新卒の通年採用を考える
11月7日の日経新聞で、「「新卒も通年採用を」、留学生など念頭 経団連方針案」というタイトルの記事が掲載されました。日本企業では、学卒直後の新入社員採用を4月に一斉に行う慣習があるのは広く知られるところですが、そのあり方に見直しを提起することも含んだ内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
同記事から、大きく2つのことを感じました。ひとつは、採用や雇用形態についてもっと多様性があってよい、ということです。
新卒採用の会社説明会の実施は、一般的に3月~5月に集中します。このことは言い換えると、その時期に自分に合った会社を発見できなかった学生は、選考に進むことができないということになります。
また、学生が進路先として検討していた会社から採用されなかった場合、次の候補先を探すことになります。しかし、3月~5月に知り得ていない会社は、次を考える際の選択肢に入ってこないことになります。
東南アジア出身で他の先進国の事情にもある程度通じている知人に聞いてみましたが、仮に自国の学校を卒業した学生が日本企業に就職を希望する場合、夏に卒業して4月まで待つことになるという話でした。すぐに入社できればいち戦力となってくれるのがそうならないために、数か月間が機会損失です。また、そもそもブランクが空いてしまうことで、潜在的に日本の企業に興味を持てたかもしれない人材にとって選択肢の対象外となり、興味を持つ機会がつくりにくいという機会損失もあります。
日本の学生も、もっといろいろな社会人デビューの形があっていいのだと考えます。適当な例ですが、3月に卒業後何かの資格取得のために勉強し試験に受かってから正社員として働き始める、帰国子女として夏に卒業後普通に秋から働き始める、などです。
冒頭の記事では、新卒の通年採用を行っている企業は全体の3割だとあります。まだ多数派ではありませんが、ほとんどなさそうなのが一般的なイメージの中で、この数値は意外と高いと感じた方も多いのではないかでしょうか。
企業の中には、新卒・既卒に関係なく通年採用の前提で、毎月数回、時期に関係なく同じペースで会社説明会を行っているところもあります。自社に興味をもった学生や社会人が、近いタイミングで説明会に参加できるような状態を常につくっておく意図です。いつのタイミングで求める人材と出会えるかはわかりません。説明会などの機会を特定の時期に限定することで、そのチャンスを減らしてしまっている可能性があります。
まだ大多数の企業が新卒一括採用の前提で動いている中で、通年採用のノウハウを確立できれば、採用市場で自社が一歩先を行く存在になれるかもしれません。
もうひとつは、自社による自社のための戦略決定の大切さです。
政府や経団連などの公的な機関が、企業活動に提言すること自体は有意義だと思います。そのうえで、採用や雇用に関して、そうした公的な機関に具体的なことを言われて自社の戦略に影響を受けることが、他国では一般的なのでしょうか。
この点も同知人に聞いてみましたが、自国やその方の知りうる国では、そのような話は聞いたことがないということでした。つまりは、労働組合が賃上げを叫ぶことで自社の賃上げの意志決定に影響は受けるが、政府や経営者がつくる団体から言われて賃上げを考えるような慣習はないというわけです。
同知人の出身国の場合、そもそも勤務先が5%を超えるぐらいの賃上げをしてくれなければ、労働者は転職先を探し始める。だから人材確保のために外圧なくとも企業の意志で賃上げを行う。政府は最低賃金を毎年改定しているので、それ以上何も言う必要がない、というわけです。逆に言うと、日本ではこうしたメカニズムが働かないため、公的な機関が言わざるを得ないという面があるのかもしれませんが。
これからますます、他国企業との間での人材獲得競争が激しくなります。外圧に言われるまでもなく、自社としての採用・雇用のあり方を描き、人材戦略に落とし込む視点が必要なのではないかと思います。
<まとめ>
通年採用の仕組み化は、今後より有意義になるだろう。