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小山薫堂さんから学んだ「相手を想いはかる」ということ
さて、前回の記事で「天草」の人々に出会ったことで人生観が変わったことを書きましたが、他にも、オレンジ・アンド・パートナーズで過ごした日々によって変化した価値観があります。
それは、「相手を想いはかる」ということです。
仲間のバースデーサプライズは全力で
オレンジ・アンド・パートナーズ(以下「オレンジ」に省略)は小山薫堂さんが代表を務める企画会社です。
オレンジのミッションは、
「アイデアや企画を通して、新しい価値を創造し、人と社会を元気に幸せにすること」。
また、オレンジで仕事をする上での問いは3つ。
その仕事は新しいか?
その仕事は楽しいか?
その仕事は誰を幸せにするか?
どの問いが欠けてもダメですが、私は3つ目の問いが最も叩き込まれたと思います。
それを体現していたのが、「社員のバースデーサプライズは全力でやる」という文化。企画を生業にしているオレンジの基礎であり、企画を考える上でいつも立ち返る原点です。
目の前にいる相手を幸せにできなかったら、
企画でたくさんの人を幸せにすることなんてできない。
目の前にいる仲間を幸せにできなかったら、
仕事でたくさんの人を幸せにすることなんてできないのです。
社員が約20名ほどでしたので、毎月誰かしらのバースデーサプライズを実施していました。
通常業務も忙しい中で、社員のバースデーサプライズの準備をするという、
正直どっちが仕事なのか分からないほど、毎回、準備に追われていました。
どんなサプライズがいいかを考えるためには、
相手が何に喜びを感じ、今相手にとって大事なことは何なのかを、
日頃の相手の様子を観察することから始まります。
そして、どんなタイミングでどんな風にサプライズを仕掛けるかも重要。
相手に気づかれることがないよう、
あの手この手で細心の注意を払って決行日を迎えます。
例えば…
2018年の薫堂さんの54歳のバースデーは、題して「KOYAMA EKIDEN」。
当時薫堂さんが喜ぶことは、「グループ企業のみんなが一致団結すること」であろうとテーマを設定し、“54歳”にかけて、奈良県某所から東京まで山アリ谷アリの総距離約540キロをグループ企業のみんなが襷を繋いで走り抜き、薫堂さんにプレゼントを届けるという企画。
もちろん、走っていることを最後まで薫堂さんにバレないように。
そして、みんなが走っている様子を映像化しバースデーディナー会場でお披露目。
その映像が完成していると思いきや、最終走者が走っているLIVE映像が会場内に流れ、ディナー会場に最終走者がゴールし、その感動を会場みんなで味わいました。
私も実際に名古屋の山奥を約10キロ走りました。
…そんなバースデーサプライズを繰り返しているうちに、
相手が喜ぶことを考えること=相手を知ること=相手を想うこと
つまり「相手を想いはかる」とはどういうことなのか、
当時はそこまで深くは考えられていませんでしたが、
いつの間にかバースデーサプライズを通して学んでいたようです。
今思えば、こんなことを繰り返し経験していたあの時間が私にとって、とても大事だったんだと思います。
薫堂さんの言葉をお借りすると、
「義務感や生半可な気持ちで取り組んでも、決してうまくいきません。
サプライズには、相手のことをよく観察して想いはかること、
つまり相手に対する "愛" が必要なのです。」
相手を愛おしく想う
そのように、バースデーサプライズを経験したことが、
仕事はもちろん、日常生活にもいつの間にか影響されていました。
それは、会社で一緒に働く仲間に対する想いです。
特に後輩に対する想いでした。
新卒で入社したトレンダーズでも、オレンジでも、
後輩の指導という役割を担当させてもらった時期がありますが、
今思うと、下手な接し方をしてしまっていたなと
当時の後輩がかわいそうになります。
「なぜできないんだろう」
「どうして、私のようにできないんだろう」
と自分を基準にして相手ができない理由ばかりに目がいってしまっていました。
当時の私は、愚かでした。
相手ができることや得意なこと、この人しかできないこと
相手が持つ魅力を、どうしてもっと見てあげられなかったのだろう。
「愛」がなかったわけではないはずですが、
いま思えば、愛を持って接することができていなかったのです。
愛を持って人と接すると、見えるものがまるで違ってきます。
どんな人にも個性があり、性別や国籍だけでなく、性格や価値観、ライフスタイル、その人を作り出すすべてが個性。
個性がない人なんていないし、個性に優劣なんてない。レベル分けするものでもない。
みんなそれぞれが唯一無二の魅力を持った1人の人間であるはずです。
そう気づいた途端に、
目の前にいる後輩を始め、社員のみんな、仕事で関わる方々への愛おしい気持ちが生まれました。同時に、パーッと視界に映るものがあたたかく変わっていったのです。
目の前にいる相手に優しい気持ちになれることが、
自分にとってこんなに心地よいものだとは知りませんでした。
この人って、こんな魅力があったんだ!
この人って、ここが凄い!
たちまちに目の前にいる人が愛おしくなったのです。
(Z世代ど真ん中の新卒ルーキーM・Eさん。毎日、会社までの道のりで草花を詰み、その草花でオフィスを彩ってくれていました。)
愛から生まれた、私のやりたいこと
そうすると、人だけではなく商品やお料理一つとっても、
見方が変わっていきました。
ーこの野菜は誰がどんな想いで育てたのだろう
ーこの商品はどんな想いで生まれたのだろう
ーこのお料理はどんな想いでつくられたのだろう
ーこのお店をつくった人はどんな想いだったのだろう
人に優しくなれなかった自分が、
まさか、こんなにも人やものに愛おしい気持ちを持つなんて、想像もしませんでした。
そして、そこから私がやりたかったことを改めて再認識したのです。
自分は何か作ることはできないけど、
モノやサービス、場所など、それぞれに込められた想いを、
誰かに伝える役割を担いたい。
誰かが愛を込めて生み出したものを、
私の愛情も乗せて、他の誰かに届けたい。
フリーランスとなった今、いろいろな業種のお仕事をすることになると思いますが、すべての仕事で私の愛情を乗せて誰かに届ける役割を担いたいと思っています。