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多様性ある組織で成果につなげる(3)
2月20日の日経新聞で、「老いる日本の取締役会 平均最高齢に、70歳以上18% 世代の幅、株価と相関」というタイトルの記事が掲載されました。取締役の年齢層と業績や株価の相関について考察している内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
上場企業の取締役で高齢化が進んでいる。平均年齢は2011年の約59歳から24年に約62歳になり、70歳以上の比率は7%から18%に高まった。高齢役員は経営に関する経験値が高い一方、デジタルなどに弱い傾向があるとの指摘が出ている。幅広い年齢層から取締役を起用する「年齢の多様性」と株価の関連性は高いとの分析もある。取締役会の若返りが、企業の課題になっている。
QUICKの東証プライム企業(21年以前は東証1部)のデータを基に日本経済新聞が集計したところ、取締役の平均年齢は24年に62.2歳と遡れる11年以降で最高だった。
年齢層が高いことが多い社外取締役の増加も影響したとみられるが、社内の取締役に絞っても平均年齢は58.9歳から60.9歳に高まり、70歳以上の比率は4%から9%に上がった。
海外に目を向けると、社外取も含む平均年齢は米ナスダック(61歳)、英国(60.1歳)、ドイツ(59.3歳)、韓国(59歳)、香港(54.9歳)と東証プライムより低いケースが多い。米ニューヨーク証券取引所(NYSE)は平均62.9歳とプライムを上回る。
取締役の年齢と市場評価には関連性があるのか。24年に早稲田大学大学院の柳良平客員教授がアビームコンサルティング(東京・中央)と共同で調査した。大企業約100社の個社分析を基に、PBR(株価純資産倍率)との相関が認められたケースが多かった非財務指標をランキングしたところ、温暖化ガス排出量などを抑え「役員の平均年齢の若さ」が首位だった。
もっとも、この調査結果は一概に高齢役員を否定するものではないという。柳氏が日興アセットマネジメントと、東証株価指数(TOPIX)銘柄を対象に実施した別の分析では「最年少取締役の年齢」や「取締役メンバーの年齢幅」などもPBRと相関があった。柳氏は「重要なのは取締役の『年齢の多様性』だ」と結論づける。
海外でも同様の見方がある。米アライアンス・バーンスタインが米主要1000社を「取締役の最年長と最年少の年齢差」で分類し17~23年の株価を分析したところ、年齢差が大きい企業の年平均リターンは20数%と年齢差が小さい企業(約15%)を上回った。特にヘルスケアやテック、一般消費財や生活必需品などでその傾向が強かった。
「年齢の多様性」を体現する日本企業がサンリオだ。20年に、社長が当時92歳の辻信太郎氏から孫で同31歳の辻朋邦氏に交代した。経営陣も若返り、取締役の平均年齢は20年の68歳から24年に51歳となった。
年齢層も分散する。36歳の辻社長が最も若く、他の取締役は40代前半から60代半ばまでと年齢の幅が広がった。事業戦略や海外、デジタルなどを40~50代の取締役が担う一方、法務などの知見をもつ60代半ばの役員がリスク管理などを担当する。
「社長が交代し、キャラクターなど知的財産(IP)を活用して稼ぐ意識が高まった」(国内運用会社のファンドマネジャー)といい、好採算のライセンス事業を海外で伸ばした。ゲームやSNS(交流サイト)なども活用した販促で稼ぐ力を高めた。
キャラ創出を強化しつつ、今期も「ハローキティ」50周年関連のライセンスや物販が好調に推移。IPが世代を超えて稼ぐ。25年3月期の連結売上高は前期比41%増の1405億円、純利益は2.3倍の405億円を見込む。株価は過去5年で10倍を超えた。
「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは24年、安田隆夫創業会長の長男である当時22歳の裕作氏を非常勤の取締役に指名して話題を呼んだが、他にも若い40代の取締役が4人いる。50代は6人、60代以上は4人だ。独自性の強いプライベートブランド(PB)などを武器に業績を伸ばし、株価は5年で2倍を超えた。吉田直樹社長は人材がバランスよく育っているとして「後継には安心感を持っている」という。
同記事では、高齢の役員ならではの知見にも意義があり、役員が高齢であること自体は問題ではないとしています。問題は、役員の年齢層が高齢に偏ることだとしています。妥当な視点だと考えます。
高齢役員ならではの経験値には、若手が持ち得ていない知見もあります。逆に、技術の最先端分野など若手が強みとなりやすい領域もあります。
多様性については、以前以下の投稿をしました。人口統計学的多様性や認知的多様性があることで、見える世界や物事のとらえ方が違ってくることが示されているという内容でした。組織が思考し的確な意志決定を進めていくうえで、人材の多様性は鍵のひとつになりえるということです。
役員が高齢層に偏るのが組織を弱める可能性があるのと同様に、役員が若年層に偏るのも危ういと言えます。また、役員が全員男性であることが妥当なのかということも時々話題になりますが、反対に役員が全員女性でも危うさは同様だと考えられます。
年齢や性別、国籍などが偏っていないかに加えて、財務、マーケテイング、技術、組織人事、法務など経営の諸テーマの領域をおさえることができるかも必要な視点です。いくら年齢などの属性の多様性があっても、こうした経営の各領域が偏っていたり抜けていたりする場合は、不十分な陣容になりかねません。
もちろん、事業領域・組織規模の限られた中小企業が、役員の布陣でこれらすべての領域の専門性を網羅するのは難しく、そこまでの必要もないかもしれません。そのうえで、自社にとって、特に必要性が高いと判断される属性や領域を特定し、人材調達や登用で補うことが望まれます。
以前、ユーチューバーを社外役員として登用した企業の例を投稿しました。自社なりの取締役の布陣について考える例のひとつだと思います。
また、このテーマは、取締役に限ったことではないはずです。管理職層、部署のメンバー構成など、従業員全体に当てはまることです。自組織にとって必要だと考える多様性が実現しているかどうか、振り返ってみたい視点だと思います。
<まとめ>
それぞれの人材の持ち味、特徴を活かす。