コングロマリットか分割か
東芝が2023年度にグループ全体を3つの会社に分割すると報じられています。最近は他にも、GEやJ&Jといった大組織の分割が話題になっています。11月12日の日経新聞の記事「東芝・GEが鳴らす「グレート・リセット」の号砲」には、次のように取り上げられていました(一部抜粋)。
~~株式市場で評判の悪いコングロマリット(複合企業)という形態には「良い」と「悪い」があるといわれて久しかった。良い事例は米スリーエムなど、悪い事例は日本の総合電機だ。
特徴は各部門が人材や情報をたこつぼ的に抱え込み、「事業部あって会社なし」に近い状態であったことだ。東芝が典型だが、品質や検査不正、パワハラ問題が相次ぎ発覚した三菱電機などでも状況は似ていたことが露呈した。そういう意味では、硬直的で閉塞感の漂う日本の総合電機経営のあり方に、東芝分割は一つの突破口を示す可能性がある。
米国では時を同じくしてゼネラル・エレクトリック(GE)が会社3分割を発表した。同社もリーマン・ショック以降、リストラや経営者の交代が続いたが、ここにきて129年続いた伝統の形を壊さざるを得ないのはイノベーションも新しい価値観も生めなくなったせいだ。同社の創業者トーマス・エジソンは「世界が今必要としているものを発明するのみ」と語ったが、脱炭素に根ざした21世紀型経営は今のままでは不可能だったということである。
コングロマリットと同様、会社分割にも「良い」「悪い」があるといわれる。少なくとも良い面は、業界再編を進めやすくする点だろう。GEは今まで「巨大企業すぎて他社と経営統合ができない」と考えられてきた。今後は一変し、発電機、航空機エンジン、医療機器と分野ごとに、他社とのM&A(合併・買収)で競争力や効率性の高い規模、形を追求しやすくなる。
東芝も同じだ。コングロマリットの弊害は社会のニーズにこたえられない低収益の伝統事業に引っ張られて株価が低迷、全体として成長投資が抑え込まれてしまうことだった。分割して独立企業にすれば、それぞれの時間軸と価値で投資が増やせ、イノベーションも生まれやすくなる。
先行事例は米化学大手のダウ・デュポンだろう。株主の要請で2019年に会社を3分割した。低成長の「特殊産業材」を手掛ける新会社の時価総額は減少したが、「農業」「素材」の2社はそれぞれ42%、13%高めた。~~
米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も、日用品や市販薬を含む「消費者向け部門」と、処方薬や医療機器などの「医療向け部門」の2事業に分割すると発表して話題になっています。
今回の東芝の決定についても、投資家によってポジティブ・ネガティブどちらも意見があるようです。上記記事にもあるように、コングロマリットには長所・短所があり、一概に悪いとは言えません。長所を生かせば良いコングロマリットとなるでしょう。会社分割も同様です。自社にとってどちらがよいかというと、長所によるメリットが短所によるデメリットを上回るほうを採用すればよい、ということになります。
自社にとって最終的にどちらがよいのかの判定には、多くの論点や検討すべき項目をリストアップでき、それらの分析が必要になると思いますので、簡単でもありません。そのうえで、コングロマリット型がよいかどうかについては、自社が抱える複数の事業が以下のいずれかに当てはまるかを、基本的な要素として考えてみるとよいのではないかと思います。
・ビジネスモデルとして類似している。
・ヒト・モノ・情報のいずれかの資源を融通し合あうことによる相乗効果が高い。
・共通のブランドとすることで明確なメリットが得られる。
ビジネスモデルが類似していれば、事業間でノウハウの共有によって生産性の向上が期待できます。また、必要とされる資材やインフラが共通していれば、大量仕入れ等によるコスト削減も期待できるでしょう。
人や設備を同時に共用できる場合も、メリットは大きいと言えます。同時とまでいかなくても例えば、人材が事業間を行き来し活動することが、各事業で新しい人を個別に雇用するよりも労使双方にとって生産性が高いならば、コングロマリットのメリットのひとつになり得ます。
地域密着の企業の中には例えば、建設、不動産、広告、介護、農水産業など、大きく異なる事業を多角的に経営しているところがあります。共有できるヒト・モノは限定的ですが、事業の対象地域を絞ることで、顧客に関する情報を共有することができます。また、その地域に根差したブランドが浸透することで、安心感を高めたり、「○○地域に関することなら、まずはあの会社になんでも聞いてみれば・・・」のような顧客の期待を集めたりすることができそうなら、コングロマリット形態をとることによる優位性があると言えそうです。
逆に、上記のどれにも当てはまらないならば、コングロマリットにするメリットは少なく、分割したほうがよいのではないかと考えることができます。東芝においては、次のように報道されています(日経新聞記事参照)。上記と照らし合わせても、コングロマリットを維持するメリットは少なくなったという判断なのでしょう。
・インフラサービス会社:発電、公共インフラ、ビル、ITソリューションなど→ビジネスサイクル長期、設備投資少額、個別受注生産
・デバイス会社:パワー半導体、HDD、半導体製造装置など→ビジネスサイクル短期、設備投資多額、大量多品種生産
・東芝(資産管理会社):キオクシアや東芝テック株などを保有
そして、このことは会社全体についてもそうですが、ひとつの部門や部署、チームなどの小さな組織単位に置き換えても同じことが当てはまると思います。
・取り組むべき課題のテーマ、タスクの進め方が類似している。
・ヒト・モノ・情報のいずれかの資源を融通し合あうことによる相乗効果が高い。
・共通のチーム名・組織名などとすることで明確なメリットが得られる。
先日、ある企業様で来期以降の組織編成について検討する機会がありました。その結果、ある部署を分割することになったのですが、上記3つの要素のどれにもほとんど当てはまりませんでした(部分的に当てはまることもあったが、とても限定的)。分割のほうがメリットが大きいと思われます。
今回のメガ企業の分割は、自組織のあり方を考えるよい機会にもなると思います。
<まとめ>
コングロマリットと分割と、どちらの形態のほうが長所によるメリットが大きくなるかを、考えてみる。