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物価は上がっているようだが・・

10月22日の日経新聞で、「消費者物価0.1%上昇、1年6カ月ぶりプラス」というタイトルの記事が掲載されました。長らく物価がマイナスでしたので、ようやくプラスなのかという気もしますが、これはかなり注目すべき事象ではないかと思います。

同記事の一部を抜粋してみます。

~~総務省が22日発表した9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が99.8と前年同月に比べて0.1%上がった。1年6カ月ぶりにプラスとなった。原油価格の上昇で灯油やガソリンなどのエネルギー品目が上昇し全体を押し上げた。

品目別にみると、エネルギーが全体で7.4%上昇した。伸び幅は2年10カ月ぶりの大きさだった。灯油は20.2%、ガソリンは16.5%上がった。電気代も4.1%上がり、2年5カ月ぶりの上昇幅となった。

宿泊料は43.1%上がった。20年7月下旬に始まった観光需要喚起策「Go To トラベル」が現在は停止しており、21年9月は反動で消費者の負担が増えた。携帯電話の通信料は大手の格安プラン販売などで44.8%低下した。

生鮮食品を含む総合指数は100.1で0.2%上がった。1年1カ月ぶりにプラスに転じた。産地の天候不順によりレタスやトマトなどの生鮮野菜が5.5%上昇した。

足元では原油価格の高騰が続く。今後もエネルギー品目を中心に物価の上振れ要因となる。ただ高インフレが続く米欧に比べれば、ようやくマイナス圏を脱した日本の物価上昇は鈍く、差は依然として大きい。~~

タイトルだけ見ると物価が上昇し経済が好転していくかのような印象をもつかもしれませんが、そうでもなさそうです。前年同月比0.1%増と言っても、2020年通年(100)よりもまだ低い水準(99.8)というレベルです。

直近の生鮮食品除く消費者物価指数(対前年比)は、次の通りです。下がり続けた動きがプラスに転じましたが、まだ微々たるレベルです。加えて、ここ数年ほとんど物価は上がっていませんでした。総じて、日本の物価はゼロ近辺で推移していると言えます。

4月:-0.9%
5月:-0.6%
6月:-0.5%
7月:-0.2%
8月:0.0%
9月:+0.1%

上記は、消費者が物を買う時の物価指数です。一方で、企業が企業間取引で物を買う時の企業物価指数(対前年比)はどうなっているのか見てみます。

4月:+3.9%
5月:+5.1%
6月:+5.0%
7月:+5.6%
8月:+5.5%
9月:(未確認)

消費者物価の動きとは大きく乖離して、企業の仕入れなどの価格は大幅に上がっていることがわかります。この価格差の手掛かりを知るために、他国の状況を見てみます。「消費者物価は経済の体温計」などと言われることもありますが、コロナ禍の中で経済回復の動きが日本より先行してきた他国は、体温も上がっていると言えます。中国が低いのは、恒大問題などによる影響への懸念がそのまま出ていると推察することができます。

<消費者物価(対前年比)>
米国 欧州 中国 韓国 シンガポール
4月: +4.2% +1.6% +0.9% +2.3% +2.1%
5月: +5.0% +2.0% +1.3% +2.6% +2.4%
6月: +5.4% +1.9% +1.1% +2.4% +2.4%
7月: +5.4% +2.2% +1.0% +2.6% +2.5%
8月: +5.3% +3.0% +0.8% +2.6% +2.4%

日本の企業活動では、多くの資源、資材、原材料や部品などを輸入に頼っています。他国で物価の上がったこれらを仕入れるわけですので、企業物価指数が上がって当然ということになります。

ではなぜ、企業物価だけ上がって消費者物価はほとんど上がっていかないのか。それは、「企業のコストを消費者への売値に転嫁できていないから」と言えます。
例えば米国の場合、企業(卸売)物価は次の通りです。上記消費者物価と見比べると、すべてとは言えないまでも、企業物価が上がったコスト分のほとんどを消費者に対する販売価格に転嫁できていることが明白です。

<企業(卸売)物価(対前年比)>
米国
4月: +6.2%
5月: +6.6%
6月: +7.3%
7月: +7.8%
8月: +8.3%

この「価格転嫁を受け入れない」という文化(消費者が値上げを嫌う文化)は、いち企業やいち個人には簡単には変えることができないものです。しかしながら、資材や燃料、そこから派生する光熱費など企業活動のコストがしばらく上がり続けるであろうことは、最近のニュースなどからも想定できます。このまま販売価格に転嫁できない状況が続くと、収益性が大きく下がっていくことが心配されます。

私たちとしては、難しいながらも事業活動の中で、
・販売価格を上げることができないか模索する
・単に販売価格を上げるだけでなく、付加価値を加えた上で価格を上げられないか模索する
・それらが無理なら、工程を見直し経費で削減できることがないか模索する

ことに一層取り組むべき局面に来ていると言えそうです。

ましてや、近視眼的な目標達成のための安易な値引き販売などは、慎重に考えなければならないでしょう。

<まとめ>
売値に価格転嫁できないコスト増は、収益性圧迫の懸念がある。


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