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ライドシェアの今後を考える

10月31日の日経新聞で、「タクシーの更なる規制緩和を」というタイトルの記事が掲載されました。全国ハイヤー・タクシー連合会会長 川鍋一朗氏による投稿で、今後のタクシー業界や移動というテーマに関して示唆する内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

最近、「タクシーが来ない」という声をいただくことが増え、誠に申し訳なく思う。コロナ禍で乗務員が2割減った中で、インバウンド需要が急回復していることが主因である。乗務員は足元では増え始めており、それを加速させ、利便性と安心・安全を両立した移動サービスを提供するためには、時代に合わせたタクシーの規制緩和の徹底が有効だ。

タクシーが守るべき法規制は利用者を保護するために高度化してきた。単純に供給が増えるからといって、利用者保護をないがしろにしたライドシェア解禁を行えば、安心・安全な移動サービスは失われてしまうだろう。日本の公共交通の基盤にあるのは、責任主体を明確にした上での運行管理および整備管理の実施だ。タクシーの運行現場では、アルコールチェックや健康状態、車両の整備状況を乗務前に毎回必ず実施する。

それが担保されない形態のライドシェアは過去10年で経済協力開発機構(OECD)加盟国の8割で禁止または厳しく規制され、米国、中国でも規制強化が進んでいる。各国で悲惨な事件や事故が多発し、労働者への報酬・補償面においても問題が多く、利用者、労働者双方の保護の観点からデメリットが顕著だったからだ。

安全運行と利用者保護の体制を堅持しながらも交通利便性を高めるための規制緩和は可能だ。例えば、タクシーの営業エリアの柔軟化や運行管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)などの規制緩和により、需要に合わせたタクシー台数の調整をしやすくなった。タクシー車両と乗務員の他営業圏からの派遣、タクシー営業所の設置の最低車両数や設置場所の規制緩和も予定されている。

ただ、こうした取り組みだけでは不十分で、タクシー不足解消のためには更なる規制緩和が望まれる。タクシー乗務員となるために、一部の都府県では非常に難解な地理試験を今でも課している。カーナビが浸透した現代では、当然見直されるべきだ。また、2種免許取得日数の短縮や地域・先進安全装置付き車両などの限定的な2種免許の新設、特定技能1号ビザによる外国籍ドライバーの拡大など、担い手を増やすための規制緩和を一日でも早く進めるべきだ。

最近、ライドシェア解禁に関する話題を聞くことが増えました。同記事から改めて感じるのは、ライドシェア解禁によって万能薬のように移動の問題が消えてなくなるわけではないこと、問題解決の順序としてライドシェア解禁が優先順位高いのかは検討の余地があること、です。

同記事も手がかりに、3点考えてみます。ひとつは、先行事例の把握の大切さです。

諸外国でライドシェアが発達しているのであれば、その結果や発生する問題に学ばない手はありません。米国、中国をはじめとした各国で規制強化が進み、事件・事故・労働問題も大きいという経過からは、学ぶべき示唆がたくさんあるはずです。

仮に、そうした検討なしに解禁の結論ありきで進めてしまうと、「解禁→問題発生→規制強化」という他国の流れを、1サイクル遅れて取り入れてしまうことになりかねません。結果的に出遅れてしまっているのであれば、この機会に先行事例に学べるという環境を生かすべきだと思います。

2つ目は、1つ目に通じますが、その商品・サービスに何を求めるのかを明確にすることです。

例えば、東南アジアではライドシェアが発達していますが、その背景として、「既存の移動手段より優れている」ということが挙げられます。

以前、ベトナムでのライドシェアについて取り上げたことがありますが、次のようなポイントでした。

<既存のタクシーのサービス>
・態度の悪いドライバーも散見(乗車拒否含む)
・犯罪に巻き込まれるかもしれない不安感
・法外な料金が請求されるかもしれない不安感

<Grabなどの配車サービス>
・丁寧・懇切な接客
・身元が確実なことによる安心感
・前提として、インターネットでのドライバー申し込みは受け付けない。手間はかかるがすべての運転手と直接面談を行い、徹底した身元確認を実施

治安の悪いエリアもある東南アジアでは、既存の移動手段であるタクシーに不安定な要因が多く存在していました。そこに、公明正大で安心感の高いGrabなどの配車サービスが登場し、従来の商品・サービスとの比較で選ばれているというわけです。

そして、その安定した質の高い商品・サービスを維持するために、既存のタクシー会社で配車依頼するより1.5倍~2倍程度割高の料金だとも言われます。日本でライドシェアを想像する人のイメージの多くは「既存のタクシーより割安で商品・サービスの質は劣る」ではないかと想定されますが、ベトナムでライドシェア最大勢力のGrabはそれと真逆だというわけです。

もちろん、国情も違う他国の先行事例のやり方を、そのまま取り入れればよいというわけではありません。そして、消費者・顧客が、一択ではなくいろいろな選択肢を持てること自体は有意義です。その意味では、ライドシェア解禁は議論されてよいテーマでもあります。

そのうえで、従来にない選択肢として、日本ではライドシェアにどんなことを求めたいのか、また前提条件として何をクリアしてもらっておく必要があるのかを、明確にするのがよいと考えます。

3つ目は、従来の商品・サービスの改善で補えることはないかです。

同記事の示唆するように、従来から存在する日本のタクシーというサービスは、世界的にも品質の高いものだと評価できそうです。このタクシーという形態をより使いやすくし、より供給力を高めることで、ライドシェア議論の発端となっている主な問題の多くが解決されるのかもしれません。ライドシェア解禁を議論するのと同時にあるいはそれ以前に、この点を議論して解決策に取り組むことも、利用者の便益に適うはずです。

上記と同じようなことは、自社の所属する業界や商品・サービスでも日常的に起こりえるのではないかと思います。持ち合わせておきたい視点だと考えます。

<まとめ>
他での事例は、自分たちの置かれた環境に合っているのかを考える。

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