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東京一極集中を考える

10月18日の日経新聞で、「東京一極集中と少子化」というタイトルの記事が掲載されました。東京一極集中の是正が課題だと聞くことも多いですが、同課題を考察するうえでの視点を取り上げた内容で、目にとまりました。

同記事の一部を抜粋してみます。

「東京一極集中を是正せよ」という議論がある。筆者は、東京一極集中是正論そのものに反対なのだが、ここでは「これは確実に間違いだ」という点を1点だけ指摘しておこう。

東京一極集中是正論の根拠の一つに「東京一極集中が少子化を招いている」という議論がある。その唯一の理由は「日本で最も出生率が低い東京都に人が集まれば日本全体の出生率も低くなる」というものだ。これは誤りである。

第1に、東京都の出生率が低いという点はかなり割り引いて考えるべきだ。合計特殊出生率は、年齢別の女性の出生率を合成して計算されるのだが、東京都には相対的に多くの未婚女性が流入してきているので、出生率は低くなる傾向がある。東京都作成の資料によれば、結婚した女性による出生率は東京が全国より高い。東京は子供が育てにくいから出生率が低いとは言えないのである。

第2に、周辺県も合わせて考えるべきだ。日本大学の中川雅之教授は、東京は人が多く集まるので結婚のマッチングの場となっており、結婚後に住居を構え、子供を産むのは周辺県になるので、東京都の出生率は低くなるとしている。東京都は、マッチングの場を提供して、少子化を防いでいることになる。

第3に、人口移動が出生率に及ぼす影響は極めて小さい。住民基本台帳によると、2023年の東京都の人口流入超過数は6万8千人で、日本の人口の0.1%にも満たない。仮にその人口流入がストップしたとしても、それが日本全体の出生率に及ぼす影響はほとんどゼロである。

日本の出生率が下がったのは日本全体で出生率が低下したからであり、出生率を上げるには、日本全体で出生率を引き上げる必要があるのだ。

要するに、論理的にもデータ的にも、東京一極集中が少子化をもたらすという根拠はない。地域政策をめぐる議論には、他にも根拠の乏しい議論が見られる。新たな地域創生策を実施するに際しては、是非そのロジックを再点検し、その効果をデータ的に裏付けてからにしてほしいものだ。

東京都への人口集中の是非については、いろいろな観点や意見があると思います。最終的な結論にはいろいろな可能性が考えられますが、少子化というテーマとの関連について、同記事はとても示唆的な視点を説明しているのではないかと考えます。私なりに、同記事の要点を書き出してみます。

・東京都には恒常的に未婚女性が多く流入してくる。よって、対象人数の分母が大きくなる分、東京の出生率は低くなる。

・東京都で結婚した女性による出生率は全国より高い。

・東京都は、結婚を考える人の間でのマッチング機能を果たす場所になっている。主に周辺県に住む人に影響を与えている。東京都の場所がもたらしているマッチング機能は、周辺県の効果も勘案して考えるべきである。

・東京都への人口流入は、日本全国の人口からすると0.1%にも満たない、限られたボリュームである。

・これらのことからは、東京は子供が育てにくいとは一概に言えない。見かけ上の出生率が低くなるのは当然で、実態としてはむしろ全国平均を上回るという評価にもなりえる。また、東京都への人口集中が緩むと、周辺県の出生率が下がる可能性がある。

加えて、少子化のテーマに限らず、特定の都市に一極集中するのがなぜよくない(デメリットがメリットを上回る)と結論づけるのか、その理由も整理する必要があると言えるのではないでしょうか。

例えば、イギリスの人口は約 6,700万人で、首都のロンドンは人口が約880万人(約13.1%)です。韓国は約5,170万人で、首都のソウルは約1,000万人(約19.3%)。日本の人口は約1億2490万人で、東京都の人口は約1420万人(約11.4%)。日本以上に首都に人口集中している国が世界にはあるわけです。もちろん、面積など別の要因も考慮するべきですので、人口そのものだけの比較でどちらが過密という意味付けをしても、妥当とは限りませんが。

また、私などがあまり認識できていないだけで、両国の現地では一極集中問題が深刻なのかもしれません(特にソウルは、それっぽい話を聞くことがあります)。いずれにしても、このような他の事例ではどのようなメリット・デメリットがあるのか、他を参考にしたときの自らの程度はどうなのか、メリット・デメリットが何だと想定されるのか。そのように考察しながら自らの置かれた環境についてとらえることは、有益な視点だと考えます。

しかしながら、私たちは「○○は△△である」(△△には、良い・悪い、望ましい・望ましくない、などが入る)という情報に触れ続けると、「○○」がテーマとして出た瞬間に「△△」と結論付けるようになってしまいがちです。

このことは、身のまわりの仕事や私生活でも起こりがちなことです。

事象を構成する要因は何かをひもとく。ひもといた要因一つひとつに対して評価していく。すべての事象に対してこのようなアクションをとるわけでもないですが、テーマや課題によっては意識したいアプローチだと思います。

<まとめ>
「良い」あるいは「悪い」と自然に感じていることが、実は別の見方ができることかもしれない。

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