見出し画像

副業歓迎の求人を考える

10月9日の日経新聞で、「自治体の求人は「副業歓迎」で」というタイトルの記事が掲載されました。現役の地方公務員の方による投書で、副業を積極的に歓迎することで自治体の求人への応募を確保していってはどうかという考察です。

同記事の抜粋です。

全国各地の自治体で採用難・人材不足が深刻さを増している。募集しても満足な量と質の人材が得られない。待遇や労働環境、将来性などの面で民間に競り負けているのだ。この期に及んでは、「奇策」を用いて人材獲得競争に挑むしかない。「わが自治体は副業を歓迎します」と打ち出して職員を募集してはどうだろうか。

地方公務員の副業は「原則禁止」ではあるが、首長などの任命権者から許可を得れば可能だ。昔から、許可を得て家業の農業や不動産業を行う場合がある。近年では、社会貢献となる副業を積極的に許可する制度を設ける自治体も現れた。また、果樹栽培が盛んな地域の自治体では、職員が収穫のアルバイトをすることを認める制度も広がっている。

今のところ、促進されるのは社会貢献や農作業などに限られているが、自治体職員としての本業に支障がなければ、首長などの許可によって多様な副業をすることが可能なはずだ。

世の中には、安定した本業を持ちながら、副業で自己実現したい人は少なくない。特にデジタルネーティブ世代は、デジタル技術で音楽や映像作品、マンガなどを創作することが特別でない時代に育ち、クリエーター人口が多い。勤務先に伏せて活動している人もいることだろう。

そこで、有為の人材を採りたい自治体は、「副業したい人を歓迎します」として採用募集をかけるのだ。そして、希望する者には業務に差し支えない範囲で多様な副業を許可することとする。これにより、自らのライフワークを副業として続けたい逸材を全国から得られるのではないか。

もちろん、自治体は副業希望者に対し、本業が第一であることをはじめ各種のルールを指導する必要がある。本人の希望に沿う働き方ができるよう調整や配慮も求められる。

一方で、それで得られた人材には、副業の時間を確保するために本業を効率的にこなしたり、役所の論理にとらわれない発想を持ち込んだり、と自治体組織に足りない創造性の発揮が期待される。やがては、創造的人材が集まるユニークな自治体として評価されることも夢ではない。

このことは、自治体に限らず、民間企業にも当てはまると思われます。

先日訪問した地方圏の企業の経営者様からも、上記と似たようなお話がありました。

「自社ではこれまで原則副業禁止でやってきたが、農業や不動産業などの家業に限っては許可してきた。しかし、これからは全面的に許可してよいのかもしれないと考えている。自社の財務で今すぐ、大企業並みの賃上げやインフレ率を上回る賃上げ率の実現などは無理がある。賃上げは最大限目指しつつも副業を緩和して、社員が収入を増やすための選択肢を増やせるような環境を提供するということ」

労働力人口が減っていくこれからの環境では、労働力の需要に対して労働者数の供給が細っていき、ますますアンバランスになっていくことが想定されます。労働力の需要と供給、両者の均衡が成り立っていくには、3つの方向性しかないでしょう。

・労働力の需要を減らす
・外から労働者を調達する
・1人の労働者による労働供給量を増やす

国内総生産量を横ばいか減らして経済活動を停滞させれば、労働力の需要を減らすことも可能ですが、それは社会的にあまり望ましいことではないはずです。国内総生産量を増やしつつ、人力によっていた工程を自動化したり効率化したりして、人にしかできない領域を絞り込み、同じ労働者数でもより多くの付加価値活動ができる状態を目指すのが、望ましい方向性です。

さらには、国外から労働者を集めることです。米国、ドイツ、スイスなどは、もとから国内にいる人だけだと少子化で人口減少ですが、移民で労働力人口を補っている点が日本と異なります。

日本の受け入れ体制の現状からは、人口減少分を補えるだけの移民の受け入れは無理がありますが、少なくともこれまで以上の水準での受け入れは避けて通れないのではないかと思われます。

そして、1人の労働者による労働供給量を増やすうえでは、1人が異なる役割や職種を同時に何役か務めることが、有力な方策のひとつになります。

もちろん、1つの役割・ポジションに特化してそこへの集中に徹する、従来型の働き方にも価値があり、そのほうが合っている人はそれが最善かもしれません。そのうえで、他にも価値を発揮できる領域がある、他の領域にも挑戦したい志向性があるなどの人は、複数の役割や職種を兼ねることもよいと考えます。

そうした人材も価値観は様々だと思われます。中には、本業は最低限生活が成り立つための稼ぎを安定的に得るためにしっかりと労務を提供し、アドオンで好きな仕事だけを選んで副業したい、という人もいます。そういうタイプの方は、冒頭の自治体の募集などに向いているのかもしれません。

今後は、上記3つの方向性のかけ合わせで対応していくことがますます必要になるのではないかと考えます。このことは、社会全体という単位でも、1企業という単位でも、共通して当てはまると思います。

続きを、次回考えてみます。

<まとめ>
副業のさらなる解禁は、労働力の供給量を増やすための方策になり得るかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?