見出し画像

海外大の新卒採用を考える

12月13日の日経新聞で、「海外大の新卒獲得に熱 企業の人手不足、バブル期に匹敵 「金の卵」の新発想に期待」というタイトルの記事が掲載されました。

日本の労働力人口減少・採用難への対応から、外国人人材の獲得に力を入れる動きが広がっていますが、そのことについて海外大の新卒採用の領域から紹介している内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

日本企業が海外大の新卒者らの獲得に力を入れ始めた。高度成長期、バブル期に匹敵する人手不足の「第3の波」に見舞われるなか、国内採用だけでは人材の質を維持できない。新たな発想が生産性向上や技術革新につながるとの期待もある。

インドで理系の最高峰とされるインド工科大(IIT)のハイデラバード校。2008年の設立以降、人工知能(AI)やコンピューターサイエンスの人材育成に力を入れ、グーグルなど世界的なIT(情報技術)企業への就職も多い。

そんな同校を昨年卒業した4人が選んだのは名古屋市の精密部品メーカー、高砂電気工業だった。

賃金は米国企業にかなわない。「取引先はNASA(米航空宇宙局)や有名IT企業。最先端の議論ができる」。同校の説明会に参加した平谷治之社長の訴えが学生の心をつかんだ。

同校の片岡広太郎教授は「日本企業から採用の問い合わせが月数件ある。5年前はほとんどなかった」と驚く。

高度経済成長期の人手不足の際は、工場や商店で働くため地方から大都市に向かう若者が「金の卵」と呼ばれた。バブル期は南米などの日系人を増やした。

労働需給逼迫の「第3の波」ともいえる今は、好況時の一時的な枯渇ではない。15~64歳の生産年齢人口は約7400万人とピークの1995年から15%減。2050年までにさらに1800万人減る。人材獲得のグローバル化が急務だ。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の23年度調査に対し、回答企業の28.4%が今後2~3年のうちに外国人材を増やすとした。在留資格別では高度人材(技術・人文知識・国際業務)の採用を予定する企業が22.2%で最多。人手不足対策の特定技能が11.1%、日本で技能を学ぶ技能実習が10.5%だった。

住友不動産ヴィラフォンテーヌが運営する羽田空港直結の大型ホテルは、ベトナム出身の約400人の技能実習生が客室清掃を担う。

寮の管理人が生活をサポート。地域の祭りでみこしを担ぎ、日本文化を体験する。本国の家族向けに食事会を開き、我が子らの様子を動画で見せる。

手厚い待遇は、羽田がインバウンド(訪日外国人)でにぎわうなか、他国との争奪で「労働力確保が一段と難しくなる」(小森智之社長)という危機感の表れといえる。

単に人数を維持すればいいわけではない。企業文化や働き方になじめず活躍できない例も出ている。

マレーシア出身の男性(34)は大手商社を約5年で辞めた。専門性を高めたいのに部署を転々とする。管理職になるには20年ほどかかる。外国人の課長もおらず「天井を感じた」という。

九門大士・亜細亜大教授(国際人材開発)は「外国人に日本人同様の振る舞いや働き方を求めるなら生産性向上や革新につながらない」と指摘。「異なる発想や価値観を取り入れ、企業側も変わる覚悟が求められる」と話す。

外国人人材の受け入れでは、賃金や職場環境、休日などの受け入れ条件、日本人従業員に対する受け入れ教育を含めた受け入れ体制の整備が必要です。

それら「今安心して就労できる環境や得られる賃金」に加えて、同記事からは「未来の展望や、自社に来ると得られるキャリア開発上の魅力」を定義して伝えることも大切だということを感じます。

日本企業が外国人人材に提示している賃金水準は、既に韓国を含めた一部のアジア地域に力負けしています。物価と賃金の低迷が長年続いた結果です。欧米圏の企業との格差はさらなりです。

「GLOBAL NOTE 最低賃金(購買力平価ベース)」を参照すると、2023年の最低賃金USドルベースは、1位のルクセンブルク16.4ドル、2位のドイツ16.3ドル、韓国10.3ドル、日本9.3ドルとなっています。

「JETRO 地域・分析レポート アジアの製造業の給与水準、10年で大幅上昇も都市間の差は拡大」では、製造業・作業員の基本月給(平均値)の比較で次のようになっています。

左から順に、2013年、2019年、2023年のUSドルベース。( )内は1ドル150円で換算した場合の日本円

インド     217(32,550円) 278(41,700円) 337(50,550円)
ベトナム    162(24,300円) 236(35,400円) 273(40,950円)
インドネシア  234(35,100円) 348(52,200円) 337(50,550円)
中国      375(56,250円) 493(73,950円) 576(86,400円)

例えばベトナムの場合、2013年~2023年の10年間で、賃金が1.69倍になっています。仮に2023年の40,950円が今後10年間で同じペースで上がり続けるとした場合、2033年には約7万円になります。インドが同じペースで上がり続けた場合は2033年には約8万円です。

アジア諸国は一般的に、日本以上に地域間・産業間での賃金の差異が大きくなっています。上記は国全般で製造業・作業員についての傾向ですが、都市部に絞るとさらに上振れするはずです。例えば、ハノイ・ホーチミンといった大都市×IT産業などで10年後の場合、日本国内でよほどの賃上げが続かない限り賃金面で魅力を訴求するのが難しくなっていると想定できます。

就労、特に国外就労で、他社に比べて結構な差で勝る賃金とキャリア開発につながる仕事内容とを天秤にかけた場合、後者を選ぶのは少数派かもしれません。

そのうえで、何を求めるかは個人によります。少数派であったとしても、冒頭の記事のインド人のように、仕事内容第一で行き先を選ぶ人もいるということです。

賃金による訴求力だけでいうと、今後かなりの期間にわたって日本企業は欧米の企業に勝てないと想定されます。加えて、上記の通りアジア企業との間でも次第に厳しくなっていきます。同記事の例のように、仕事内容本位で選んでもらえるようにすることも、改めて認識し取り組んでいきたいところです。

また、外国人人材を積極的に採用する方針であるならば、アジア企業の賃金水準との差が縮まってから動くのでは遅いと言えます。今の段階から本腰を入れて取り組み、自社なりのやり方・ノウハウを磨いていく必要があると思います。

<まとめ>
外国人人材に対し、仕事内容本位で選んでもらえる状態をつくる。

いいなと思ったら応援しよう!