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高アル飲料の市場縮小を考える

2月21日の日経新聞で、「キリンが「高アル」見直しへ 健康配慮、国指針受け アサヒとサッポロは新商品発売せず」というタイトルの記事が掲載されました。厚生労働省が19日、健康を維持するための適正な飲酒に関する初めての指針を公表したことを踏まえて、キリンビールがアルコール度数8%以上の缶チューハイについて販売の是非を検討する考えを示したということです。

同記事の一部を抜粋してみます。

缶チューハイの中でも度数の高い「ストロング系」とも呼ばれ、価格も安く手軽に酔えるとあって人気を集めてきた。一方で缶は開けてすぐ飲めるうえ、飲みきりという飲用スタイルから、度数の高い他の酒類よりアルコール依存症へのリスクが高い懸念がある。

キリンビールは厚労省のガイドライン公表を受け「(ストロング系について)社会から様々な意見があると認識しており、今後の販売についてはあらゆる可能性を検討している」とした。

「一気に飲む方が多いので、責任ある飲酒の観点からバランスを取っていく必要がある」。アサヒビールの松山一雄社長は1月の事業方針説明会でこう述べた。今後投入する缶チューハイはすべて8%未満に抑える考えだ。

同社は適正飲酒を推進する観点から商品数の削減を進めてきた。20年末の41商品から21年末に17商品に減らした。現在販売しているのはセブン&アイ・ホールディングスと共同開発した「クリアクーラーストロング レモン&ライムサワー」(度数9%)の1商品のみになっていた。一定の需要があるため、現時点ではすぐに販売を終了する予定はないという。

サッポロビールも18年末の20商品から「サッポロ 超男梅サワー」(度数9%)の1商品に減らしている。「同商品の販売を継続するかは検討中だ」としている。

一方、キリンビールは10商品の「ストロング系」を販売している。サントリーは23年末時点でハイボール缶2商品を含む9商品を出している。

各社が判断を迫られる背景には厚労省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」がある。適切な飲酒量の判断に役立ててほしいと23年11月に素案を策定し、24年2月19日に正式発表した。

お酒に含まれる「純アルコール量」に着目することが重要とし、1日当たりの摂取量で疾患別に発症リスクを例示した。大腸がんは1日当たり約20グラム以上、女性の乳がんは14グラム、男性の前立腺がんは20グラムでリスクが高まるとしている。

20グラム相当の純アルコール量は度数7%の350ミリリットル缶1本、日本酒1合、ウイスキーのダブル1杯などが目安になる。

影響は居酒屋にも広がりそうだ。つぼ八は「酒類を主力商品としている居酒屋などはかなり影響が出ると思う」と懸念する。「将来は純アルコール量の表示や、ガイドラインの抜粋などをメニューに掲載しなければならなくなる」と話した。

居酒屋「アカマル屋」などを運営するSANKO MARKETING FOODSは「時代の流れとして受け止めている」とし、その上で「飲酒を控える来店客も出てくることを想定し、低アルコールやノンアルコールのドリンクなどの販売を強化し、飲まない方でも楽しめる場を提供できるように対策を講じていく」と説明した。

高アルコール飲料の市場そのものはすでにピークアウトしている。調査会社インテージ(東京・千代田)によると、度数8%以上の缶チューハイの23年の販売金額は約1365億円と、ピーク時の20年に比べ23%減った。

販売額に占める割合も20年の約37%から約26%へと低下した。健康志向を背景にあえてお酒を飲まない「ソバーキュリアス」というライフスタイルも広がった。

世界保健機関(WHO)も「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を示すなど世界で適正な飲酒が求められるなか、各社は対応を迫られている。

私も高アル飲料を愛用してきましたが、商品の選択肢が減っていきそうです。

調べてみたところ、初めてストロング缶が登場したのは、2008年の氷結ストロングだそうです。以降、各社による商品ラインナップと市場が拡大していきました。かつて新ジャンルのアルコール飲料ということで各社こぞって拡販していましたが、今は逆方向に向かっているというわけです。

2017年にNHKの『ニュースウォッチ9』でストロング系缶チューハイの危険性が報じられたことなどもあって、じわじわと警戒感が広まり、このころから識者による危険性の指摘も散見され始めたようです。それもあって2020年あたりから高アル飲料市場は縮小傾向でした。今回のガイドラインによって一層の転機となりそうです。

各社での事業戦略や事業計画の策定の場に私もご一緒する機会がありますが、その際には環境の把握・分析を行います。会社を取り巻く外部環境、社内の内部環境の現状把握と今度の動向を想定します。

今後の動向の想定は、もちろんすべてが当たるわけではありませんが、経済、商品市場、競合、お客さまの嗜好などがどのように変わっていきそうかを自社なりに仮説立てておくことは大切です。どのような商品・サービスが、どの程度受け入れられる余地がありそうかを想定することが、事業活動の計画の前提になるからです。

その際網羅しておくべき項目のひとつが、規制や法制度の今後の動向です。

高アル飲料がピークを過ぎたとはいえ、一定の需要があるのは確かです。アルコール飲料を飲まない人や低アル飲料派の人が増えたものの、高アル飲料派向けに商品の選択肢を残しておくことは、お客さまの便益の視点からはあり得ます。

しかしながら、規制や法制度がそれを抑制するとなると、前提が変わってきます。

度数の高い酒は日本酒、ワイン、ウイスキーなどいくらでもありますが、「危険」な原因は「ジュースのようにごくごくと飲める」「飲み切りになっている」ことが挙げられます。つまりは、商品の特徴・強みとしていたことが、逆に規制を意識せざるを得ない要因となったと言えそうです。

度数7%の350ミリリットル缶1本を飲み切ることで、健康を損なうリスクが高まるとなると、飲み切りを前提とする高アル缶は1本で物理的にガイドラインに抵触することになります。お客さまのことを突き詰めて考えると、「飲む人の自己責任だ」と済ませるよりも、商品・形態として提供しないほうが適切という判断なのでしょう。

同記事によると、会社によってはこの流れを早くから察知し、会社の方針を策定して既に自社の高アル缶商品を縮小していたことが伺えます。

私たちは、自社の事業になじみのある市場で起こっている規制や法制度の今後の動向は、普段概ね把握できているつもりになっているものです。そのうえで、各社で改めて洗い出しをしていただくと、抜け落ちている内容や、ある人は知っているが別の人は知っていない内容などが出てくるものです。

最終的に商品・サービス戦略にどう反映させるのかは会社の意志決定次第ですが、自社の事業を取り巻く外部環境について、規制や法制度の観点からも、何が起こっているかを的確に把握しておきたいところです。

<まとめ>
自社を取り巻く外部環境を、規制や法制度の観点からも把握する。

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