中国は世界を牛耳る
香港の若い運動家たちが、次々に口をふさがれていく。
しかしそれは対岸の火事ではない。
正直信じられないことなのだが、今回香港で施行された法律は、香港人が中国政府の批判をすることを禁じただけではない。
①香港に在住する香港人を裁く
香港で民主化活動している活動家は摘発を受ける。香港人が香港で中国政府批判をすれば、裁かれる可能性がある。
摘発された香港人は、中国本土に送還される可能性があり、中国本土に送還されたら、行方不明になる確率がかなりある。今までも中国に送還されて行方知れずになった香港人は少なからずいる。
②外国に在住する香港人を裁く
香港人が海外に逃れ、その国で中国政府批判をしても裁かれる。このとき中国は香港人が滞在する国に対して、容疑者送還を求めるだろう。
日本はほとんどの国と、容疑者引き渡しの条例を結んでいない。結んでいるのは韓国と米国ぐらいだ。中国とは結んでいない。おかげで、日本で凶悪事件を起こした中国人が、中国に逃げてしまったとき、引き渡しを求めても、引き渡されない。それでも最近は中国政府との外交的なつながりで、犯人は、中国国内で摘発され、かなり重罪で罰せられるようになってきた。
では中国から香港人の引き渡しを求められたらどうだろうか。
まずは日本人ではないので、日本政府は保護の義務がない。そこで香港人が政治的弾圧を理由に保護を求めたとしたら、普通は日本政府が保護するはずだが、それほど簡単ではない。まず日本政府はかねてよりこの手の保護に消極的だ。かつての日本は保護しない国で、世界中から批判を受けていた。だから最近は保護するようにはなってきたが、罪状が言論弾圧だけならまだしも、テロとか、騒乱とか、その他の罪を並べられたときも保護を貫けるかは疑問だ。
さらに、中国政府が、中国在住の日本人、もしくは日本人の逮捕者(現在中国政府は日本人を複数人逮捕して拘留してる。中には単なる見せしめ的な逮捕もあり、無実の人もいる)こうした人たちを人質に、送還を求められたらどうだろうか。香港人を引き渡さないなら、日本人を殺すと言われたら、日本政府はどうするのか。邦人保護を優先するのか。結構微妙だと思う。
③香港に在住する外国人(日本人)、さらには香港を訪問した外国人(日本人)を裁く
この法律は外国人にも適用される。香港で、中国批判をすれば捕まる。
さらに、もし日本で日本人が、中国政府批判をして、香港を訪れれば、日本での行為を理由に捕まる。
さらにこの法律施行前、たとえば去年、たとえば10年前、たとえば20年前、たとえば香港返還前に、日本で中国批判をしていたとしても、今香港を訪れれば、過去の行為を理由に捕まる。そういう適用が可能になる方向だ。
遡及は刑法として禁じ手だが、それをするそうだ。
④日本にいる記者が中国批判をすると、その新聞社が香港に支社を持っていると、在香港の記者が捕まり、支社は中国から違約金を求められる。
先日テレビに出ていた古参の記者がこういう話をしていた。既に一線を退き、フリーランスで記事を書いている人だったが、もし新聞社にいる時代なら、ここで中国政府批判は出来ないと言っていた。それをすると、在香港の同僚が捕まるからだ。しかも新聞社は、中国から違約金(罰金か)をとられることになっている。
中国は、海外で中国批判をされることを封じようとしている。
おそらく香港から各国のマスコミが拠点をなくしていくかもしれない。
そうなると、香港内での反政府運動は報道されなくなっていく。海外の人々がそれを知る機会が失われる。結果として運動は弾圧される。そういう構図だろう。
この法律の対象はマスコミだけではない。あらゆる業種に及ぶ。金融機関でも、同じ事が起こるそうだ。金融上の様々な情報は、時として中国政府から干渉を受けることになる。結果として香港での金融業は難しくなるそうだ。
⑤日本にいる日本人が中国批判をすると裁かれる。
ここまで来ると冗談としか思えない。
これはマスコミだけでなく、一般人にも適用される。
日本で現在、もしくは過去に、1年前、5年前、10年前、香港が返還される前であろうと、中国政府批判をすると、それを理由にその日本人は中国政府から摘発される。そして中国政府は、日本政府には、犯罪者の引き渡しを申し入れる。
日本政府は、邦人保護の観点から引き渡さないだろうし、引き渡し条例を中国と結んでいないので、その義務もないし、現在の日本の情勢からは、引き渡されることは一応ないだろうけれど、これはそのときの日本政府の方針による。
そして日本政府の方針は、それを構成する政治家の方針であり、それは国益と称しつつ、政治家個人の自益に左右されることが多い。
かつて日本にはキングメーカーとして有名な政治家がいた。金丸というのだけれど。この人は北朝鮮政府と関係が深かった。招かれて贅沢な待遇で歓迎されたことが少なからずあった。
この人が政治的に力を持っていた時代、日本は拉致事件を認めていなかった。すべて単なる失踪者として扱われ、拉致被害者の運動は無視されていた。政府もマスコミも同じ態度だった。
金丸が失脚して、政府の方針が変わって、拉致被害者は国民全体の問題となったが、このように、政治家個人の利益によって、国の方針はずいぶん変わるし、そのために被害を受ける邦人も多い。
現在この状況下でも、政府はまだ習近平を国賓として招く事を中止していない。コロナを理由に延期しているだけだ。今後、政府要人の意図によって答えが変わるわけだが、習近平が国賓として招かれるなら、日本国内での中国批判は政府に好まれないだろうし、中国がそれを理由に犯罪者引き渡しを求めてきたらどうするのだろうか。
現在中国は複数人の日本人を国内で逮捕している。
理由はスパイ容疑だが、その多くはスパイに関係なく、中国の地方行政に求められて、仕事で中国を訪れていた人たちだ。日本政府はその返還も果たせていないのに、習近平の国賓事業を勧めていた。
もうほとんど、冗談のような話だ。
中国は中国批判を誰にも許さないと言うことだ。そんな権利どこにあるのかと思うが、ある在日本の中国人学者が言っていた。
中国共産党は、共産主義こそ最高の政治体制であり、それを世界に浸透させ、世界中の人々が、中国共産党の屋根の下に入ることが理想としている。
まあ、中国大陸の血で血を洗う革命の歴史を考えれば、当然の思想かもしれないが。中国のトップをとる者たちは、常に逆らう人々を根絶やしにしてきたから。
それは中国の妄想なのだが、被害は世界に及んでいく。