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従業員株式報酬制度の活用

12月8日の日経新聞で、「全従業員に自社株を付与した」というタイトルの記事が掲載されました。丸一鋼管会長兼CEO 鈴木博之氏へのインタビュー記事で、人材あっての成長を大胆に進めるための施策だと紹介しています。

同記事の抜粋です。

全従業員に1人当たり平均で約870万円の自社株式を9月に付与した。これは丸一鋼管の平均年間給与(700万円弱)を上回る。株式で報酬を支払う仕組みを導入する企業は増えているが大規模な例は珍しい。

同社は近年、成長投資としてステンレスパイプ事業の新工場建設を決めるなど、積極的な経営をすすめる。ただ人材育成と技術伝承が課題だ。

付与した株式は60歳の定年までは原則売却できない譲渡制限付きとした。従業員が働き続けるモチベーションを高め、技術の保持につなげる。

人材育成への思いは強い。前職の住友商事ではブラジル市場の開拓を手がけた。その経験から丸一鋼管では、大卒の新人全員を1人ずつ海外子会社に派遣する研修を発案したほどだ。

2025年に社長・会長職は通算23年目となる。直近期の純利益は社長就任前の5倍になったが、自ら考える従業員こそ成長の源泉と話す。

「従業員には会社の今や将来に、より関心を持ってもらいたい」。今後は株式を付与する対象の子会社を増やすことも検討する。

従業員のやりがいや現場の技術伝承といった課題に、解をもたらすべく大胆に模索を続ける。

全従業員に対して年収以上の時価の株式を一度に付与するというのは、なかなか見られない例ではないでしょうか。

ヤフーファイナンスによると、同社の2025年3月の1株配当(会社予想)は、131円で配当利回り(会社予想)は3.75%となっています(12月9日現在)。

定年までは売却できない譲渡制限付きがよいのかどうかはいろいろな意見があるかもしれませんが、長期勤続者を優遇することが会社の戦略と相性よいのであれば、ひとつのやり方だと言えます。定年と同時に売却することで、年金や退職金に付加される収入源になると見なすこともできます。

加えて、株を保有しているだけでも、年間1人当たり平均で約32万6千円を現年収以外に受け取れると想定されます(870万円×3.75%)。株価が上がり会社業績も上向いていけば、受取額は年々増えていくことになります。月例給与の賃上げも意義がありますが、同事例ほどの自社株式保有ができれば、毎年のベースアップなどよりも効果が高いかもしれません。

私の周辺でも、自社株を割り当てられる例があります。やはり経営への参画意識や当事者意識は高まるのを実感します。

このような制度が機能するためのポイントだと考えられることを2つ挙げてみます。ひとつは、「十分魅力的と言えるボリュームの株式を付与する」ことです。

以前に知人から、勤務先の会社で譲渡制限付き株式の出資募集があったという話を聞きました。そして、勤続年数や職位等によって出資上限(出資の一部を会社が補助)が決められていたのですが、知人が出資できる上限は数万円程度でした。知人は、「たいした旨味もないし、手続きも面倒だからどっちでもいい」という反応でした。

記事の事例の870万円と数万円では、規模として雲泥の差です。しかも、(補助はあるものの)自分で金銭を出す必要があります。事例のような、年収を上回る規模の数百万円分などの付与ができる企業は限られていると思いますが、付与であろうと出資であろうと、やはりそれなりに魅力的な規模でなければ、経営への参画意識を高める効果は限定的になるのだと思います。

もうひとつは、従業員への情報開示です。会社の財務状態や業績指標、事業ごとの収支状況など、一部の秘匿情報を除いたあらゆる情報を従業員も確認できる状態にすることです。

「株価を高める企業価値向上につながる仕事をしてほしい」と経営への意識向上と参画、一層の成果貢献を求めておきながら、自社の現状を把握して何を考えるべきかのもとになる情報がクローズになってしまっていると、やはり貢献意欲は限定的になってしまうはずです。

いろいろな企業で、「賞与は個人の評価結果と会社業績の結果に応じて金額を決める」としながら、財務に関する情報の大半が非開示なために、賞与支給額の根拠や意味が分からない、という社員の話を聞くことがよくあります。

非上場企業で、これまで非開示だった情報を開示する場合、いきなりフルオープンにするのは混乱や逆効果もあるかもしれません。その場合でも、数字の読み方を学んでもらいながら開示範囲を決めて段階的に共有するなどのやり方もとれると思います。経営への参画意識を促すには情報開示は大切な視点です。

生成AIに聞いてみたところ、日本企業で持ち株会などを含めた従業員に対するなんらかの株式報酬制度を導入している企業の割合は、2023年5月時点で全上場企業のうち約23.4%だそうです。この割合は、過去10年間で3倍以上に増えているとのことですが、他国との比較では以下だそうです。日本での導入規模はまだ低いと言えます。

従業員株式報酬制度を導入している企業の割合
米国: S&P 500企業のうち、時価総額上位100社の88%
英国: FTSE 350企業のうち、時価総額上位100社の85%
ドイツ: DAX40とDAX100のうち、時価総額額上位40社の97%
日本のTOPIX100の対象企業100社で25%。100社のうち、時価総額上位50社で38%

従業員に経営への参画意識と行動を高めてもらううえで、株式報酬制度の観点から考えてみる余地はあるかもしれません。

<まとめ>
株式報酬の活用も、従業員への報酬の還元として有力な方法になりえる。

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