採用市場のこれから(2)
前回は、採用に関わる事業の関係者からお聞きしたお話をテーマにしました。有効求人倍率の変化を追いながら、「入社5年経過後に転職するつもりで入社してくる新卒者が多い」という傾向について考えました。
お話で印象に残ったことの2つ目は、転職理由として人間関係を挙げる人が減ったということです。
以前は、残業時間の多さや人間関係の悩みが転職理由として目立っていました。しかし、働き方改革が以前から進んでいたことに加え、コロナ禍で働き方の多様化が進み、残業時間が少なくなりました。よって、残業時間を理由として挙げる順位が相対的に下がったというわけです。人間関係についても同様のようです。
以前はパワハラなど人間関係の理由も多かったものの、テレワークも増えて上司や同僚などとの直接的な接触が減ったことで悩みも緩和され、人間関係が転職理由ではなくなった人も増えたのだろうというお話でした。
この傾向が社会的にそうなのかはわかりませんが、うなずけるものはあります。いつの時代も、人間関係の悩みがなくなることはありません。人間関係の問題自体が解決されたわけではなく、ここ何年かは希薄化しているため問題としてあまり大きく感じないですむ人が増えたということです。
コロナ禍で時間的・距離的な制約もでき、どうしても低下気味となった組織としての求心力を改めて高めようと、密度の濃いコミュニケーション活動に改めて力を入れようとしている企業も多いことと思います。そうした取り組みを進めていくうえで、メンバーの間で人間関係に対する免疫が減っているかもしれないという前提に立ち、有効な対応を考える視点は大切になりそうです。
先日、ある現場のエッセンシャルワーカー採用担当の人とお話しました。そこでは専門学校卒の人を多く採用しているのですが、「この4月は、入学から卒業までの間、コロナ禍で対人の実習がほとんどできなかった学生が多く入ってくる。入る側も採る側も不安が大きい」ということです。こうした事象への考慮も大切になってきます。
3つ目は、「いい話があれば転職したい」というスタンスが増えたということです。
採用で売り手市場が続くということは、売り手の求職者としては慌てる必要がないというマインドにつながります。「今日明日すぐにでも会社を決める」という切迫感は不要となります。
募集する側が、従来のような「待ってたら応募者が来る」という概念で募集活動・広報をやっている事例がまだ多く見受けられるが、あまり有効でないことが多い、という指摘がありました。求職者側の能動的な職探しを期待してはいけないということです。募集する側から意欲的に求職者側に入り込んでいく必要があるというわけです。
スカウト機能のある募集媒体もありますが、本来の機能を活かしきれておらず、求職者側による能動的な職探しを待っている姿勢の使い方も目立つという指摘もありました。採る側の能動的な戦略と行動が求められる環境になっていると、改めて感じます。
そして、求職者が「ワークライフバランス」というワードをやたらと発言する傾向もみられるそうです。「テレワーク可能か?」「副業は可能か?」の質問も多いそうです。年間休日120日未満の会社には応募はほぼないながら、それに該当する中小企業も多く、求人情報の初見でアンマッチとなっている可能性があるということです。
面接が初回から対面実施だと、その時点で求職者が逃げてしまうことも多いそうです。できれば初回はオンラインがお勧めだというお話でした。選考が進んだ後ならともかく、初回から対面にこだわると、環境変化や技術の発展に疎い会社ではないかと推察されてしまうというわけです。
求職者側の特徴やニーズのすべてに、迎合する必要はないでしょう。そのうえで、採用市場を取り巻く環境変化を踏まえたうえで、能動的に人材確保する姿勢が、一層求められていきそうです。
<まとめ>
「いい話があれば転職したい」人材は、待っていても来ない。