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従業員持ち株会の保有金額と株価・業績との関係を考える

5月30日の日経新聞で、「株価「従業員に聞け」本物か リターン左右、持ち株会の重み増す」というタイトルの記事が掲載されました。従業員による勤め先の株式保有額が大きい企業ほど、株価や業績が上がっているとする分析結果を紹介している内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

先行きの株価は「従業員」に聞けばいいのではないか――。野村証券のクオンツ・アナリスト、西岡伸氏はそんな視点で株式市場を分析した。各社の従業員持ち株会の情報と株価や業績との関係を調べてみたのだ。

東京証券取引所上場の主要500社を対象に、従業員持ち株会の保有金額をもとにした「従業員1人当たり保有額」を算出。その大きさで3つのグループに分けて比べると、大きいグループの株価リターンが高く積み上がる結果となった。

期初時点の予想通りに企業が収益を出せたかという達成度でも、1人当たり保有金額が大きいグループほど高い達成率だった。「自社の株価上昇を目指して業績をアップさせようというモチベーションが従業員に働くからでは、と分析結果からみてとれる」(西岡氏)

従業員1人当たり保有金額が大きく、かつ直近の買い増し額も大きい企業として名前が出てくるのは、ANAホールディングス、日本取引所グループ、味の素などだ。

持ち株会の売買行動と株価の関係をみると、株価自体に動きがみられない期間に買い増しがあった場合に、その後の株価パフォーマンスが上がる傾向がみられるという。

東証の2022年度の「従業員持株会状況調査」によれば、上場企業の8割強が持ち株会を持ち、その保有金額は全体で6.6兆円、時価総額の0.94%に相当する存在だ。1人当たり平均保有金額は220万円だった。

振り返れば、古い企業ほど持ち株会はバブル崩壊のイメージを引きずった。積立額に対する含み損、最悪は経営破綻で仕事と資産の両方を失う例もあった。東証の調査でも従業員全体に占める持ち株会の加入者数の比率は37%にとどまる。そうした谷底から徐々に脱し、持ち株会に視線が向かい始めたのは、今の株高がもたらした風景の変化の一つといえる。

株価を意識した経営。これと従業員の目線をどう合わせるか。クレディセゾンは24年度スタートの中期経営計画で、「社員全員が業績や株価を意識する風土づくり」として持ち株会の活用を明記している。

ANAは昨年、持ち株会の会員に自社株を取得のための奨励金を支給すると発表。1人当たり70株相当の奨励金で、業績の回復などを支給の理由とし、従業員の働く意欲を高める狙いだった。

米国の巨大ハイテク企業は、株価の上昇を通じて従業員の働きに報いる仕組みを大胆に生かし、優れた人材をひき付ける。譲渡制限付きの株式などを報酬として従業員に渡す動きは、日本企業でも広がりつつある。

企業の株主は、機関投資家や個人投資家だけではなく、その企業の従業員ということもありえます。

同記事によると、上場企業の8割以上で持ち株会があるということです。勝手に想像していたよりも高い数字の印象です。1人当たり平均保有金額の220万円というのも、意外と多い印象です。一方で、持ち株会の加入者数の比率は全体の37%ということで、持ち株を保有していない人のほうが過半数ということです。このあたりは、今後の課題のひとつのように見えます。

金融広報中央委員会の「2022年 家計の金融行動に関する世論調査」によると、総世帯の金融資産保有額は平均1,150万円、中央値は280万円だということです。内訳としては、単身世帯の平均値は871万円、中央値100万円、2人以上世帯は1,291万円、中央値400万円だそうです。

2人以上の場合は、本人以外の金融資産が合算されているでしょうから、単身で考えたほうが1人あたりの金融資産としては実情に近いと想定されます。

さらに、上場企業は賃金水準が高いことが想定されるため、「上場企業勤務社員1人あたりの平均金融資産」は871万円を超えると思われますが、そのようなピンポイントの情報は見当たりませんでした。加えて、平均値と中央値の差も大きすぎるため、上場企業で持ち株を持っている人の金融資産が実態としていくらぐらいなのかは、想像の域を出ません。

その前提で仮に1,000万円としてみます。1,000万円のうち220万円は22%に相当します。皆さんは、金融資産のうち、22%も株式投資に振り向けているでしょうか。中にはそういう人もいるかもしれませんが、一般的には11%程度という統計もありますので、それよりはるかに高い数値と想定されます。

それも、投資先全体ではなく1社に対して22%だとすると、自分の勤務する会社の株をかなりの規模で買っていることになります

これが全員での1人あたり保有金額平均です。同記事では、「従業員1人当たり保有額の大きさで3つのグループに分けて比べると、大きいグループの企業の株価リターンと業績達成度が高い傾向にあることが分かった」とあります。

つまりは、(同記事中に内訳までは出ていませんでしたが)3つのグループのうち、保有額が大きいグループは、1人あたり平均で300万円や400万円といった保有額なのかもしれません。本人の保有する金融資産のうち、きわめて多くの割合を勤務先の株式保有に充てていると言えそうです。

従業員も日常の景色を敏感にくみ取っているはずだと思います。「この会社の株は上がるはずだから積極投資したい」「今の仕事で成果を上げたときのリターンを期待する」「成果を上げると決意したい」と思えなければ、持ち株は増やさないはずです。

同記事の図表を参照すると、TOPIX 500銘柄で2002年をゼロとしたときに、2024年の株価リターンは、保有額が大きいグループは5%を超えるプラスのリターン、保有額が小さいグループは10%を超えるマイナスのリターンとなっています。対象の500銘柄だけですので、全企業の場合にどこまで同じことが当てはまるのかはわかりませんが、保有額が大きいグループのほうが株価リターンが高いのが如実に表れています。

以上の範囲からまとめてみると、次の通りです。

・自社の株を従業員が保有することで、従業員本人の仕事に対するオーナーシップを高めることを期待するのは、有力な方法のひとつとして考えられる。

・単に持ち株会を制度化するだけでは不十分で、従業員が積極的に保有しプラスの効果を生むとは限らない。「持ち株を保有したい」と思わせる経営・マネジメントが必要である。

<まとめ>
従業員持ち株会という方法は、企業が組織的な成果を高めていくうえで一考の価値がある。


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