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スリッパを探しに行っただけなのに

 動揺が収まらないまま家に帰って来た。ショック、失望、驚き、混乱、なんだったんだあれは・・・ぴったりくる言葉が見つからない。
 
 スリッパを探しにお気に入りの雑貨屋に行っただけのはずだった。楽しく買い物をして帰ってくるはずだった。こんな気持ちで帰宅するとは、出かける時は思いもしなかった。
 
 お気に入りの雑貨屋さん。そんなに頻繁に買い物をするわけではないけれど、コースターやポストカード、スリッパなど、ちょっとした雑貨を購入していた。海外から買い付けているらしい素敵な小物たち。特にクリスマスの時期は、見ているだけで楽しく、クリスマスマーケットみたいな存在だった。
 
 そんな雑貨屋に久しぶりに行くと、入口を椅子が塞ぎ、「入場制限しています」と書いた案内が。コロナ禍ではよく見た光景だが、店内を見てもお客さんは二組ほどしかいない。しばらくして、いつもの店員さんが、お客さんを見送りに外に出て来た。
 
 「中入れますか?」
「何をお探しですか?お客様について接客をしながら見て頂くようにしていますので。」
「冬の暖かいスリッパを探しているのですが。」
 
 スリッパを探していると伝えたのだが、あまりよく分からない説明をされ、積極的に店内へどうぞといった感じはない。
 
 店頭にもいくつかスリッパはあったのでそこから選び、お会計となったタイミングでやっと中に通された。その時点で何か変だなとは感じていた。店内にはご年配の夫婦らしいお客さんが1組いるだけ。今までは週末となればとても賑わっていたのに。
 
 お店の雑貨達は相変わらず素敵で、でもあちらこちらに「触らないで下さい」という注意書きがあった。きっと誰かが落として割ったり、何かトラブルがあったのかなと想像したりしていた。
 
 スリッパはレジに持って行かれたのに、なぜかお会計とはならずに、店内にあるスリッパの説明が始まった。初めから見せてくれたら良かったのに、なぜ決めてからいろいろ見せられるのかよく分からなかった。
 
 すてきなバッグがあったので、「バッグはどんなのがあるのですか」と聞いてみると、こちらですと案内された。そこから経験したことのない接客を受けることになる。
 
 置いてあるバッグを手に取ろうとすると、
「気になる物があればお伺いしますのでおっしゃって下さい」
と言われたのだ。そこにはあきらかに「触らないで!」という圧が込められていた。他の物を手に取ろうとしても同じ事を言われてしまった。
 
 その店員さんとは何度か会話をしたことがあるので、とてもびっくりしてしまった。以前は「どうぞお手に取って、いろいろ試してみて下さい。鏡はこちらです。」といった感じだったのだ。
 
 バッグの値段は5千円ほど。高級店でも手に取って見られるのに。こんなことってあるだろうか。オンラインショッピングの方がもっとよく見られるのではと思うほど、本当に眺めるだけなのだ。上からぶら下がっているバッグも「すてきですね」と言っても、見上げたまま説明するだけ。
 
 すてきなバッグだったので本当に残念だった。手に取って気持ちよく見させてくれていたら、きっと買っていたと思う。これで買う人がいるのだろうかと思ったが、前にいたお客さんが4万円ほどの買い物をしていた。今後はたくさん買ってくれる、お金持ちのお客様しか相手にしないってことなのか、とにかく残念な気持ちになってその店を出た。
 
 初めてのお店だったら、あーこういう店もあるんだ!くらいで終わったのだけれど。何度か通っていて、いつも気分を上げてくれていたお店だったので、とても残念で悲しい。
 
 私がもっとちゃんとした格好をしていたら良かったのかとも思ったけれど、きっとそういう話ではなく、経営が上手くいっていないのだろう。今までも、接客がおかしいなと思った店が、その後しばらくしてなくなることが何度かあった。
 
 私を元気づけてくれたそのお店の雑貨達。しばらくは見る度に思い出してしまいそう。本当に本当に残念で悲しい。

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