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小売りの米国市場進出例を考える

9月2日の日経新聞で「ダイソー磨く円安の逆境 米国で1000店体制へコスト削減徹底」というタイトルの記事が掲載されました。100円ショップ「ダイソー」の米国展開について取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

100円ショップ「ダイソー」を手掛ける大創産業(広島県東広島市)が米国に進撃している。現状の130店舗を2031年2月期までに1000店舗まで広げる。13期連続で増収を続けてきたが、事業成長と「100円」のハードルは年々高まっている。円安の逆風で鍛えた商品力をテコに、米国ほかインドなど主要国で急ピッチに世界販売網を広げる。

24年、大谷翔平選手が活躍するロサンゼルス・ドジャースのスポンサーに就いた。球場のバックネット下に掲げられた「DAISO」ロゴが何度もテレビに映り込む。

「今は投資をする時期。知ってもらうことを優先している」。05年に進出し、大半を1.75ドル(約250円)で販売しているが、100店舗あまりの店舗網では物流コストなどが合わないとみられる。

広島発の大創は国内中心に店舗数を拡大させてきたが、グローバル企業に脱皮しようと、目線は高い。海外売上高比率を現状の1割から31年2月期までに3割に高める野望を掲げる。矢野靖二社長は「100円ショップでの国内シェアは6割を超える。人口も減るなかで、外を向いていくしかない」と話す。

ダイソーの国内店舗の増加は24年2月期、約30店舗にとどまった。国内3800店舗を展開し、ここ数年は増加ペースが落ちている。価格帯の異なる新業態店などで国内をてこ入れするが、それだけでは成長余力は乏しい。

そこで力を入れるのが海外となる。米国には特にこだわる。矢野社長は「米国は成功する要素が多い」とみる。市場が大きいだけではなく、収益確保に苦しみながらも、消費者からの引き合いに手応えを感じるためだ。

米国には「ダラーショップ」と呼ばれる1ドル超で商品を販売する雑貨屋が存在する。ダラー・ゼネラルとダラー・ツリーの大手2社はそれぞれ米国内で1万店以上を展開する。それでもダイソーの日本語が書かれた商品や小ぶりのアイデア商品、日本のキャラクターが印字された商品が好評を得ている。「クール」「かわいい」。大創が米国で実施したイメージ調査ではこうした言葉が挙がった。

キッチン用品も意外な売れ筋となっている。米国ではほぼ全ての商品が日本で売っているものと同じで、体格の大きい米国人にとって日本仕様のまな板や食器などのキッチン用品は小ぶりにも思える。ただ、機能性や取り回しに優れ「差異化できている」(矢野社長)といい、商品群を充実させる。

食品を呼び水に誘客力を高める施策にも力をいれる。日本食を求めて多くの客が日常的に来店するため、日本と比べて食品の引き合いが強い。米国で販路をつくりあぐねている日本の食品メーカーに対して、「一緒に米国を攻めよう」と仲間を募る。食品各社が集まる見本市にも積極的に出展する。

円安の逆風も「追い風」につなげる。「つぶれるかと思った」。矢野社長は急激に円安に振れた22年を振り返る。大創の店舗は8割が国内である一方、取り扱う商品の7割は海外生産で、円安が経営を直撃した。

「シー・ビー・エム(CBM)をもっと減らせないか?」。大創の社員の間で最近、この言葉が飛び交う。CBMとは「Cubic Meter」の略で、商品の積載容積を表す。円安の逆風下ゆえにCBMを減らし、効率輸送で物流コストを1銭でも低減する意識が高まった。

台所で使うお玉セットはパッケージ面積を8割減らし、積載効率も5割改善した。クッションは真空パックで容積を減らしたほか、リングファイルでは畳んだ状態ではなく広げて梱包することで積載数を高めた。

矢野社長は「円安がなければ、ここまでできていなかった。円安があって強くなった」と吐露する。粗利益率の改善のため、一部商品では減量にも踏み切った。「雑巾を絞るような努力を続ける」。米国で培ったノウハウを他の地域でも武器にする。インドは将来的に200店体制を整えるべく、出店攻勢をかける。

同記事からは、主に3つのことを考えました。ひとつは、ピンチをチャンスと捉えなおすということです。

為替の動向は、自社の努力ではまったく変えることができない、完全な外部環境要因です。商品・サービスが店頭に並ぶまでに必要な工程要素の多くを輸入が占め、かつ、わずかな値上げが商品・サービスの存在価値に極端に影響する「100円ショップ」という形態を営んでいる同社にとって、円安は死活問題です。

そのピンチにしか見えない局面を「強くなれるチャンス」と捉えなおして、できることをすべてやる、事業戦略を立てる。簡単なことではありませんが、外部環境は動かせない以上、自社の強みを活かして打開するしかありません。

それぞれの会社にはそれぞれのピンチと呼べる局面があり、またそれぞれ何らかの強みがあるわけです。強みのまったくない会社は存続できていません。同事例は、外部環境に対して強みで対応するという原理原則の、好例ではないかと感じます。

2つ目は、縮小する国内市場への対応を考える必要性です。

国内の既存消費市場の多くは、今後の人口減少に伴って確実に縮小となります。例えば、コンビニの新規出店数も頭打ちになっています。既にあるもので、国内の消費者にある程度浸透している商品・サービスについては、今後は拡張余地がなく減っていくのが基本的なトレンドです。

私たちはそのことを改めて念頭に置くと、打ち手は大きく2つとなります。まったく別の需要をつくるか、あるいは、既存の商品・サービスやその周辺領域であれば、国外市場に出ていくかの、どちらかです。国内のみで既存商品・サービスの維持や成長を目指してもパイの取り合いにとどまることも多く、多くの事業者にとっては、改めて国外市場開拓が有力な方向性になります。

人口減少トレンドが起こった国で、その後トレンドを食い止めて、人口置換水準(現在の人口を維持するのに必要な出生率。2.07~2.1と言われている)まで反転することに成功できた国は、いまのところ有力な例がありません。人口大国のインドでも、既に出生率は2.0まで下がっていると言われます。長期トレンドでは人口は減少が見込まれるということです。

一方で、移民の流入が見込まれる米国は、2100年まで人口が増え続けるという予測もあります。今後、よほどの国家施策の変更や天変地異などがなければ、人口増加というトレンドは変わらないかもしれません。円安というリスクをヘッジする観点に加え、高い経済力のある消費市場がさらに拡大する流れに乗れる観点からも、米国への本格的な進出は事業者にとって改めて有力な打ち手だと考えることができます。

3つ目は、自社が買い手に対して示すことができる、差別化要因を明確にすることです。

同記事によると、ダラーショップという似た形態の店舗がある中で、同社がこれまでに開発してきた商品がそのまま、他店にはない差別化要因になるというわけです。日本にある100円ショップ市場以上に、米国市場では同社の特徴が目立ち、他店に対して差別化要因を発揮できているのかもしれません。

今のうちに、米国市場で和製ダラーショップとして先駆者の地位・チェーンの確立に成功すれば、将来的なリターンは多くの可能性が見込めるかもしれません。

フォーブスジャパンの関連記事を参照すると、米国のダラーショップはインフレが加速した近年でさらに成長モードに入っているようです。また、食品の取り扱いを増やして、消費者の支持を得ているという紹介もあります。冒頭の記事にも、食品を呼び水にしているとあり、日本市場以上に食品が重要アイテムなのかもしれません。

日本以上にインフレが進む米国で、ダラーショップという形態を維持している競合のノウハウや企業努力も、相当なものなのだろうと推察します。今後、そうした競合の中で同社の取り組みが磨かれて、米国で地位を確立しさらに他国に展開できるのか、注目したいところです。

<まとめ>
ピンチをチャンスと捉え、外部環境に対して自社の強みで対応する。

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