ずるいだろ MIU404
MIU404 は先日終了したTBSの刑事ドラマである。
好きでずっと見ていた。
昔「アンナチュラル」というドラマがあって、それと同じ脚本家の刑事ドラマ。途中、「アンナチュラル」とのコラボがちょろっと入る。
「アンナチュラル」の続編を期待していたがいっこうに出来ず、今回の刑事ドラマは、予告されたときから、あまり期待していなかった。キャストは十分に期待できる俳優陣だったが、綾野剛を伊吹のような野生児キャラに使うというのが、あまりぴんとこなかった。
刑事ドラマは脚本如何でできはかなりの差が出る。つまんない話になるんじゃないかと思いつつ、録画していた。
しかしこのドラマ、新型コロナの流行で放送開始が遅れてしまう。撮影がかなり押してしまったそうで、制作には相当苦労があったと思われる。
その苦労というか、執念というか、それがすべてはき出されたのが最終回だった。
結論から言えば、最高のできだった。
もし今後チャンスがあるなら、是非このドラマを見ることをおすすめしたい。
で、ここからは含むネタバレです。
一言で言えば、ずるい
最終回は単純な構成ではない。入れ子とでも言うのか。
見ている人は、どきどき、はらはらしながら画面に釘付けになり、そしてバッドエンドに突き落とされる。
実はこのシリーズには、バッドエンドの伏線は随所にあった。
1話完結でありながら、全体がストーリーとしてつながっていく構成のシリーズだが、機捜のスローガンは『最悪が起こる前に止める』であり、基本いつも最悪が起こる前に止める話になっているが、そうでもない話は随所にちりばめられている。どちらかと言えば、どうしようもない世の中で、それでもほんの少しは光明を見いだしている話、の方が正しいかもしれない。
だが最大の伏線は、伊吹の恩人である退職した刑事が、殺人を犯す話だろう。伊吹が手本とした人情刑事(かつ優秀)が犯した罪は、十分に同情されるものではあるが、しかしその行為は残忍、そして狡猾だった。
本人自身が捕まることを想定しており、逮捕時に覚悟を決めている。そのとき、かわいがっていはずの伊吹も拒絶されてしまう。
一方伊吹の元相棒である志摩は、昔の相棒の不審死にトラウマを抱え、他人に心を閉ざしている。捜査一課のエース級の刑事でありながら、この相棒不審死の件で一線を退く。その後元上司だった桔梗に拾われ、機捜にくる。
志摩を知る者は、彼を信頼しているが、志摩自身はもはや誰に対しても一線を引くように心を開かない。だが、最初はお荷物だと思っていた伊吹のまっすぐな姿が、志摩の心を溶かし、もう一度刑事として前を向かせる。
しかし、仲間の刑事が久住のために大けがを負い、意識が戻らなくなると、志摩の気持ちがまた戻ってしまう。覚悟を決めている彼は、伊吹を巻き込みたくない。伊吹にはまっすぐに進んでもらいたい。そして自分がそうであったように、たくさんの人を救ってもらいたい。
しかしその志摩の思いは、いろいろなすれ違いから全く裏目に出る。
今回の犯人、久住は、様々な名前を使い分け、バックボーンの記録が全く出てこないという詐欺師。有能なハッカーでもあり、新型麻薬を売りさばいてきた。この久住、人の心を操るのが得意。相手のことを調べ上げ、心の隙間をつくのが実にうまい。久住にしてみれば、恩人の犯した罪の事実を受け入れがたく、志摩の支えもなくした伊吹の心を操るなど、造作もなかった。
「昔の俺みたいなやつをまっすぐにさせる」
伊吹の言葉に、
「でもクズはクズやろ。どうしようもなければ殺すしかないやろ」
という久住。それは恩人だった刑事が最後にたどり着いた答えと同じだった。
その後、久住から瀕死の志摩を見せつけられ、志摩が「殺すな」と言いながら死んでいくのを見た伊吹は、ついに一線を越える。
まあ、不自然に何回も映されるデジタル時計は、何らかの伏線だろうとは思ったが、この後完全な夢落ちに突入。
MIUはファンタジードラマではないので、これは禁じ手だろうと思ったが、よく考えたら、夢落ちは以前にもあった。志摩が不審死した元相棒のことを夢に見続ける下りだ。志摩は、刑事として間違いを犯した元相棒を、辞職させた。しかしその後呼び出された時には、刑事だけが人生ではないと励ます。刑事ではなくなっても、いくらでもやり直しはきくと。しかし元相棒はその翌朝転落死している。
志摩はそのときの情景を何度も夢に見ている。
どうして救えなかったかと後悔しながら、その日のことを夢に見続ける。
だが、本当の彼は、呼び出されたときに行かなかった。相棒を励ましもしなかった。彼は何もしなかった。
何度も見ていた夢は、志摩が、あのときこうであったら良かったのにと思い続けた情景が繰り返し描かれていた。夢の中は願望、現実は別。
夢で過去を回想し、トラウマを表現するのはよくある演出だが、この使い方はうまいと思った。そして夢落ちそのものも、ここで複線を引いていたことになる。特にシリーズ後半のMIUは、登場人物の過去を回想するシーンをインサートする構成が多い。こうやって現実と現実でない時間軸を行き来する演出を徐々に増やしていた。
そして最終回の夢落ち。
え、夢落ちか?とは思ったのだが、数々の複線から、意外とすんなり入り込めている事に気づく。
そして、何よりやられたと思ったのだが、そもそもMIUが当初放送されるはずの時間軸では、オリンピックが行われるはずだったという事実だ。たぶんMIUを制作の最初の計画では、オリンピックが枝が買えるはずだったのかもしれない。だがそれが狂ったのは新型コロナの流行だ。
だから、夢落ちの中ではオリンピックが開かれる。だがこれは現実ではない。そう、本当の日本では、オリンピックがなくなってしまっている。
だから、夢落ちの時間軸の狂いは、実に円滑に修正される。
久住のクルーザーに監禁された志摩と伊吹が目を覚ます。
志摩が生きているので、まさに夢落ちなのだが、ファンとしてはほっとすると同時に、自分たちがここ半年で体験した夢落ちを追体験させられていることに気づく。オリンピックの夢は夢落ちだった。現実は新型コロナ流行という別の世界の時間軸を生きている。そしてこの時間軸では、志摩と伊吹は生きている。
オリンピックがなくなった最悪の時間軸でも、いい事はある。。。と
ラストは、新型コロナの流行でオリンピックが飛んでしまったことを話し合う2人。まさかこうなるとはなあ。。。とマスク姿の2人が出てくる。
普通なら夢落ちは禁じ手で、たいていうまくいかない。
ファンタジーで夢落ちを最初から構成要素に組み込んでいない限り、現実を描くドラマで夢落ちは本当に禁じ手で、まず失敗する。だがMIUでそれがうまくいったのは、実は現実の世界が、夢落ちしてしまっていた、新型コロナ流行のおかげだった。
だがもちろんそれは脚本家の折り込み済み。
撮影が難航した故に、脚本を変えざるを得なくなったのだろうけど、どうせコロナが邪魔をするなら、徹底的にやり返してやろうという執念が見える。きっとドラマ制作大変で、その恨みがこもっているんだろう。
ということで、番組の成功と、尊敬の念を込めて。
MIU それはずるいよ。