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家事労働を機会費用の観点で考える

9月22日の日経新聞で「炊事・育児など無償の家事、賃金換算で年143兆円」というタイトルの記事が掲載されました。GDP(国内総生産)等の統計に表れず、直接の対価を得られるものでない家事は「無償の仕事」などと言われることがありますが、その大きさを賃金に換算すると143兆円分あるというわけです。

同記事の一部を抜粋してみます。

炊事や育児など無償の家事労働に充てた時間を賃金に換算すると、2021年は143兆円と過去最高になった。40年前に比べて3倍弱に膨らみ、名目GDP(国内総生産)の3割弱にあたる。賃金の高い高年齢層の家事参加や女性の賃金上昇が背景にある。

内閣府が性別や年齢別の平均賃金を基に、家事に充てた時間に働いていた場合に得られた金額を推計した。数年おきに不定期で実施している。家事労働は市場を介して取引するサービスではないのでGDPには含まない。

21年は143兆5990億円で、直近の推計値がある16年比で3.7%増えた。1時間あたりでは1574円となる。1981年は52兆270億円だった。総額の内訳は炊事が48.1兆円で3割超を占め、買い物(28.7兆円)、掃除(18.4兆円)、育児(15.8兆円)が続いた。

男女別では、女性が77.5%(111兆2920億円)、男性が22.5%(32兆3070億円)だった。男性の比率は81年と比べて14.2ポイント上昇した。内閣府は、50代など高賃金の年齢層の男性の家事参加が増えたことが総額押し上げの一因とみる。

それでも男女の偏りは大きい。1人あたりでみた家事労働の賃金換算額は女性で194万3000円、年間活動時間は1289時間となる。それぞれ男性の3.2倍、3.9倍大きい。労働参加率の上昇で女性の平均賃金が上昇した一方で、女性に偏る家事負担が総額増加の一因となった。

仕事で受け取る賃金に対する家事労働の賃金換算額を割合でみると、配偶者がいて働く女性が97.0%で最も高かった。配偶者がいない働く女性が28.9%、配偶者のいる働く男性が12.9%、配偶者のいない働く男性が9.5%だった。

国税庁の民間給与実態統計調査によると、40年前の1981年は、日本人の平均年収が309.1万円でした。2021年は、443.3万円です。40年間で約1.43倍となります。家事については約3倍ですので、大きな違いがあります。同記事が指摘するように、賃金の高い高年齢層の家事参加や女性が就業して得られている賃金上昇が要因ということになります。つまりは、家事の「機会費用」が上がったということです。

機会費用とは、「あるものを手に入れるために、あきらめなければならないもの」です。

書籍「マンキュー経済学 ミクロ編」(N・グレゴリー マンキュー氏著)には、「有名プロスポーツ選手は、自分で庭の芝刈りをするべきか?」という問いかけがあります。

隣に住む学生が1時間1,200円でアルバイトをしているとします。芝刈りに2時間かかり、プロスポーツ選手の芝刈りを2時間5,000円で引き受けたとします。アルバイトに行くより高給なので、この学生は大喜びです。

一方のプロスポーツ選手は、この2時間を使って例えばCM撮影で1,000万円稼げるとします。このプロスポーツ選手も、芝刈りを任せることで高給を獲得でき、大喜びです。両者の1時間に対する「機会費用」の違いから、成立する交易ということができます。だからこそ、同書ではそのスポーツ選手は芝刈りを自分ですべきでない、と説明しています。

加えて、そのCMを通して社会的なインパクトをもたらすことができます。スポーツ選手は身体の敏捷性に優れているため、学生より速く、うまく芝が刈れるはずです。しかし、芝刈りをしても何も社会的インパクトが生まれません。

CM撮影をしないまでも、そのスポーツでベストなプレーができるための練習にその時間を使ったほうがよいはずです。また、芝刈りが原因で怪我をしてしまうと選手生命にもかかわる大変なことになります。

「庭の芝を刈ることが、自分にとって貴重なルーティーン。これをやることで自分の士気が無限に高まり、誰よりも良いプレーができる。だから芝刈りは手放せない」などの理由があれば別ですが、そうでないなら隣に住む学生に任せたほうが両者にとって、及び社会的にもよい結果になると言えます。

同記事によると、家事の平均的な機会費用が1時間あたり1,574円というわけです。

この機会費用で考えた場合、理論上は、時給換算でそれ以上の仕事を今持っていない場合、家事をしたほうがよいということになります。逆に、それ以上の仕事を今持っている場合、可能なら家事は代行に任せて、その仕事をする時間にあてたほうがよいということになります。(正確な代行料金はもっと高いかもしれませんが、考え方として)

上記記事に出てくる属性の中では、50代の男性が最も高賃金である可能性が高そうです。本業の収入から労働時間で割って時間単価を計算すると、例えば時給5,000円相当ということもあるでしょう。その場合、上記芝刈りの考え方で家事は代行サービスにアウトソースし、その時間で本業やそれにつながるリスキリングなどに取り組んだほうがよい、と考えられます。

逆に、家事が好きで得意という人は、それを強みとして他の家庭の家事も引き取ることで貢献ができます。日本ではまだ一般的とは言えませんが、国や文化圏によっては以前から広く一般化されている家事代行・メイドサービスは、合理的な仕組みだと言えます。そうすることで、経済全体のパイであるGDPも増えていきます(家事代行分が丸々GDP増額分、という単純な図式でもないですが)。

もちろん、家事の中でもアウトソースすべきでない育児の部分がある、買い物に行くことで世の中の動きが分かる、家事で気分転換や家族とのコミュニケーションになるなど、家事すべてを代行すべきかというとそうでもなく、またそんなにきれいには区分できないと思います。そのうえで、「機会費用で考える」という考え方としては、持ち合わせているべきだと思います。

普段取り組んでいるこの作業は、機会費用に見合っているのだろうか

この視点は、家事以外のことや勤務先での仕事にも応用できます。

その作業によって得られるものは、直接的なこと、間接的なこと、短期的な視点、長期的な視点いろいろあります。そのうえで、普段当たり前のようにやっていることを機会費用という概念で見つめ直してみると、新たな発見があるのではないかと思います。

その結果、別の人に任せる(アウトソースする)、効率化する(例:皿洗いは食洗器を使う)、その作業をやめる、といったアクションにもつながっていきます。

<まとめ>
自分の場合、庭の芝刈りを自らすべきだろうか。


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