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非上場のメリット
前回のコラムでは、英国通信社 THE WORLDFOLIO のインタビューを受け、米国経済誌 Newsweekに掲載された三恵技研工業株式会社様の記事内容について考えました。今日もその続きです。
同記事の日本語訳から一部抜粋です。
~~私の祖父や父といった先人たちに感謝しているのは、会社を上場しなかったことです。上場するということは、ステークホルダーに対応し短期的に結果を出さなければならないし、利益面でのプレッシャーも大きいと思います。上場にメリットがあることは理解していますが、非上場であれば、経営者は短期的な利益よりも持続可能性を優先した長期的なビジョンや戦略を明確にすることができます。コロナ・ウイルスの問題で大変な時期でも、私たちは将来のための研究開発と投資を奨励し続けています。
私が後継者たちにメッセージを伝えるとしたら、それは次のようなものでしょう。「成功の裏には多くの大きな失敗と挫折がある。」だからこそ、この会社では失敗を恐れない環境を維持してほしいと思います。失敗例を挙げれば、80 年代に当社はバスタブの生産に乗り出しました。浴槽専用の工場まで作ってしまったのです。残念ながら全く成功せず、2,000 万ドルの投資を失ってしまったのです。このような失敗の経験は、次の別のチャレンジの際に役立つことになります。失敗を恐れない姿勢は、ぜひとも継承していきたい当社の企業風土です。
これからの三恵技研の社員や役員には、変化や変革を起こすことに前向きでい続けていただきたいと思います。私たちは、常にお客様に革新的な提案をし続けていかなければなりません。例えば、新しい機能を持った製品の提案が通れば、新しい製造方法を導入する必要があるため、既存設備の大半を一新しなければならないかもしれません。当社サイドでは莫大な投資が必要となるでしょうし、技術的に、既存技術を使った方がずっと容易だと思います。しかしながら、そのような新製品がお客様にとって魅力的なものであることは間違いありません。その製品が、燃費向上や、次世代のクリーンな環境づくりに貢献するのであれば、私たちは進んでそうした投資を行いたいと考えています。~~
上記の通り、上場にはデメリットが存在します。コスト面でのデメリットを想像すると、例えば以下が挙げられます。
・上場準備~上場にかかる費用
準備期間は最低2年間は必要で、準備に年間2000~5000万円程度かかるなどと言われます。証券会社や監査法人から受ける指導・コンサルティング・監査報酬が発生します。証券取引所の審査料や事務手数料などもかかります。社内でも、役員・経営企画・総務・監査部門等で上場準備に当たることに要する人件費が発生します。
・上場後の維持にかかる費用
「年間上場料」と呼ばれる維持費の支払いが必要になります。価格は市場によって異なりますが、上場時の時価総額が50億円以下の場合、年間で東証1部96万円、東証2部72万円、マザーズ48万円が必要です。他に、監査費用やIR担当、管理体制維持にかかる継続的な人件費が必要です。また、株主総会運営費も数百万円などと言われます。株主総会は非上場でも開催されるものですが、上場すると多方面のステークホルダーも加味した運営になりますので、当然非上場以上に費用が必要となります。
他にも、見えないコストとして、買収される可能性を常に意識して事業活動を行う必要がありますし、株主の意向に沿った経営方針を立てる必要が出てきます。
一方で、上場には多くのメリットもあります。
会社の知名度や社会的信用度の向上、取引先や金融機関からの信用向上、それに伴う資金調達力の強化などです。個人保証の解消も期待できます。非上場の中小企業は信用度が低いために、借入にあたっては多くの場合経営者の個人保証が求められます。上場企業になると、個人ではなく会社に対する信用での融資となり、個人保証は求められなくなるわけです。また、上場のほうが優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。
中でも最大のメリットは、ガバナンスの強化ではないかと思います。上場の審査では、企業統治に関する基準をクリアすることが求められます。また、上場後も、経営が常に一般株主の目にさらされます。外圧によって企業統治が一定レベルに保たれやすくなる点は、非上場にはない良さでしょう。
上場と非上場のどちらがよいのかは、どちらも良さがあり、一概には言えません。新規上場を目指す会社もある一方で、これまで上場していたのをやめて非上場化する会社もあります。自社の方針とそれぞれのメリット・デメリットを照らし合わせて判断すべきことです。
いずれにしても言えるのは、非上場(特に中小企業)にとって磨くべき強みのひとつが、「経営のスピード感と思い切ったチャレンジの意志決定」だと思います。上場企業は事業活動で、上記のようなある種の制約があります。上記インタビュー記事の示唆する通り、失敗を恐れない革新的な提案や実行が、非上場企業は上場企業に比べてしやすいはずです。この点で競争力を高めていくべきでしょう。
逆に言うと、非上場でありながら小回りが利かず、ぜい肉質で意思決定が遅く失敗を恐れて挑戦しにくい風土になっている中小企業は、上場企業に勝ちようがないということになります。
そして、外圧がない分、すべて自分たちでガバナンスを自制しなければなりません。経営者や経営陣をはじめ、コンプライアンスや正しい経営哲学を浸透させる取り組みを、上場企業以上に自覚して行う必要があります。
<まとめ>
非上場の中小企業は、スピード感と挑戦の意志決定で優位に立てる。