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1人あたりGDPの向上を考える

6月13日の日経新聞で、「日本経済復活の条件(上) 人口より技術革新、将来左右」というタイトルの記事が掲載されました。人口減少のペースがますます早くなっていく見通しの日本において、イノベーションの重要性を説明するたいへん示唆的な内容だと感じます。

同記事の一部を抜粋してみます。

2023年には人口が日本の3分の2のドイツと55年ぶりに国内総生産(GDP)が逆転した。25年にはインドにも抜かれ、日本経済は世界5位となる見通しだ。

私たちの生活水準に密接な関係を持つ1人あたりGDPの順位低下はさらに劇的だ。00年には名目ベースでルクセンブルクに次ぎ世界2位だったが、10年に18位、21年には28位まで転落した。購買力平価ベースでは世界38位だ。アジアでもシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)に遠く及ばない。

1人あたりGDPの水準を決めるのは、人口や人口の変化率ではない。労働者一人ひとりにどれだけの資本ストックが装備されているかを表す「資本・労働比率」と全要素生産性(TFP)だ。資本・労働比率の高低は、工事現場でクレーンやブルドーザーを使い働いているか、それとも1人1本のシャベルやツルハシで働いているかの違いに相当する。全要素生産性の上昇は、ハード・ソフト両面を含む広い意味での技術進歩によりもたらされるが、イノベーション(技術革新)と言い換えてもよい。

資本ストックの増強も多くの場合、新しい製品や品質改良、あるいは生産工程における生産性向上を伴うから、全要素生産性の上昇と同様にイノベーションの成果といえる。結局1人あたりGDPの上昇をもたらすのはイノベーションだ。失われた30年といわれる日本経済の停滞はイノベーションの欠如が原因である。

「資本・労働比率」と「全要素生産性」について、もう少し理解を深掘りしようと、Chat GPT-4に説明してもらったところ、次のような回答内容でした。(一部抜粋)

「資本・労働比率」と「全要素生産性」について説明しますね。

資本・労働比率(capital-labor ratio)は、経済学において、生産活動における資本(機械、設備、建物などの生産手段)と労働(働く人々)の間の比率を示します。この比率は、労働者一人ひとりがどれだけの資本によって支えられているか、つまり一人当たりの資本装備量を表します。資本・労働比率が高いとは、一人当たりの労働者が多くの資本(機械や設備など)を使用して生産活動を行っている状態を意味し、生産性が高くなる可能性があります。

全要素生産性(Total Factor Productivity、TFP)は、生産に投入される全ての要素(資本と労働、さらには技術や組織の効率など)の効率性を測る指標です。TFPは、単に労働や資本の量だけでなく、それらがどれだけ効率的に組み合わされているか、また技術革新がどの程度生産性向上に貢献しているかを示します。TFPの向上は、同じ量の資本と労働を使ってもより多くの生産物を生み出せることを意味し、経済成長の重要な鍵とされています。

つまり、GDPは、
1.人口数
2.1人当たりどれだけの資本(機械や設備など)を使って生産活動を行っているか
3.人口と資本を効率的に組み合わせるための技術や効率がどれだけ高いか

の3つのかけ合わせで決まり、1人あたりGDPは2.3.の2つのかけ合わせで決まるというわけです。このように改めてシンプルに整理すると、GDPの構成要素がわかりやすくなります。

そして、1人あたりGDPを高めようとするならば、資本・労働比率の向上(労働者一人ひとりがより多くの資本によって支えられるようにする)や、全要素生産性(技術力や効率性を高める)の向上がカギであって、それらはイノベーションの実現ということに集約される90年代以降の日本経済の低迷は、人口問題ではなく、要するにはイノベーションが少なかったということに帰結される、と同記事は示唆しているわけです。

そのイノベーションについて、同記事は続けて次のように説明しています。(一部抜粋)

日本でイノベーションが振るわなかったのは人口の減少が原因であり仕方がないとの指摘があるが、イノベーションの本質を理解しない誤った考え方だ。イノベーションというコンセプトを経済学の中に定着させたシュンペーターは、それがどこまでも「ミクロ」であることを強調した。

例えば新しい時代を切り開いた米国のハイテク企業4社(GAFA)の時価総額は12年から22年にかけて385%上昇したが、この間の米国の人口増加はわずか6.2%だ。人口とイノベーションは別物である。

経済協力開発機構(OECD)諸国についてみると、世界知的所有権機関(WIPO)が公表するグローバル・イノベーション・インデックス(GII)と各国の人口増加率との間には相関関係がない。OECDに加盟していない途上国の場合にはむしろ明確な負の関係、すなわち人口増加率が低い、あるいは減少している国の方がイノベーションが活発であるという傾向がみられる。

民間企業がミクロレベルでイノベーションを行うことが重要だ。「もう買うものがなくなった」との声も聞かれる。既成のプロダクトへの需要が飽和点に達したということだが、それは飽和点を打ち破るための新しいプロダクトの創造の夜明け前ということだ。実際、多くの企業で新しいプロダクトの開発が進められている。こうした成果が1人あたりGDPの向上につながるのだ。

1707年創業で、伊勢神宮土産の定番として名高い「赤福餅」を手掛ける老舗和菓子店は、数年前から消費者の嗜好の変化に対応すべく新しい洋菓子を開発している。

ある漁網メーカーでは需要が落ち込むなか、サッカーのゴールネットの品質向上に力を注ぎ、漁網づくりの技術を使い六角形のネットを開発した。ゴールの瞬間、ボールが一瞬止まったように見える効果を劇的に演出することに成功した。

あるアルコール飲料メーカーは、缶ビールの蓋を開けた瞬間にキメ細かい泡が吹き出て、ジョッキで飲む生ビールのような風味を味わえる製品を開発した。「泡を出さない」缶ビールから「泡を出す」缶ビールへと発想が転換され、缶内側の加工方法の変更など新しい工夫が集積された結果だ。

日本で生じている人口減少はそれ自体が省力化のイノベーションを促すことは間違いないし、そうした例は数多くみられる。今後人口減少が加速するなか、こうした省力化のためのイノベーションの必要性は一層高まると考えられる。

さらに高齢者の増加に対しては、高齢者特有の財・サービスの提供のほかに、介護のためのハイテク技術の活用などが求められる。現にそうした活用は広がっているし今後利用の余地は広がっていく。1つや2つのイノベーションでは済まない。日本が抱える人口減少や高齢化という課題は、イノベーションを生みだす素地になっている。

経済の新陳代謝を促しイノベーションを推進していくために、金融機関の果たすべき役割も重要だ。これまでは新陳代謝促進に向けて、リスクテイクとリスク回避の適切な使い分けも十分でなかった。金利のある経済の到来で、金融機関のリスクテイク能力の果たす役割は大きくなっている。

イノベーションの主役は民間企業だが、国も無縁ではない。例えば00年代に入ってから急増した海外からのインバウンド(訪日外国人)だ。ビザ(査証)免除や発給要件の緩和、観光庁の設立、統計整備、ICT(情報通信技術)を利用したインバウンド消費の把握など、政府による必要な施策を積み上げた成果だ。国費の投入はそれほど大きくはない。「ワイズスペンディング(賢い支出)」ならぬ「ワイズアクション」が奏功した。

もちろん国の施策だけではなく、外国人向け高級ホテルの建設、外国人のニーズに対応した新たな商品やサービスの提供、外国人との対話に対応できるスマホによる翻訳機能の開発といった様々な革新的なアイデアが功を奏した結果でもある。まさに官民が協力し、ツーリズムにおけるイノベーションが起きた。

イノベーションは、規模の大きいものから小さいものまでいろいろあり、その中で上記にある事例は、各人や各企業のおかれた環境下でそれぞれのミクロの立場からイノベーションが可能であることを改めて示唆していると思います。

金融機関の役割のひとつが、イノベーションの創出に意欲的な企業を目利きしリスクを取って貸し出しを行うこと。公的機関の施策で民間企業のイノベーションを後押しすることができる。餅は餅屋の役割がありそうです。

そして、1つのイノベーションで経済や社会全体を浮揚させられるわけではない。様々なイノベーションが複合的にかけ合わされていくことで、1人あたりのGDP増加=経済や社会全体の浮揚につながるというわけです。日本は課題先進国と言われますが、同記事に言及があるように、人口減少や高齢化といった環境変化は逆にイノベーションを生む余地が大きいとも言えるということが、改めて認識できます。

「人口減少で経済のパイが縮む」などにフォーカスすると思考停止になりがちですが、「ミクロの視点でイノベーションを追求する」にフォーカスすれば展望が開けることは、意識したい点だと思います。

<まとめ>
「ミクロの視点」で「イノベーション」を追求する。

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