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新卒の通年採用を考える

11月7日の日経新聞で、「「新卒も通年採用を」、留学生など念頭 経団連方針案」というタイトルの記事が掲載されました。日本企業では、学卒直後の新入社員採用を4月に一斉に行う慣習があるのは広く知られるところですが、そのあり方に見直しを提起することも含んだ内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

経団連は新卒学生の採用方法について通年採用や職務内容を明確にした「ジョブ型」の導入を増やすよう会員企業に求める。2024年の賃上げや人材活用に関する経団連の方針に盛り込む。帰国した留学生など多様な人材に門戸を開き、キャリア形成の選択肢を広げる。

春季労使交渉での方針を議論する経営労働政策特別委員会を6日に非公開で開き、原案を示した。経団連の方針は加盟する1700の企業・団体にとって賃上げや採用に関する目安となる。

原案では「円滑な労働移動の推進」を重要テーマに掲げた。人口減少が進むなかで成長分野に人材が移りやすくして「社会全体での生産性を改善・向上させることが不可欠」と訴える。

経団連によると経験者を通年で採用する会員企業は9割を超える。一括採用が主流の新卒に関しては、通年採用は増えているものの3割にとどまる。留学生などの採用増も念頭に「多様な人材の確保の観点から、新卒採用においても活用していくことが有効」だと強調した。

経験者向けに広がるジョブ型採用や、社員が知人・友人を紹介する「リファラル採用」を新卒でも「実施・拡充することが望まれる」と踏み込んだ。大学生や大学院生がキャリアプランや働き方を柔軟に選べるようにして、人材の流動化につなげる。

政府も企業が専門性の高い人材を採用しやすいよう、就活の日程ルールなどの見直しを進める。新卒の通年採用には学業の妨げになる懸念から大学側の抵抗も根強く、経団連は大学との産学協議会などを通じて理解を促す。

焦点となる賃上げを巡っては「来年以降も賃金引き上げのモメンタムを維持・強化」していくことが「企業の社会的責務」だと明記した。多くの企業が初任給の引き上げに動いていることを踏まえ、若手社員への重点的なベースアップ(ベア)により賃金カーブのゆがみを防ぐべきだと触れた。

同記事から、大きく2つのことを感じました。ひとつは、採用や雇用形態についてもっと多様性があってよい、ということです。

新卒採用の会社説明会の実施は、一般的に3月~5月に集中します。このことは言い換えると、その時期に自分に合った会社を発見できなかった学生は、選考に進むことができないということになります。

また、学生が進路先として検討していた会社から採用されなかった場合、次の候補先を探すことになります。しかし、3月~5月に知り得ていない会社は、次を考える際の選択肢に入ってこないことになります。

東南アジア出身で他の先進国の事情にもある程度通じている知人に聞いてみましたが、仮に自国の学校を卒業した学生が日本企業に就職を希望する場合、夏に卒業して4月まで待つことになるという話でした。すぐに入社できればいち戦力となってくれるのがそうならないために、数か月間が機会損失です。また、そもそもブランクが空いてしまうことで、潜在的に日本の企業に興味を持てたかもしれない人材にとって選択肢の対象外となり、興味を持つ機会がつくりにくいという機会損失もあります。

日本の学生も、もっといろいろな社会人デビューの形があっていいのだと考えます。適当な例ですが、3月に卒業後何かの資格取得のために勉強し試験に受かってから正社員として働き始める、帰国子女として夏に卒業後普通に秋から働き始める、などです。

冒頭の記事では、新卒の通年採用を行っている企業は全体の3割だとあります。まだ多数派ではありませんが、ほとんどなさそうなのが一般的なイメージの中で、この数値は意外と高いと感じた方も多いのではないかでしょうか。

企業の中には、新卒・既卒に関係なく通年採用の前提で、毎月数回、時期に関係なく同じペースで会社説明会を行っているところもあります。自社に興味をもった学生や社会人が、近いタイミングで説明会に参加できるような状態を常につくっておく意図です。いつのタイミングで求める人材と出会えるかはわかりません。説明会などの機会を特定の時期に限定することで、そのチャンスを減らしてしまっている可能性があります。

まだ大多数の企業が新卒一括採用の前提で動いている中で、通年採用のノウハウを確立できれば、採用市場で自社が一歩先を行く存在になれるかもしれません

もうひとつは、自社による自社のための戦略決定の大切さです。

政府や経団連などの公的な機関が、企業活動に提言すること自体は有意義だと思います。そのうえで、採用や雇用に関して、そうした公的な機関に具体的なことを言われて自社の戦略に影響を受けることが、他国では一般的なのでしょうか。

この点も同知人に聞いてみましたが、自国やその方の知りうる国では、そのような話は聞いたことがないということでした。つまりは、労働組合が賃上げを叫ぶことで自社の賃上げの意志決定に影響は受けるが、政府や経営者がつくる団体から言われて賃上げを考えるような慣習はないというわけです。

同知人の出身国の場合、そもそも勤務先が5%を超えるぐらいの賃上げをしてくれなければ、労働者は転職先を探し始める。だから人材確保のために外圧なくとも企業の意志で賃上げを行う。政府は最低賃金を毎年改定しているので、それ以上何も言う必要がない、というわけです。逆に言うと、日本ではこうしたメカニズムが働かないため、公的な機関が言わざるを得ないという面があるのかもしれませんが。

これからますます、他国企業との間での人材獲得競争が激しくなります。外圧に言われるまでもなく、自社としての採用・雇用のあり方を描き、人材戦略に落とし込む視点が必要なのではないかと思います。

<まとめ>
通年採用の仕組み化は、今後より有意義になるだろう。

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