そのサービス、無料で妥当なのか?(2)
8月26日の日経新聞で、「サイゼリヤ、「値上げせず集客」苦境に 物価高・円安で変動費増 損益分岐点高止まり」というタイトルの記事が掲載されました。
サイゼリヤについては、値上げしない方針の維持のため、対策の一環として無料の粉チーズを有料にしたことを、第1020号でも取り上げました。工夫しながら事業運営しているものの、収益性が厳しくなっているという内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
同記事から考えたことを3点挙げてみます。ひとつは、日本で物価上昇は市民権を得てきているものの、他国との相対比較ではまだ弱い可能性があるということです。
同記事では、「アジアを中心とする海外事業では、日本よりも受け入れられやすい値上げも進めている」とあります。サイゼリヤが価格維持戦略をとっているのは、あくまでも日本に限った話だということです。逆に言うと、日本ではまだ物価上昇への消費者の耐性は道半ばだということです。
自社の商品・サービスで、値上げに対する買い手の耐性はどこまで得られているのか、適切な見極めが必要だというのを改めて感じさせます。
2つ目は、「顧客1人あたり単価」×「顧客数」のうち、商品・サービス戦略上どちらを目指すのかの明確化が有効ではないかということです。
サイゼリヤは、明確に「顧客数」のほうだというのが分かります。(正確には、メニューの値上げをせずとも、顧客1人あたりの注文品数が増えれば顧客1人あたり単価増になるが、その論点は割愛)
こないだ日曜日の11:30頃にサイゼリヤに立ち寄りましたが、半分以上は空席でした。その店がたまたまかもしれませんが、それなりの商圏であり正午は満席近くだったため、同記事の示唆する機会損失は存在するのだろうと実感しました。
損益分岐点売上高1184億円に対して、現在の売上高は1166億円。コロナ前の来店客数にまだ戻っていないということを勘案すると、同社の商品力であれば来店客数の増加のみによって損益分岐点売上高を超えるのは十分可能と思われます。
「単価」も「顧客数」も両方追えればもちろん理想ですが、両方を追えないならどちらかに絞り込む必要があります。「単価も来店客数も」のマルチイシューではなく、「機会損失を解消し来店客数増」とシングルイシューに絞り込むことで、各責任者・担当者のやるべきことが絞りやすくなると思います。
3つ目は、この局面を値上げなしで乗り越えれば、サイゼリヤの他店に対する競争優位性はいよいよ不動のものになり得るという点です。
日経新聞別記事を参照すると、22年度に提供メニューを値上げした外食企業は全体の93.9%で、23年度は52.6%が値上げに踏み切る方針だということです。22年度以降だけでもほぼすべての企業が1回あるいは複数回値上げをしているのが分かります。
これから未来永劫値上げをせずに済むかどうかは別問題として、直近2~3年を来店客数増とコスト減によってしのぐことができれば、外食他社を引き離して相当な強みノウハウとして蓄積されそうです。
値決めは経営だと言われます。
価格維持戦略が今後功を奏すのかどうか、注目してみたいと思います。
日曜日は名物100円ワインを飲もうかどうしようかかなり迷いましたが、その日中の資料作成タスクがあったことからワインは注文せず店を出ました。
<まとめ>
改めて、売上=「顧客1人あたり単価」×「顧客数」である。