クレカの使い分けをするかしないか
12月11日の日経新聞で、「YOUTH FINANCE(10)富裕層クレカ選ぶ20代 年会費5万円、ポイント経済圏に疲れ」というタイトルの記事が掲載されました。ポイ活に熱心な人が多い一方で、そういった活動から距離を置きたがる人もいるということを取り上げた内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
たしかに、年収550万円・20代という属性からは、一般的にはクレカの使い分けによるポイ活がはまりそうなイメージがありますので、同記事の内容は少し意外な印象を受けます。
同記事の内容から連想したのは、「ウィルパワー(意志力)」と「ジャムの法則(決定回避)」です。
ウィルパワー(意志力)とは、私たちが何かを決定するときに使うエネルギーのことです。人が持ちうるウィルパワーは容量が決まっていて、力が限られているのだそうです。そして、ウィルパワーは何かを決定することで消費されていきます。
ケンブリッジ大学の研究によると、人は1日に最大3万5,000回の決断をしているそうです。これには、「今日どんな服を着ようか」「何を食べようか」などの、日々の細かい意志決定も含まれます。こうした細かい意志決定でウィルパワーを消費していくと、複雑な考察を要する課題に向き合ったり、重要度の高い課題で意志決定したりする肝心な場面で思考力が残っていないかもしれません。
ウィルパワーを温存することを意図して、髪形を丸刈りにしたり、毎日同じ服を着たりする人もいます。髪形を丸刈りにすると決めてしまえば、美容院選びをどうするか、寝ぐせが十分になおっていると判断できるか、ドライヤーが十分に行き届いているとみなすかなど、日々の小さな決断回数を削減できます。もちろん、そうしたいかどうかは、その人次第ですが。
多くの人が、ネクタイ有よりも無のほうが楽だと感じるのは、ネクタイを締める時間の削減、堅苦しい雰囲気からの解放、動きやすく首が楽、暑さからの解放といった理由が考えられます。加えて、服に合うネクタイを選んだりネクタイがよじれてないかを判断したりすることに使われるウィルパワーを節約できるということも、理由として説明できそうです。
同記事の例は、クレカの使い分けで頭を使う時間を減らし、ウィルパワーを温存したいと考える人が一定数いることを示してそうです。
『選択の科学』の著者で知られるコロンビア大のシーナ・アイエンガー教授による実験結果をもとにした「ジャムの法則」というものがあります。選択肢が多すぎると選べなくなってしまう心理現象のことで、「決定回避の法則」とも呼ばれています。次のような概要です。(「社会人の教養」サイトを参照)
「もっとお得なカードやポイントの使い方があるのではないか?」などと、吟味できていない選択肢について詮索することや、多すぎる使い方の選択肢に疲れてしまうことで、ポイ活そのものから距離を置きたくなる。それならば、お気に入りのジャム(クレカ)を1つ決めてしまって、ジャム選びから解放されようという心理も、同記事の背景として考えられそうです。
同様のことは、個人の単位でも組織の単位でも言えると思います。
例えば、あるテーマで(違いに意味があれば別ですが)どちらを選択してもほとんど影響のない程度の違いのものを別メニューとして提示したり、相手に必要のないメニューを提示したりすることで、相手を疲れさせたり、(本当は必要なはずが)そのテーマ自体から相手を遠ざけたりする結果になっていないか。振り返ってみたいところです。
なお、同記事の冒頭では「20代になぜ通用しなくなったのか」とありますが、後半では「ポイント経済圏を意識している20代は57%いる」と紹介しています。調査の詳細は存じ上げませんが、通用する20代のほうが依然として多数派かもしれません。
「ポイント経済圏を意識しない」「いや、意識する」に限らず、何事もそうですが、白か黒かの一択ではなく、その両方、あるいはグレー。グレーも濃度があってどっち寄りのグレーなど、いろいろな可能性があり、その中でどういった相手に対して主に自社や自分が目を向けていくかの明確化が有効、ということだと思います。
<まとめ>
相手のニーズや嗜好の可能性は多様。