こんな時だから、リーマンショックの頃の話をしてみる。
ATOUN史上最恐の時期を乗り切った時、リーマンショックの頃の話である。2020年に入ってから吹き荒れる新型コロナ旋風のこの時期に記しておくべきかと思いキーをたたいた。
2008年9月のリーマンブラザーズの経営破綻をきっかけに、世界的な金融危機が連鎖的に発生した(と言われる)リーマンショックは、世界中でお金の流れが止まった。小さい会社だが、われわれにも大きな波は押し寄せてきた。当時、創業5年目だったATOUNの様子を振り返ってみよう。
2008年9月に医療分野で使うパワードウェアの研究開発プロジェクトがちょうど終わり、並行して進めていた製品開発プロジェクトを実装フェイズに移行する時期となっていた。とある製造会社が部品の製造工程で使うパワーアシスト装置のプロジェクトで、量産ラインの全面リニューアルに合わせ、開発したパワーアシスト装置がラインに組み込まれる予定であった。この他にも、規模の小さな仕事も含め、多くのプロジェクトは2008年の除夜の鐘を聞くことはなかった。しかし、好材料もあった。2008年度で終了するプロジェクトが重なっていたため、手元資金がある程度プールされている状況ではあった。考える時間が稼げるという意味でありがたい状況だった。ほとんどの決断にそれほど時間をかけないのだが、この時は準備不足で決断するに必要なほんの少しの情報もなかった。これは、今日の状況と似ている。
全てのお金の流れが止まるなと感じたとき、パナソニックの創業者である松下幸之助創業者(パナソニック系の人の呼び方)の「雨が降ったら、傘をさす。」という言葉を思い出した。私がパナソニックに入社した頃は、まず2週間の導入教育があり経営理念について何度も議論をするところから会社生活が始まっていた。次に、1か月半の製造実習を経て、2か月半の販売店実習と長丁場だ。配属された事業場の研修が始まるのは9月以降になる。この経験のためなのか、幸之助さんの言葉が浮かび、考えることと並行して水道の蛇口(不要不急の出費)を止める作業は即座に行った。文字通り、傘をさしたのである。しかし、これが幸之助さんの言う傘とは到底思えず、考えた末に私の出した答えは、すぐにお金に変えられるものはお金に変えてしまい、日差しが見えるまでに新しい傘の材料を探し始めるという解釈であった。雨傘は、平時には日傘になる。
会社にとって傘ってなんだろうって考えると、結局は現金でしかない。たくさんの現金があれば、傘は大きくてまったく雨に濡れることはない。逆に、少ししかなければ、傘は小さく濡れた衣服は体を冷やし病気になる。そう考えると、蛇口を絞った次は、タンクに水をためること。普段からためておかないといけないが、絞った後にもタンクに水を貯める努力を怠ってはいけない。だから、すぐにお金に変える作業から入る必要がある。私がやったのは、小学生向けの理科教材の立ち上げだった。社内で売れるものがないか探しに探したら、空気圧で動作するゴム人工筋があり、骨と筋肉の動きを学ぶ教材として販売できることに気づいたのだ。これには、友人が関わる化学技術系ベンチャーが自分たちの技術を理科教材に転用していたことがヒントだった。ケニス株式会社の骨と筋肉の動き実験機は、発売同時に好評であり、経済対策も後押しとなり年間で数千セット販売というスマッシュヒットを飛ばすことになる。今でも多くの小学校で使われ、ATOUNの隠れたヒット商品となっている。
https://www.amazon.co.jp/理科実験-160-750-骨と筋肉の動き実験器-%EF%BC%A1%EF%BC%AC/dp/B00GZBRMM2
繰り返しになるが、雨傘は平時には日傘になり、ステッキになり、矢を防ぐ盾などさまざまな使い道がある。 2009年になり、リーマンショックから半年も経過すると、風のない鏡面の水面のようであった世の中も少しずつ波紋が見え始めた。理科教材が好評であったこともあり、雨が上がった後の準備に着手した。それが、パワードスーツNIOなのだ。その後、NIOは、ATOUNの代名詞になり、NIOをきっかけに様々なプロジェクトが生まれた。リーマンショックをきっかけにして、ATOUNは新しい傘を手に入れることができた。
いま、新型コロナで世の中は混沌としているが、人類が過去にウィルス禍を克服してきたように、新型コロナに勝利できる時がくることは間違いない。であれば、新型コロナ禍を機に、社会も会社も個人も、考えに考えて今までと違う新しい傘を手に入れる努力をすることが、産業や文化のさらなる成長に繋がるのではないかと思う。これからは、新型コロナ後に向けて、個々が今までにない新しい取り組みを進め、みんなで新しい社会を一緒に築いてゆければ、きっと素敵な未来が開けるにちがいない。
『STAY HOME & ENJOY THINKING』
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