Quoraより転載: 「逆境や難局・どん底から、起死回生で人生をこじ開けた。そんな知られざる実在の人物のエピソードを教えてくれませんか?」へのアンサー
自分的には、不可思議/wonderboyかなと。
不可思議/wonderboyは、埼玉出身のポエトリーラッパーで、ニッチもニッチ、コアもコアな「ポエトリーラップ」というジャンルで戦うことを決めた23歳の青年です。
フツーの家庭に生まれ、フツーの学生として育ち、進学校である埼玉県立川越高等学校を出て大学に進み、その後の人生として幾らでも楽で平坦な道もあったはずなのに、なぜだかただのサラリーマンではなく、路上ポエトリーラッパーという道を選びます。
路上で、見向きもされないポエトリーラップを聞かせ続けた彼。最終的に会社も辞め、退路を絶って自身を奮い立たせようとした彼。
そんな彼がメジャーシーンへの一縷の糸を、起死回生の世界線を手に入れたのは、2011年1月29日に原宿クロコダイルで行われた谷川俊太郎のイベント「俊読 ~ shundoku 7」でのパフォーマンスでした。
同イベントは谷川俊太郎の詩を出演者が思い思いに表現するというコンセプトで、谷川俊太郎本人も登場することから、チケットは毎回即日売り切れという、注目度の高いステージです。
当初は出演者として、
谷川俊太郎(詩人)
下総源太朗(俳優・演出家)
松元夢子(俳優)
ジョニー大蔵大臣(ミュージシャン・水中それは苦しい)
飯田華子(紙芝居・YSWS主催)
ヒエ(一人芝居)
桑原滝弥(詩人)
この7人がクレジットされていたのですが、2010年12月に行われたYSWS(YOKOHAMA SPOKEN WORDS SLAMの略で、ラップ・詩歌・漫談ポエジー・下ネタ言葉などが競う、言うなれば「コトバと声の表現の異種格闘バトル」のようなイベント)で第二期グランドチャンピオンに輝いたラッパーとして「不可思議/wonderboy」が急遽エントリーに追加されたという経緯があります。
そんなこんなで出演を果たしたイベント「俊読 ~ shundoku 7」の会場で不可思議/wonderboyが披露したのが、このポエトリーラップでした。
谷川俊太郎の「生きる」をリミックスしたこの作品。
御大の作品をスタンドアップや、弾き語り、紙芝居や芝居にしたプロ表現者の中にあって、このポエトリーラップは会場を大いに沸かせたといいます。
その数日後。
先般のイベントでの反応に手応えを感じた彼は、無謀にも谷川俊太郎に「先日のイベントでの『生きる』のリミックスを音源として販売させてほしい」とメッセージを送ろうと思い立ちます。
谷川俊太郎本人に向けてFAXで連絡を入れた彼は、そのときの様子をインタビューで語っています。。。
さすがの谷川俊太郎!
ちなみに谷川は日本ビジュアル著作権協会の会員として、著作権擁護に熱心に取り組んでおり、2007年には受験教材に勝手に作品を掲載されたことに対し著作権を侵害されたと訴訟を起こしたこともあります。そんな谷川なので、不可思議/wonderboyの申し出を是認したのは、真に彼のポエトリーラップに詩作の創造性を感じたからなのではないかと想像します。
そんなこんなで谷川俊太郎のお墨付きをもらった不可思議/wonderboy。
音源は奇しくも、東日本大震災の3日後の2011年3月14日に自主制作シングル「生きる」として50枚限定で販売され、わずか一晩で完売したといいます(ちなみに売上はすべて東日本大震災の義援金として寄付された)。
こうして、ポエトリーラップというマイナーなシーンでしか知られなかった存在から、音楽業界というメジャーシーンで、一躍スポットライトが当たる場所に片足を踏み込んだ不可思議/wonderboy。
この幻の自主制作シングル完売から2ヶ月足らずの2011年5月4日には、念願だった1st Album「ラブリー・ラビリンス」の販売も決まり、HMVから単独インタビューまでされる身分に!
ちなみにラブリー・ラビリンス収録の楽曲は以下の通り。多くの楽曲はYouTubeでも公開されているので、このあといくつか紹介をしていきましょう。
01. もしもこの世に言葉がなければ
02. 未知との遭遇
03. 銀河鉄道の夜
04. 迷宮Ⅰ
05. タマトギ
06. 君(能動的3年間)
07. 風よ吹け
08. 偽物の街
09. Pellicule
10. 迷宮Ⅱ
11. いつか来るその日のために
この中でも、「Pellicule」は名曲として、多くの音楽関係者の間でも話題になりました。
といったわけで、東日本大震災の騒乱の裏側で、こんなふうに人生を変えていた彼、不可思議/wonderboyとこのエピソードこそが、逆境や難局・どん底から、起死回生(谷川俊太郎へのFAXという一手)で人生をこじ開けた、そんな知られざる実在の人物とエピソードと言えるのではないでしょうか。
『銀河鉄道の夜』
『いつか来るその日のために』
『タマトギ』
『世界征服やめた』
そんな不可思議/wonderboyですが、念願のアルバム発売からわずか1ヶ月半後の6月23日に交通事故に遭い、23歳という若さでその生涯を終えてしまいます。
ちなみに、死の直前に完成したという未発表曲「火の鳥」には、こんな一節が歌われていました。
「死ぬ気でやれば生は輝く」
そのリリックの通り、死ぬ気でポエトリーラップに向き合い、遮二無二、無理矢理に自分自身の人生を輝かせた彼の楽曲は生き続け、多くの人の心を掴み、彼のポエトリーラップとその足跡・生き様と出逢った人のことを今も勇気づけ続けています。
『火の鳥』
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