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社内転職を制度化する

7月24日の日経新聞で、「みずほが「社内転職マーケット」 4万人対象 全84の職務から選択、スカウトも 人的補充の発想見直し」というタイトルの記事が掲載されました。みずほフィナンシャルグループ(FG)が、「社内転職」に関する人材データベースをつくって、事業部門による選考で自らを売り込んだり、スカウトを受けたりできるようにする制度を導入するという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

従来の公募は会社目線による人的補充の意味合いが強かった。新たな仕組みで働きやすく競争力のある職場をつくる。銀行や信託、証券などグループ5社の社員とパート社員約4万1000人が対象となる。

新たな制度は転職サイト大手「ビズリーチ」の仕組みを社内に取り入れるイメージという。ビズリーチは転職希望者がサイト上に自身の経験やスキルなどを登録し、人材データベースのなかから企業やヘッドハンターが欲しい人材をスカウトする。すべての年齢層を対象としたり事業部門からスカウトしたりする仕組みは3メガでは初という。

所属長との面談を踏まえて年に1度会社に提出するキャリアシートをデータベース化して運用する。すべての社員はシートに「強い異動希望あり」「選考は希望しないが異動希望あり」「異動希望なし」のいずれかの希望を記載し、異動を希望する人材で疑似的な社内転職のマーケットをつくる。

「強い異動希望あり」とした人は、すべての事業領域・職務のなかから希望する職務を選んで応募できる。大企業向け営業などの営業部門だけでなく、デジタル企画部や戦略室などコーポレート系を含む全84の職務から選ぶことができ、全員が必ず選考に進む。

書類選考や面接で自分のキャリアやスキルを売り込み、事業部門側が欲しい人材と判断すると異動が実現する。30代前半の行員が支店長に手をあげることもできるようになる。事業部門は「選考は希望しないが異動希望あり」を選んだ人のなかに魅力的な人材がいればスカウトできる。声をかけて双方が合意すれば選考に進む。

社員は希望する職務につける可能性が広がる。みずほは2003年のFG発足以降、会社側が募集する職務やポストに対して応募を受け付ける「ジョブ公募制度」を運用している。しかし、人材補充の色合いが強く、社員は会社側から募集がかからない限り希望の職務にはつけなかった。

新制度の導入で、会社からの異動指示を待つことなく自ら希望の職務に挑戦することが可能になる。自立したキャリア形成が可能になり、社員のモチベーション向上や組織定着も期待できる。

事業部門にとっては、ビジネス戦略を実現するための人員を計画的に調達しやすくなる。スカウトも可能になるため、スキルや意欲のある優秀な人材を獲得できる。社員と事業部門の双方が「選び・選ばれる」関係になることで、個人とビジネスそれぞれが成長する好循環をつくる。

導入の背景には、7月からの新たな人事制度で異動権限の中心が人事部門から各事業部門に移ったことがある。これまでは各社員が希望するキャリアの情報は人事部門にとどまっていた。今後は、各事業部門が求める人材要件を明確にしつつ制度を適切に運用できるかが課題となる。

今後もジョブ公募制度や人事部門中心の通常異動は組織の全体最適を考えて残すが、今回の社員起点の人事異動の割合を段階的に増やす方針だ。

会社が募集する職務に社員が手をあげる社内公募制度を導入している企業は多い。ただすべての職務のなかから社員が選んで手をあげ、選考に進める制度は珍しい。

部署への異動やプロジェクトへのアサインを社内公募する制度はいろいろな企業で聞くことも増えましたが、さらに踏み込んで社内転職を制度化するという内容です。

ポイントは、「強い異動希望あり」を選べば例外なく「全員が必ず選考に進む」ことにあると思います。

これによって、各人はキャリアの進み方を自分で選び、キャリアに自律的に向き合うことにつながります。希望すれば必ず選考に進むわけですので、選考が行われないとなれば、自らが希望しないという道を選んだ結果ということになります。今いるところでのキャリア開発を進めていくことになります。

希望した場合に、希望の部署や職種に転換できなかった場合は、選考というプロセスは行われたうえで何かの条件が折り合わなかった結果となります。そうであれば、条件に合うための能力開発を行う、時機を待つなど、その結果を受けて何をすればよいかのアクションが具体的になります。つまりは、キャリア開発の道筋が明確になるということです。

言ってみれば、リスクの低い環境で転職に挑戦できるようなものだと例えることができると思います。

別の企業への転職であれば、リスクはより高く、うまくいかない場合のリカバリーには大きな負荷がかかります。しかし、同じグループ内であれば、うまくいかない場合でも次の活路を見出すこともしやすく、従業員にとってキャリアチェンジのリスクが低いと言えます。

また、数万人を擁するグループであれば、直接部門から間接部門まで多彩な組織・職種・仕事があるはずです。同記事のような制度が導入されれば、外部の転職市場に活路を求めなくても、所属する企業グループ内で探せる可能性が飛躍的に高まると思われます。大企業の強みを生かした、有効な施策だと感じます。

組織の側も、よりマッチング率の高い人材が配置される可能性が高まるなど、メリットは大きいと思います。情報管理、面談、組織と個人双方のすり合わせなど、相応の運営負荷はかかるはずですが、それ以上のことが十分に得られる制度ではないかと想像します。人材の定着率も高まりやすくなるはずです。

少し前から、従来の人事部門に加えて、各事業部門でも人事関連の業務を主な役割として担うHR Business Partner(HRBP)を設置する会社が増えてきました。全社レベルでの人事部門が人事業務を統括・担当する体制だけでは、現場に即した実践的な人・組織づくりの推進に限界があるという背景からです。

同記事の事例も、全人材に関する情報管理など全社横断の人事機能と、各事業部門での人材に関するニーズや課題形成、各人の意向の表明など各事業部門での人事機能との、合わせ技で運用する人事のあり方の一例のように見受けられます。

今後、このような例は増えていくのではないかと感じます。

<まとめ>
異動希望者全員に、人事異動・配置再編の選考に進んでもらう仕組みというのもあり。

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