長期賃上げの宣言
6月28日の日経新聞で「賃上げ継続、人に積極投資 AGCは30年まで 凸版も5年間決定 働きがい高める」というタイトルの記事が掲載されました。各社が賃上げの動きを強めていますが、そのことを改めて認識させる内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
同記事では、ゼンショーHDも30年までベアを行う宣言をしていることなども紹介していました。各社が賃上げする方針の積極的な発信は昨年以来よく聞くようになりましたが、今後7年間もの間ベースアップを宣言するといった長期的な約束の表明は、あまり見ないのではないでしょうか。
このことについて、2つの視点から考えてみます。ひとつは、従業員と従業員予備軍(これから求人への応募を考える可能性がある社会人や学生)への効果です。これは、とても大きいのではないかと考えます。
AGCや凸版印刷のような有力な上場企業(そうでなくても同じではありますが)は、一般株主による監視の目があります。表明した宣言を簡単に破るわけにはいきません。7年間もベースアップを約束するのは、人件費管理の観点からもたいへんなリスクです。まず、それができる財務状態と事業展望であろうということが言えます。そして、会社として従業員への還元意思を持っているということです。
そして、従業員が最も関心があるのは、「将来不安からの回避」ではないかと、私は考えます。今後7年間もの間具体的な収入増がイメージできることは、回避願望に大きく応えてくれます。明確な宣言をいち早く行ったことで、今後就職情報媒体などでも取り上げられると想定され、求職者にはプラスの影響を与えると考えられます。
もうひとつは、賃上げの動きが長期にわたるだろうということです。
賃上げは、自社としてどこまで可能か、自社の財務状態と相談しながら方針決定するのが基本原則です。そのうえで、求職者から自社を選んでもらうためには、他社の相場から外れた賃金水準に終始するわけにもいかず、外部の労働市場との競争が避けて通れません。
よって、一部の有力企業が始めた長期にわたる宣言は、多くの企業に追随する動きを促し、賃上げを迫る結果になるはずです。
企業によっては、「円安と物価高の動きは一時的なものかもしれない。今期は一時的な物価手当や賞与での還元でまず様子見」という判断だと聞くことがあります。その判断が必ずしも間違っているわけではありません。しかし、多くの企業で相応の賃上げが長期間継続する前提のシナリオが出始めている点を考慮した上で、自社の方針を考えるべき状況になってきているということです。
長期賃上げ宣言をした企業の、今後の採用ブランドがどのように変わっていくのか、注目してみたいと思います。
<まとめ>
長期間にわたる賃上げ宣言は、従業員の将来不安を和らげる効果がある。