。
例えば、第一志望以外の会社に就職が決まった学卒者がいるとします。就職氷河期の頃は、それでも大いに満足し、これから入社することになる会社に対して、自分を拾ってくれた救い主だと心理的に感じる人も多かったはずです。
しかし、今であれば、仕事選びのチャンスは常に存在し続けます。なんだ、第一志望のところじゃなかった。ならば、しかるべき時のためにエネルギーを蓄えるべく、当面の間仕方なく腰掛ける場所にしよう、などと考えたくもなるでしょう。これは、会社や個人が良い悪い、採用側の努力がうんぬんという話ではなく、入社する前からそうなりやすい構造になっているということです。
「入社5年」という数字にも、一定の意味がありそうです。学卒者にとっての入社5年を年齢で置き換えると、「30歳手前」となります。30歳というひとつの節目までには、自身のキャリアにとって何らかの軸や手ごたえとなるものをつかんでおきたい、という表れなのではないかと思います。
既に働いている勤務先があり、新たに転職先を探す転職者の場合は、自分にとっての求人の選択肢が他にもあるという前提で、自分にとってより良い条件の環境はないか、じっくり探そうとすることになります。よって、以前と比べて、ひとつの求人に対して簡単には転職を意思決定しにくいということになります。
採用する側としては、こうした採用市場を取り巻く環境を踏まえて対応する必要がありそうです。自社で働くことが入社する人材にとってプラスになる理由、どんなことが得られるかについて、明確に伝える必要、それを可能にする職場環境を準備する必要があるということです。
続きは、次回以降取り上げてみたいと思います。
<まとめ>
日本の採用市場で、買い手市場となることはもう二度とない、かも。