地域手当の今後を考える
先日、ある企業様とのミーティングにおいて、「自社では地域手当制度があるが、この制度は一般的なのか」という質問がありました。この問いかけに対する回答は、「かつては多くの企業で導入例が見られたが、今は少数派になっている。目的次第では制度の意味はあるが、時代環境として必要性は薄れている」というところになります。
地域手当とは、企業に複数の事業所がある場合、地域差による生活水準の差異を調整するために支給される手当のことです。「勤務地手当」「都市手当」「寒冷地手当」などと呼ばれることもあります。
厚生労働省による令和2年就労条件総合調査を参照すると、地域手当や勤務地手当の制度がある企業は全体の12.2%、支給額平均は2万2800円となっているそうです。支給実績があるのは一部の企業に減っているのがわかります。
地域手当という制度の必要性が薄れている理由を、3つ挙げてみます。
1.都市圏と地方圏で何にお金がかかるのかは一様ではなく、比較が難しい
「寒冷地手当」という名称には、時代が感じられます。かつては、北日本を中心に冬の寒さ・雪を乗り越えるのにたいへんだった地域の従業員は、雪の備えや暖房などの対策に費用がかかりました。その費用に対して企業が補助しようとしたものです。。今でもそのたいへんさはあるのですが、社会インフラの整備と温暖化で昭和の頃ほどではないはずです。
逆に、温暖化によって夏を乗り越えるのが以前よりたいへんになった地域は、冷房代がかかります。実際、ある企業の従業員の方から「自社には東北の支社の従業員向けに寒冷地手当があるが、それなら九州支社では温暖地手当が必要だ」と言われたことがあります。
以前は、都市での生活は地方よりお金がかかると考えられてきました。確かに、例えば東京での住居費は地方よりはるかに高くつきます。一方で、東京に住めば車が必需品ではなく、車を持たなければ車両の購入費・維持管理費がかからないという一面もあります。
2.都市圏と地方圏の物価差が、以前ほどではなくなってきている
以前は、地方に行くほど物価が安いというのが一般的な感覚と事象でした。しかし、全国型のチェーン店などが増え、地域に関係なく同じ値段で売られているものが増えてきました。ディスカウントストアなどがたくさん立地している分、ものによっては東京のほうが安いものが手に入りやすい、といった事象もあります。
あるいは、外国人観光客に注目されているエリア、外国資本の半導体関連工場が進出する地域などでは、賃金や消費が膨らむ傾向があり、物価もつられて今後さらに上がっていくことも予想されます。どのような消費活動を送るかにもよりますが、国内であれば以前ほど物価差を感じずに生活できる環境になってきていると想定できます。
3.移動のあり方が大きく変わっている
これが一番の要因だと考えられます。社員を転勤させる制度がある企業では、地域手当が人事異動での不満の一因になることがありました。例えば、都市手当の出ている社員が辞令で地方に転勤することになった場合、都市手当が不支給となるために賃金が減ってしまいます。「業務命令に従ったら賃金が減った」という印象になってしまいます。
また、就職に絡んだ移動というと、地方出身者が地方ではなく都市で就職する場合に移動を伴うのが以前のイメージでしたが、最近では都市出身者や居住者があえて地方企業に魅力を感じて就職・転職するケースも増えてきました。地方の支社ではなく東京の本社に所属しながら、リモートワークで居住は地方といったケースもあります。
勤務地がどこなのかが、自身の意思か会社の業務命令かということに加え、どこに居住するのかの自由度が高まりました。どのエリアに勤務している、あるいはどのエリアに住んでいるからという事象に対して、一律に手当で調整するというのは、環境変化に合わなくなっているかもしれません。
そのうえで、2.については今後また状況が変わってくるかもしれません。
11月29日の日経新聞で、「「一物一価」一律・固定的な値付け 安値に偏重、企業成長阻む」というタイトルの記事が掲載されました。一部抜粋してみます。
全国どこでも同じものが同じ値段で売られていた大型チェーン店の商品・サービスが、地域別価格などを積極的に導入していけば、地域による物価差が今後一定程度広がっていく可能性もあるかもしれません。
いずれにしても、これまでの地域手当制度は、従業員にとって公平さを欠く内容と印象という結果につながっている場合があります。必要に応じて見直しを検討してよいと考えます。
<まとめ>
地域差による生活水準の差異は、一律の金額調整ではみにくくなっている。