話題の買収を考える
日本生命によるニチイの買収が話題になっています。ニチイHDの発行済み株式の約100%を取得するということですので、完全子会社化ということになります。
11月29日の日経新聞記事「日本生命、介護最大手のニチイを買収 2100億円」を一部抜粋してみます。
先日、ある企業様から「同業他社(オーナー企業)から「一部の店舗事業を買いとってくれないか」という提案が来た」というお話がありました。その場にて一緒に、該当事業の保有資産と当面想定できる損益から簡易な方法で適正価格を見積もってみることになりました。すると、提案してきた同業他社が提示している金額より、大幅に低い金額が妥当であろう(=このまま乗るべき話ではない)という結論になりました。
事業売却の経緯はケースによってさまざまですが、当該事業をそのまま継続しながらその一部だけを切り出したいということは、切り出す部分はほぼ採算が成り立っていないと想定されます。成り立つのであれば、譲渡せずにそのまま続ければよいからです。「買い取る側が儲かる」という結果は、ほぼないと考えてよいのではないでしょうか。
事業を買収する場合、基本的には投資金額(買収資金)を、買収対象事業分が生み出すキャッシュで回収してくことになります。ファンドなど金融業の会社が買い手の場合は、新規上場や他のファンドへの転売で買値より高く売れれば、その分も回収に加えることができます。しかし、継続して買収した事業に取り組む同社様のような場合は、売却時の回収は想定できませんので、利益を生める見込みがなければ話になりません。
それでも売るなら、売り手側としては損切りするぐらいの値付けが必要だったと思われますが、そうはなっていなかったわけです。
売り手の経営のやり方に大いに改善の余地があるなどの場合なら、買い手が買い取ってやり方を変えれば利益が上がることもあるかもしれません。しかし、同社様のケースはその見込みもなさそうでした。
買った事業が赤字となる結果でも買い取る側にメリットがあるとすれば、例えば次のような場合が想定されます。同社様は、下記のどれにも当てはまらず、他にプラスの相乗効果も見込めないというわけです。
・既存事業の新たな販路となる顧客を引き継げることで、当初引き受ける赤字以上の売り上げ拡大を、将来的に見込める。
・事業と共に従業員の一部を引き継げることで、採用コストをかけずに質の高い人材に自社に参画してもらうことができる。
・設備やノウハウ等取得できる資産が、既存の経営戦略あるいは将来戦略にとって有効で、当初引き受ける赤字以上のプラスをいずれ見込める。
これが、事業の全部を譲渡する、あるいはオーナーチェンジで企業の資本そのものが変わるなどであれば、種類の異なるテーマになってきます。
例えば、ある企業の中長期ビジョンを実現するための企業戦略に、ある事業が合わなくなった場合、「まだ利益が出ている事業だが丸ごと手放して、経営資源を別の事業に集中させる」という意思決定があり得ます。このような場合、当該事業を企業戦略の中心に置く別の企業にとっては、利益も見込めるうえでの優良な資産になり、売り手買い手共にWin-Winになるかもしれません。
オーナーチェンジで企業の資本そのものが変わる場合は、さらなりです。オーナーが今後長期にわたって企業を所有する意思がない場合、あるいはできない場合は、売却という方法で速やかに事業承継する必要性が高いかもしれません。
オーナー企業で後継者候補がいない場合などがそうです。事業承継を急ぐ場合は、多少買い手に有利な条件を出してでも時間を買いたいという売り手側のニーズがあり得ます。買い手側は有利な契約で承継することができ、双方Win-Winになるかもしれません。
ニチイの場合は、米ベインキャピタル系のファンドが保有していた株式を日生が買い、オーナーチェンジとなります。ファンドとしてはおそらくそれなりの値段で売れ、出口戦略終了です。日生はこれから、ニチイの事業が生み出すキャッシュで投資分を回収していくことになります。これは簡単なことではありませんが、同記事にもあるようにニチイの営む事業と日生の本業との相乗効果などから、Win-Winになり得ると判断したのだと思われます。
11月30日の日経新聞記事「介護、異業種巻き込み再編 日本生命がニチイ買収 ファンド主導、効率化加速へ」では、次のように紹介されています。(一部抜粋)
どうやら、前身であるベインの買収時には、上記で触れた「買い手が買い取ってやり方を変えれば利益が上がることがある」が当てはまっていたようです。
その事業が、営まれるのに最適な場所に移り、移動前・後の両者がWin-Winになるのは、歓迎されるべき結果だと思います。後継者確保ができていない中小企業を中心に、事業承継のひとつのあり方であるM&Aは、今後増えていきそうです。
<まとめ>
その買収の是非は、資本や事業が最適な場所へ移っているプロセスだと言えそうかどうかによる。