商品・サービスの選択と集中
5月25日の日経新聞で「食品 5年で品目3割減 定番に集中、戦略転換 コスト圧縮/値上げ浸透へ/ネット購入増」というタイトルの記事が掲載されました。
国内食品メーカーが商品数を絞っていて、例えば2022年の品目数は5年前に比べて3割減ったということです。物流費や原材料費が高騰する環境下で、ブランド力のある主力商品に宣伝費などを集中して、値上げを浸透させる流れがあると指摘しています。
同記事の一部を抜粋してみます。
同記事から2つのことを考えてみます。ひとつは、商品・サービスの絞り込みの大切さです。
「事業の選択と集中」、つまりは「やらないことを決める」は、戦略立案における基本とされます。同記事の食品業界の動きは、そのことを改めて感じさせられる内容です。コスト削減効果に加えて、値上げしやすくなる効果があるというメカニズムも、うなずける視点です。
『選択の科学』の著者で知られるコロンビア大のシーナ・アイエンガー教授による実験結果をもとにした「ジャムの法則」というものがあります。選択肢が多すぎると選べなくなってしまう心理現象のことで、「決定回避の法則」とも呼ばれています。次のような概要です。(「社会人の教養」サイトを参照)
<実験の内容>
・スーパーマーケットに買い物に来たお客さんに、ジャムの試食販売をする
・被験者を2グループに分け、それぞれで取り揃えるジャムの種類の数を変えて、どれだけ売れたかを観察する
<被験者グループの条件と結果>
グループA:6種類のジャムを試食販売
試食をした人の割合:40%
試食後に購入した割合:30%
全数の購買率:12%
グループB:24種類のジャムを試食販売
試食をした人の割合:60%
試食後に購入した割合:3%
全数の購買率:1.8%
品揃えが6種類しかなかったグループAは、成約率(コンバージョン率)が10倍。直感的な予想を裏切り、「品揃えが少ない方が売れる」という結果になった。
<結果からの考察>
・24種類は多すぎて全部試食することができない
・多すぎる選択肢は、吟味できない選択肢を与えることになる
・吟味できない選択肢の中にもっと良いものがあるかもしれないと思い、決定できなくなってしまう
要するに、選択肢が多すぎると疲れて意思決定しにくくなる、ということでしょう。
例えば、Apple製品は、各ジャンル内のモデル数が3~4種類程度しかないとされます。iPhoneなら「ハイエンドモデル・大画面モデル・廉価モデル」といった具合です。iPhoneは世界中で売れていますので、もっと選択肢を準備しても相応の販売台数は出そうですが、選択肢として既に十分ということなのかもしれません。同社の収益性の高さは、このようなところも背景にありそうです。
もうひとつは、商品・サービスの絞り込みとそれに伴う値上げは、今後日本でさらに進むのではないかということです。
最大の要因は、人口減少です。人口が減ると市場も頭打ちになりますので、採算性の高い商品・サービスに絞り込む必要がますます高くなります。
これは、一般消費者向けビジネスだけでなく、法人向けビジネスも同様と想定されます。人口減少は法人数減少にもつながります。必要とされる商品・サービスメニューの数と提供する数が今は釣り合っている事業であっても、今後は釣り合いにくくなる流れとなりそうです。(もっとも、外国企業向けに提供するものについては、当てはまりませんが)
多品種少量生産で、一品物のニーズに応えることを戦略にしている企業もあります。そうした企業でも対応品目の絞り込みが有効なのかは一概に言えませんが、少なくとも値上げが必要とされるのは冒頭の記事の通りだと思います。
今後の環境変化を見据えて、必要となりそうな「商品・サービスの絞り込み」「値上げ」は、取り組みの前倒しを行ってもよいのかもしれません。
<まとめ>
経済環境の動向から、「商品・サービスの絞り込み」「値上げ」の必要性はますます高まりやすい。