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新社屋への移転の例(2)

前回は、北海道帯広市にある、宮坂建設工業株式会社様の新社屋をテーマにしました。地域との共生を目指し、社をあげたプロジェクトとして進め、完成させた社屋だということを取り上げました。

同社屋の設計、施工、完成後の活用の取り組みによって生み出されるであろう効果について、私なりに想定してみます。

・従業員間の関係性が高まる

移転前の社屋は、事業部によってフロアが別になっていました。フロアが別になっていると、わざわざ上か下の階にまで行かないと様子がわからないため、自ずとお互いが見えづらくなります。同じフロアでも壁が隔てているなどがあり、一定の距離感を覚えてしまっていたはずです。

今は平屋建てで、執務室内で本社勤務の全事業部の動きが見えやすいレイアウトのため、親近感があるはずです。執務室内を行き来しながら、部門同士で「ちょっと・・」といった会話も、以前の環境に比べると格段にしやすいでしょう。

執務室に加え、コミュニケーションホールや中庭も含めて、社屋全体が従業員同士の接点の機会を増やし、コミュニケーションを促すつくりになっています。以前の社屋に比べても、従業員間の関係性の質を高める環境であるのは、間違いないと考えられます。

・業務パフォーマンスが上がる

関係性の質が高まれば、従業員間での情報共有の質・量が増えます。情報共有の質・量が増えれば、思考の質が高まります。思考の質が高まれば行動の質が高まり、結果として成果の質が高まります。このことは、ダニエル・キム氏による提唱で知られている「組織成功の循環モデル」からも想定することができます。

採光や換気、デスクの配置間隔などの環境も、仕事のしやすさのうえで欠かせない要素です。「暗さ」や「窮屈さ」など仕事そのもの以外でのストレス要因(ストレッサー)が減れば減るほど、仕事の内容、社内外の関係者との生産的なやり取りの中で生じる摩擦や葛藤など、仕事そのものでのストレス要因に対する受け止め力が維持できます。同社屋では、仕事そのもの以外でのストレス要因ゼロの理想の状態を目指しているようにも思われます。

・会社の方針がより明示される

前回取り上げたとおり、地域との共生をはじめ、設計の一つひとつにこだわりと、そのようにする理由が感じられます。室内の内装に凝ったオフィスなどは、他でも見かけることがあります。そのうえで、同社屋のように、土地・建物も含めての全体で「会社の色」が感じられる設計は、なかなか見ることがありません。

社屋の立地や設計、レイアウトは、その会社の理念や方針、価値観を表すひとつの要素になります。職場環境の細部にも理由があることで、五感をもって会社の考え方に触れ、理解を深める機会にもなります。

毎年、新卒社員を中心に多くの入社希望者がいるということですが、社員に加えて、これから同社様で就業を考える人材にとっても、会社の考え方が形となって明示されることで、より伝わりやすくなるはずです。

・顧客や社会からの評価が高まる

会社の考え方を形として明示することで、どのような会社なのか、取引先や地域社会からもわかりやすくなります。

同社様の場合は特に、地域の方々と共生するということを、具体的に明示し取り組んでいます。社屋がそれを形として示し、イベントや有事の際に地域の方々と空間を共有しながら協業することで、これまで以上に地域に役立つ機会が増えることは間違いないはずです。顧客や社会からの評価が高まることにつながります。

・従業員満足度が高まる

上記に挙げたことの合わせ技ですが、結果として従業員満足度が高まります。

社屋による職場環境の整備は、「二要因理論」(ハーズバーグ)で言うところの「動機づけ要因」ではなく、「衛生要因」にすぎません。

衛生要因とは、整備されていても満足につながるわけではないものの、整備されていないと不満につながるものとされています。例えば、金銭的報酬、作業環境、人間関係などです。

動機づけ要因とは、なくてもただちに不満にはならないものの、あればあるだけ仕事に対して前向きになれて満足度が高まるものです。例えば、仕事の達成感、影響力の拡大、自己成長などです。

そのうえで、快適で生産性の高い職場環境にいられるということは、不満のマイナス要素をゼロに近づけることができます。また、上記で見たとおり、職場環境の整備を通して間接的に業務のパフォーマンスを上げ、動機づけ要因を高めることにつながっていると考えられます。

また、前回取り上げたとおり、自分たちの使う社屋の施工に、全社が一体となったプロジェクトとして社員自らが総出で当たっています。このことも、社屋完成後も長期間にわたって、自社に愛着や共感を持ち続けるきっかけになると思われます。

不満が減る+満足度が高まる、によって、トータルの従業員満足度が高まる方向に寄与するはずです。

例えば、同社様では数年前に比べて、離職率が大きく低下しています。これはもちろん、社屋移転が主要因というわけではありません。事業戦略、事業での成果創出、人材育成の取り組みなどがあっての結果です。実際に、社屋移転前から離職率は下がっています。そのうえで、社屋移転もなんらかの形でその流れにプラスに寄与しているのは、間違いないと思います。

以上、社屋を通した取り組みのひとつの事例について、考えてきました。

同社屋の設計・施工・移転の例は、北海道帯広市という立地であることや、地域社会に根差した建設業という業態などが前提となっています。他社で同じことを行うには難しい要素もあり、そのまま参考にするのは限界があります。

そのうえで、社屋という環境をどのようにとらえて活用するか、会社が目指していることは何なのかに立ち戻る、それを具現化するとはどういうことなのかなど、参考にできる視点は多いのではないかと考えます。

<まとめ>
社屋は、会社の考え方を明示するひとつの要素である。

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