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出社回帰を考える(2)

前回は、リモートワークから出社に回帰する動きも見られる中で、改めてリモートワークにどのように向き合うのがよいかをテーマに考えました。ひとつの切り口として、業務プロセスに関する要因とコミュニケーションに関する要因の整理を挙げました。

前回の続きですが、出社(非リモート)or非出社(リモート)での0か1、白か黒かで決着させるのではなく、改めて、グレー・ハイブリッド対応の余地も考えられるのではないかと思います。そのためには、自組織でリモート形式を導入する場合のコミュニケーション領域の課題定義と、その解消(あるいは最小限に軽減)の取り組みが必要になります。

コミュニケーション領域では、直接見聞きできる部分と、直接は見聞きできない部分があります。異文化コミュニケーションを考える際などでよく使われる、海に浮かぶ氷山のイメージです。

人の発言、行動、しぐさなどは見聞きできますが、人の価値観や信念などは直接見聞きできません。直接見聞きできないものは、言語化して伝え合うことで見聞きできるようになります。

仕事以外に抱えている家庭の事情などで、それが勤務時間や勤務場所に制約を与えるのであれば、それらも直接見聞きできない要素に含まれます。相互の協力が必要であるなら、どのような事情でどのような助けが必要で、それはなぜ必要なのかの情報がわからないと、協力のしようもありません。

仕事やプロジェクトで協業するにあたって、全員がオフィス勤務の状態と、全員もしくは一部のメンバーがリモート勤務の状態とで発生する、コミュニケーションの質・量の違いは、次のように想定することができます。

全員オフィス勤務のほうが、
1.直接見聞きできる情報が多い
2.直接は見聞きできない情報についても、新たに見える化しやすい
3.直接見聞きできる情報のやり取りを深めることで、メンバー間での共通認識を深めたり、創発的な価値が生まれたりしやすい

このことは、業務プロセスで求められる要素を抜け漏れなく拾って、必要な業務を遂行するということについてだけでなく、組織文化を創り出すことについても必要だと言えます。

自社の組織文化に通じるミッション、ビジョン、ウェイなどが、文字となって言語化されていれば直接見聞きできる情報になります。そのうえで例えば、文字にまで現れていない行間の意味についてメンバーとのちょっとした会話のやり取りから気づいて再確認する、他者が隣の席でとった良い行動にミッション、ビジョン、ウェイなどを照らし合わせて自分も学ぶなどは、リモートワークでは難しいかもしれません。

例えば、リモートワーク中に定期的な打ち合わせの場を設定しておく、オンラインの指定場所での書き込み・情報アップを徹底するなど、1.2.3.を目指した仕組みや仕掛けの充実が必要だと言えます。それでも埋まりきらない要素があるなら、オフィス勤務を一定の頻度で計画するなどの補完も考えられます。

直接見聞きできない各人の価値観に関する要素で、時間に対する感覚の差は大きいのではないかと、個人的には想定します。

『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ氏著)では、私たちが産業革命以降、時間の概念のなかった農耕社会から、同じ時計を共有し画一的で正確な産業活動のスケジュールを前提にした社会に移行した影響の大きさが説明されています。このことは、いつ、何をするかという時間の支配権が、個人から社会や組織の側に移ったという言い方もできると思います。

リモートワークにするということは、時間の支配権の一部か大部分を、個人の手に再び返すということだと説明できます。

前回参照した新聞記事では、アマゾンでは「リモートワークが増えたことで、熱心に働かない社員が目立つようになった」と認識していることが言及されていました。事実としてそうなのか、実際は熱心に働いていて事実と異なるのかはわかりませんが、少なくとも次のような指摘はできるのではないかと考えます。

時間の支配権の一部か大部分を、会社から個人の手に返すということについて、うまくいくのか不安が大きい

完全な主観になりますが、私は仕事(あるいはそれ以外)を通していろいろな企業や個人を見る中で、その企業や個人の文化を特徴づけるうえで時間の感覚、スピード感の違いは、最も大きい要素のひとつではないかと考えます。

・慎重で検討に多くの時間を使う傾向があり、決定が遅い
・即断を重視し、決定が早い
・着手は早いが進めるのには時間をかける
・着手は遅いが決まると進みは早い
・返事が早い。逆にゆっくりめ
・期日を必ず守る。逆に期日がよく変わる ・・・など

期日にルーズで納期割れが頻発するなどは確実に改めたほうがよい文化ですが、検討に時間をかけがちか即断しがちかなどは、どちらもメリットデメリットがあり、一概にどちらがよい、改めるべきなどは言えないものがあります。そして、あの会社は全体的に○○だ、あの人は○○がちだなど、一定の傾向があるものです。

そして、私たちは、自分あるいは自組織の有する時間の文化と相手が異なる場合、いらいらしやすいものです。オフィスで全員の顔が見えれば、同一の時計による時間の支配権のもとで「作業時間の開始」「退勤せよ」などによって時間の文化のずれは減らせますし、各人が何にどれだけ時間を使っているのかも把握しやすくなります。この時間の支配権が個人に委ねられることへの不安が、リモートワークのやりにくさに大きく影響しているように感じます。

しかしながら、リモートワークの意義のひとつは、各人が時間の支配権を一定程度有し、自身のペースや事情の中で工夫し業務を効率的に進めていけることにあります。どのタイミングで何に時間を使っていくかの支配権がまったく個人に移管しないのであれば、リモートワークの意味はなくなります。

そこで大切になってくるのが、成果で評価するという概念なのだと考えます。このことについて、次回考えてみます。

<まとめ>
コミュニケーション領域では、直接見聞きできる部分と、直接は見聞きできない部分とで、充実させることを考える。

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